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銀白色の涙  作者: どらえもん
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福島第一原発に異常あり

 福島第一原発に異常あり


 津波の被害状況の報告を受けながら、福島第一原発の免震棟で、1号機の様子がおかしいことに吉田所長は気付いていた。通常なら制御棒を注入してから徐々に下がっていくはずの原子炉内の温度がなかなか下がらなかったのだ。

「非常電源の様子はどうなっている?」

そこへ1号機から戻った職員が慌てた様子で報告を入れた。

「1号機の地下に置いていた非常用のディーゼル発電機は15機全部、津波で水没して使い物になりません」

「なっ、動かせるのは、何機残っている?」

「今動いている1機だけです」

「なんてこった。それはあとどのくらい保つんだ?」

「保って2、3時間ぐらいかと・・・」

吉田は、天を仰いだ。少しして、気持ちを落ちつけるように、深くひと呼吸すると、おもむろに言った。

「本社に言って、経済産業省に報告してもらう。(全電源喪失の恐れがある場合に報告を義務付けた原子力災害対策特別措置法)10条事態だと」

吉田の報告を受けた東都電力本社は、経済産業省原子力保安院に福島第一原発が「全電源喪失が予想される状態にある」ことを報告した。午後3時42分のことだ。

経済産業省は、緊急事態マニュアルに従い、同省地下のシェルターに「原子力災害警戒本部」を設置し、首相官邸の空江田経産相にその旨を連絡したが、菅原首相にはこの時点では連絡を入れていない。緊急事態マニュアルが「主務大臣」に連絡するとなっており、経産相が主務大臣だったからだ。主務大臣が「不在」のため、この時点で本部を取り仕切っていたのは、経済産業省の事務次官だった。

菅原首相に秘書官から「津波で外部電源喪失」の連絡が入り、首相官邸に「官邸対策室」が設置されたのは、午後4時36分のことだった。

吉田から「ECCS(非常用炉心冷却装置)に冷水を注入するための非常用電源はあと1時間半ぐらいしか持たない」という報告を受けた東電本社は、午後4時45分、原子力災害対策特別措置法第15条に基づく「原発緊急事態」を原子力保安院に報告した。

法律上は、15条に基づく報告がなされれば、問答無用でただちに首相が「原子力緊急事態」を宣言し、首相を本部長とする「原子力災害対策本部」が設置されなければいけない。しかし、ここで原発事故の初動対応の遅れにつながる「空白の1時間半」が発生した。

「原発官僚のトップが過去に反原発の市民運動に参加していた菅原首相に報告するのを嫌って、非常用電源を切らさないようにと超法規的に東電に指示した」という内部証言があるが、東電側は黙して語らない。事実として、午後5時に東電から数十台の電源車が福島第一原発に向けて出発したが、地震で発生した大渋滞に巻き込まれていた。

非常用電源の燃料の灯油が切れ、福島第一原発の1号機が「全電源喪失」に陥ったのは、午後6時すぎのことだ。そこに至ってようやく菅原首相に東電から15条報告があったと伝えられる。そして、経済産業省地下シェルターの看板が「原子力災害対策本部事務局」へとひっそりと書き換えられた。


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