火力発電所で火災、原発に異常なし
火力発電所で火災、原発に異常なし
「早く報告しろ」
午後3時すぎ、首相官邸地下のシェルター「危機管理センター」で、菅原首相は怒鳴っていた。緊急事態でも「30分以内」に集まれる場所にいるはずの閣僚の集まりは悪かった。しびれを切らして自分で未到着の閣僚に連絡を取ろうとした菅原は、携帯電話がつながらないことに苛立ちを募らせた。シェルター内は通信電波が遮断されていることは、この時点では知らなかった。午後3時7分、多くの閣僚が集まらない状態で「緊急災害対策本部」の会議が見切り発車で始まった。
公式記録で「本部立ち上げ」が午後3時7分であるのに、全閣僚参加の「本部会議開始」が午後4時12分となっているのは、このためだ。会議の大半の議事録も作成されていない。
「原発はどうなっている?」
菅原が真っ先に報告を求めたのは、原発の状況だった。
「はい。被災地域で稼働中の原発は、女川、福島第一、福島第二ですが、東海村も含めてすべて自動的に制御棒が注入されて、原子炉は停止し、スクラムされた状態だという報告が来ています。異常の報告はありません」
「広野ほか火力発電所のいくつかで火災が発生し、現在延焼中という報告があります。原発と火力の停止が長引けば、現在停電中の被災地の復旧にも時間がかかることが予想されます」
「電力会社の送電線が各地で寸断され、北東電力への各電力会社からの電力の融通ができなくなっています。通信会社の基地局にも影響が出ていて、各地で携帯電話が繋がりにくい状態になっています。」
「東北自動車道、国道は各地で土砂が崩れ、道路に亀裂ができて寸断されています。孤立した集落がいくつもあり、地上からの物資の輸送は困難で、自衛隊のヘリの出動要請が宮城県などの知事から来ています」
「仙台空港は津波で浸水し、管制塔にも被蓋が出て、現在閉鎖されています。滑走路に瓦礫などが散乱していて復旧には時間がかかるものと見られます」
取り急ぎとりまとめられた被害状況を各省庁の担当者が報告していく。遅れて参加した空江田万里経済産業相が「もう始めちゃったの?」という少し呆れた顔をしながら、自分の席を見つけて着席した。
「自衛隊に被災地への災害出動命令を出すように。孤立した集落の人命救助が最優先だ」
菅原は、北川俊美防衛相にすばやく指示していった。