脱原発でなければ国が滅ぶ
脱原発でなければ国が滅ぶ
「ついでに、教えておくと、アメリカは中国に対して、絶対に核戦争は仕掛けない。だから米国の核の傘に頼るというのは、幻想でしかない。これは、ハーバード大学院に留学していた時にケネディースクールの同級生だったDIA(国防総省情報総局)の中佐から聞いた話だ。当時、ペンタゴンは最新のシミュレーション装置を使って、様々なシナリオによる核戦争のシミュレーションをしていて、私も誘われて参加した。1988年2月の事だ」
DIAは、アイゼンハワー大統領の時代に作られた情報機関で、予算規模はCIAの約三倍。議会に決算報告して承認を求める必要がなく、ウサマ・ビン・ラディン暗殺などの米軍の秘密軍事行動は、DIAによる情報の収集分析がカギになっている。町田は、諭すように低い声で続けた。
「私が参加したのは、インドとパキスタンの間で戦術核兵器が使われ、それがヨーロッパに広がるというシナリオだった。それ以外でも、ペンタゴンは何十万回もシミュレーションを繰り返して結論を出した。何度保有する核兵器を打ち尽くすシミュレーションをしても米ソは相打ちになる。米中は、必ず米国が負ける。米国の残存人数がシェルターに逃げる約300万人なのに、中国は必ず1億人以上が生き残る。中国の内陸部は山がちで、いくら原爆を落としても、山の裏側で人が生き残る。地形と国民の数の多さが中国の強みで、核戦争をしても米国は中国に勝てないことが分かった。だから中国とは核兵器での戦争はしないと決めたんだ。ちなみに、米中戦争のシナリオだと、偏西風で風下の日本はほとんどが死の灰で放射能汚染されて人が住めなくなるという話だった。米国が勝てないのに、日本がやっても同じ。それでも対中国で核武装するために、原発推進なんていう奴は、頭が狂っている。自殺行為だ」
実際に、米国はレーガン政権末期から核戦争で攻撃対象になる地上配備の大陸間弾道弾をすべて廃棄する方針を決め、ソ連と戦略核削減(START)で合意した。1997年以降は、戦略核兵器は敵に位置を把握されにくい原子力潜水艦搭載のものに限定していく戦略核削減計画を実行している。
「米ソがSTART合意で廃棄した核兵器の燃料が今どこにあるかわかっているのか?」
「いえ、知りません」
「日本だよ。プルトニウムに再精錬されて、日本に集められている。このままでは、日本は世界の核のゴミ捨て場になるぞ。世界のプルトニウムの8割が日本にある。プルサーマル計画なんて夢物語で、何も道筋が見えていないじゃないか」
「ゴミ捨て場は、言い過ぎでは・・・」
「何もわかってないな。IAEAの会議で福島がレベル7に指定された時、会議の裏で何が話し合われていたか、聞いてないのか?」
「いいえ。知りません」
「米英とフランスの代表が集まって、こそこそと『福島のためにレベル8を作ろう』『そうすれば各国が資金を拠出してフクシマを核のゴミ捨て場にできるかもしれない』って、そんな話をしていたんだぞ。日本の代表が聞いていたのに気が付いて、それ以上の話にはなっていないが。核のゴミをどうするか、世界中が答えを出せないでいる。日本の原発の収支も事故の収拾や核のゴミ処理に何万年とかかる費用を計算に入れたら、全く成り立たない。この国は、脱原発に向かわなければ本当に滅びるぞ」
町田の剣幕に課長たちは黙り込むしかなかった。
「今日は、原子力保安院は廃止すべき組織だというのがよく分かった。そもそも経済産業省という原発推進官庁の中に原子力規制官庁を置くのは、完全に利益相反だ。私は、金融国会で野党提案の議員立法を成立させて、大蔵省から現在の金融庁を切り離してインサイダー規制をする証券取引等監視委員会も金融庁に移した。財務省は国債を発行して金融市場から資金調達する究極のインサイダーだから、それがインサイダー規制をすること自体が利益相反だった。世界では笑い話だ。君たちの役所は、つぶす。以上だ。帰ってくれ」
町田に追い出されるように、3人の若い原発官僚は部屋を出て行った。
その後、菅原内閣を引き継いだ野山内閣で、原子力安全・保安院は廃止され、代わりに首相直属の独立性の高い原子力規制委員会が設置された。それを推進したのは、菅原首相に東電本社の夜番を命じられて眠れない日々を過ごした細川豪志環境相兼原子力行政担当相だった。




