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銀白色の涙  作者: どらえもん
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東電幹部の内部告発

 東電幹部の内部告発


 4月12日、国際原子力機関(IAEA)は、福島第一原発事故に対する国際原子力事故評価尺度(INES)で最も深刻な事故に当たる「レベル7」に引き上げた。それまでレベル7は、チェルノブイリ原発事故だけで、報道機関は「福島はチェルノブイリと並んだ」(ロイター通信)などと伝えた。

 4月20日、福島第一原発の1号機から4号機の廃炉が正式に決まった。続いて5月14日、計画中だった福島第一原発の7・8号機の建設中止が決まり、稼働中だった静岡県の浜岡原発の4号炉、5号炉の運転が停止された。いずれも菅原首相の強い意志によるものだった。しかし、原発官僚はこれに反発して「菅原降ろし」に動き出していた。

 5月中旬のある日、町田の下を一人の東電社員が訪ねてきた。入り口で差し出した名刺には「経営企画課長」とあった。

 「町田さんは、菅原総理の元政策秘書で懐刀と言われた方ですよね?」

 「そうですが」

 「どうしてもお話したいことがあって」

 「いいですよ。どうぞこちらへ」

 町田は、課長を応接室に案内してドアを閉めた。

 「話というのは?」

 「実は、社内でシミュレーションした結果、菅原総理がヘリで現地に飛んだ時に、すでに1号機はメルトダウンしていて、5分で致死量に達する放射能を浴びていた可能性があるという試算結果が出たんです。社内ではこの情報は隠すことになったんですが、そんな非人道的なことはできないと思って。町田さんから総理に伝えて、すぐに病院で検査を受けるように言っていただけませんか?」

 「ありがとうございます。でも、私からは伝えません。もともと現地にベントを指示しに行ったわけですから、放射能を浴びることぐらい覚悟しています。それに、私には10年後も菅原さんが元気に選挙を戦っている姿が見えていますから。大丈夫ですよ」

 「えっ、いいんですか?」

 「ええ、体が覚悟の塊でできていますからね。俗にいう世に憚るタイプというヤツで。放射能ぐらいじゃ、びくともしませんよ。ははは」

 「実は、先週の取締役会で、うちの広報予算を使って菅原降ろしをすることが決まって、すでに広告会社が動いていろいろ情報を流しています」

 「ああそれで、ネットでおかしなアンチ菅原情報が垂れ流されているのか。事故の最中にホテルで豪華な会食をしていたとか。旧満鉄調査部(D2)の仕業かな。首相動静を見れば、公邸にも帰れてなかったことぐらい誰でも確認できるのに。公邸から着替えを差し入れしていた伸子さんがボヤいていましたよ。むしろ本人は、火力発電が復旧したのを見計らって浜岡原発を止めたことで、原発稼働ゼロでもこの国がやっていけることを証明できたと、ほくそ笑んでいるんじゃないですか」

 「うちの会社が悪口をバラまいておきながら、言うのは憚られるのですが、世間がどう思おうと、私は東日本を救ったのは、菅原さんだと思っています」

 「奇遇ですね。私もそう思っています。菅原さん以外なら、誰が首相でも東日本は危なかった。本当に紙一重のところで、東電を官邸の占領下に置いた。あの決断がターニングポイントでした。これだけ原発官僚に足を引っ張られても東日本が残っているのは、菅原さんのおかげです」

 その後、町田は、1号機がメルトダウンしている最中も東電本社が避難確認の電話をしていたこと、会長の指示で1号機のベントが遅れたことなど、貴重な内部告発を課長から聞いた。内部告発者も、3月12日未明から社長室で避難確認の電話をかけていた一人だった。


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