倒壊する鉄塔、押し寄せる津波
地震発生から41分後の11日午後3時27分ごろ、福島県双葉郡大熊町の東都電力福島第一原子力発電所に高さ4メートルを超える大津波が襲った。地震ですでに傾いていた北東電力から原発に電力を送る送電用の鉄塔は、押し寄せた津波であっけなく倒壊し、高圧送電線もズタズタになった。まるで怪獣映画のワンシーンのように。
同じころ、福島第一原発へ東都電力側から電力を送るための鉄塔も地震による地滑りで倒壊し、送電不能に陥っていた。
地震発生直後に免震棟に駆け込んでいた福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長は、すぐに津波による被害状況を確認するよう指示した。そして、報告に愕然とする。
「外部からの送電網がすべて断たれただと・・・」
原子力発電所の最大の弱点は、発電所なのに電力がないと、原子力をコントロールすることができず、発電ができないことだ。それどころか、原子炉のコントロールを失うと、炉心溶融が起き、原子炉や格納容器を破壊した核燃料がその重さと熱によってどんどんと地中深くに沈んで放射能で汚染していく。いわゆる「チャイナシンドローム」である。米国のスリーマイル原発事故もソ連のチェルノブイリ原発事故も直接の原因は、「全電源喪失」だった。
吉田は、原子力緊急事態対応マニュアルに沿って、一つずつ必要な確認作業を指示した。
「各機原子炉の制御棒の作動を再確認。非常用電源の作動状況を確認し、あとどれぐらい非常電源が持つか計算して報告しろ」
指示する吉田の頬を一筋の汗が伝う。何とか炉心が冷えきるまで非常用電源が持ってくれれば。吉田は祈るような気持ちで唇を噛んだ。
しかし、この時点で吉田たちは、気付いていなかった。津波で1号機の海岸側に建っていた冷却ポンプ棟が丸ごと消失し、いざという時に海水を用いて炉心を冷やす二次冷却の仕組みが全く機能していないことに。
史上空前の事故は、原子力緊急事態対応マニュアルが全く想定していない事態の下、さらに悪化していく。