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銀白色の涙  作者: どらえもん
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総理大臣の心構え

 総理大臣の心構え


 夜になってようやく動くようになったエレベーターに乗って、町田は第一議員会館の大会議室に来ていた。ここで、交通機関のマヒにより帰宅困難となった人への非常食などの物資の配給が行われていた。

 「お、五穀米のおかゆとか、カレーも美味そうだな。とりあえず3人分を確保してっと」

 運ばれてきたダンボール箱から配給品が机に空けられた途端に、片端から集まった30人ほどの人が手提げ袋に入れていく。まるでバーゲンセールの会場のような光景だった。

 「配給の食料を確保してきたよ」

 部屋に戻った町田が声をかけると、グスグスと泣く声が聞こえてきた。

 「どうした?」

 「アンちゃんが弟君と連絡がとれなくて」

 田中京子がモンゴル人留学生の背中を優しく撫でながら、振り返って答えた。

 「家の電話も、携帯も繋がらなくて。とっくに帰っているはずなのに・・・。うっ、うっ」

 「浦安だったね。夕方のニュースで、浦安は流動化現象が起きて水道管があちこちで破裂して避難していると言っていたから、弟君も近くの公民館にでも避難しているんじゃないかな」

 町田はアンの肩にそっと手を置いて、目を閉じた。アンが弟君らしい男の子と抱き合って喜んでいる姿が見えた。

 「大丈夫。すぐに会えるよ。信じて。今日はJRは動きそうにないから、二人ともこの部屋で泊まっていけばいい」

 「どらさんは、どうするんですか?」

 「地下鉄は動いているから、今日は一度渋谷に帰るよ。明日以降の方が嫌な予感がするから、暫く泊まり込みができる準備をしてこないと。女の子二人だけになるけど、大丈夫?」

 「大丈夫です」

 田中京子がふくよかな胸を張った。町田は少し視線を逸らした。

 「じゃあ、とりあえず食べようか。どれがいい?」

 町田と二人のボランティア学生が非常食を食べていると、一人のスーツ姿の男がコンコンとドアをノックして入ってきた。顔見知りの内閣府の国会担当の政府委員だ。資料を渡しながら言った。

 「これが官邸地下の危機管理センターの直通番号です。シェルターは携帯が通じないので、こちらでないと連絡がとれません。町田さんは菅原総理の元秘書でしたよね。必要だと思って」

 「ありがとう。でも、あの電話魔が携帯の通じないところで仕事させられているなら、こちらから電話するのはやめておこう。触らぬ神にってやつだ」

 「そうですか。福島第一原発で緊急事態宣言が出たみたいですが、大丈夫でしょうか?」

「菅原さんでダメなら今の政治家の誰がやってもダメだよ。政治家は歴史に学ばなければいけないというのを、菅原さんには実践してもらっている。総理になるための準備を30年間続けてきた人なんだ。新党さきがけの政調会長だった時に、スリーマイルとチェルノブイリの事故の報告書は全部読んでいる。チェルノブイリは、外務省に全部訳してもらったから13分冊になった。読んだ後に、チェルノブイリはベント(原子炉内の空気を外部に逃がす操作)をしていればメルトダウンはしなかったはずだと言っていた。菅原さんは東工大の物理学科卒で、自分でエネルギー計算もできるから、情報さえちゃんとあがっていれば、どのくらいの範囲を避難させればいいかも自分で計算しちゃうはずだよ」

 「へえ、そうなんですか」

 「菅原さんの言うとおりに、皆が動けば、ひどいことにはならないと思うよ。東電の社長が言うことを聞かなければ、クビにするだけだし。」

町田は、嫌な予感を振り払うように、そう言った。

 「えっ、民間会社の社長を総理がクビにできるんですか?」

 政府委員の男が目を丸くして突っ込んだ。

 「電力会社は、事業のために土地収用もできる権限を持っているから普通の民間会社じゃない。銀行の頭取もそうだけど、普通じゃない会社の経営トップは、「みなし公務員」なんだ。だから首相がクビにできるし、取締役会で後任が選ばれるまで、主務大臣に社長の代行を命じることもできる。菅原さんが一番勉強してきたのは、行政改革だからね。NTTやJALやNHKなどトップがみなし公務員のところは、全部頭に入っているよ」

 「へえ、そうなんですか。勉強になりました」

 感心する政府委員の彼を送り出して、町田は頭を下げた。しかしこの時点で、町田はまだ気付いていなかった。法律に違反して首相の命令に従わないように指示する人物が、東都電力を経営していたことに。


 町田が部屋に戻ると、アンが急に抱き着いてきた。

 「弟と連絡がとれました。部屋の水道やトイレが使えなくなって、近くの公民館に避難しているって。どらさんの言った通りでした。」

 少し飛び跳ねるようにして、アンは笑顔を見せた。

 「よかったね。じゃあ、明日、電車が動いたら、会いに行けばいい」

 翌日、合流したアンの一家は、外交官の父親とともに、モンゴル政府が用意した特別機で、祖国へと緊急帰国した。町田がその事実をアンからのメールで知ったのは、3日後のことだった。


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