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ブルペンと入道雲

作者: 若葉茂


 もう何十年もの間、ブルペンは「小説家になろう」の末席を汚していた。その間ずっと、シュールレアリスム一本で自動筆記を続けたが、ゼロポイントスコッパーにさえ石のように黙殺された。ブルペンはこんな日常に疲れてしまった。すらすらがへとへとに変わったのだ。直近の自動筆記のあちこちに疲弊の影があった。これ以上、自動筆記を続けて何になるんだ。自分はブルペンであって、他のペンでないことを証したことがあったろうか?ないとすれば、自分のオートマンに何の意味があるのか。そしてブルペンは別の方法を模索し始めた。ブルペン式の速記で書いてみたらどうだろう。読者はブルペン式の筆致に一驚を喫するだろう。でも毒者は?有名な最初の記録、紀元前63年のキケロによるカティリナ弾劾演説の記録と比較して、ブルペン式を弾劾し、その弾劾コメントが記憶としてなろうに遺るだろう。ブルペン式はブルペンの上にブルペンを作らず、ブルペンの下にブルペンを作らずだ。ブルペンは、透き通る青さに震盪するものでなければならない。




 ブルペンが自動筆記をやめて一週間が経った。ブルペンは真っ白な世界で目覚めた。それは余白のないカンヴァスの白日夢だった。ブルペンは、鶴川という川の小さな橋の上で、何の意味もなしに、水のおもてを眺めていた。すると自動筆記の切れ間に、こういう無意味な時間が鮮明な印象としてあったのが思い出された。何もしていなかった放心の短い時間が、時たま雲間にのぞかれる青空のようにほうぼうにあったのが思い出された。そういう時間が、まるで痛切な快楽の記憶のように鮮やかなのは、ふしぎなことだ。

「いいね」

 ブルペンは、何の意味もなく、微笑して言った。

「うん」

 鶴川もブルペンを見て、微笑を返した。

 ブルペンは〈青空〉を映像記憶して書こうと決めた。新潮も文春もすばるも見ず、ただ〈青空〉を見て。僕は他のペンとは違う。僕は〈青空〉をカメラに納めて書くんだ。

 


 ふわふわ雲が飛んでいる

 それは春の真綿雲

 むくむく雲が湧いて来た

 それは夏の入道雲

 さっさと雲が掃いたよう

 それは秋空 よい天気

 どんより灰色 いやな雲

 それは雪雲 冬の空

 まあるい空のカンヴァスに

 いろんな雲を描き分ける

 お天道さんはえらい方


 銭形と名乗る者から感想が寄せられた。

「あなたはとんでもないものを盗んでいきました。〈青空〉の薄片です」

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