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 動けない。

 ナインは、山と積まれたアンドロイドたちの一つとなり果てていた。


 見上げた先に、空はない。

 いつもの無機質な天井があるだけだ。


 その先へと伸ばした手が、限界を迎えたのかギシギシと音を立て、中ほどで折れ曲がる。

 辛うじて動いていた腕も、もう使い物にならなくなった。


 もう、終わりだった。


 疲れ切った様子で、彼は目を閉じる。

 意識が、深く、深く落ちていく。

 どこまでも深く、暗闇の中へ。


 その時。



「ナイン」



 その声が、落ちていく彼の手を掴んだ。


 頭の中で、懐かしい声が響く。



「………『ナイン』?

 なんだよ、それ」


「番号、A319でしょ? だから最後をとって『ナイン』」


「名前か? 別に要らな………」


「いいだろ、ナイン?

 呼びやすいぞ」


「…………」


「『ナイン』? ビミョーな名前つけられちまったなぁ19番くゥん?」


「その理論でいくとお前は『テン』とかになりそうだな、テン。

 ……やっぱダセェ」


「んだとゴラァ!!」


「はいはい、ストップ。喧嘩すんなよ」


「そ、そうですよ……! ナインは性格適正はともかく、武術のみで見れば収容者の中でも最上位層なんですから……!」


「せ、性格適正はともかく………」


「ぶふぉっ……! ふ、二人に失礼……だよ、トゥ、プッ……ククク……」


「な、んだとぉ、トゥ、テメェ!!」


「ひぃっ!?」



 楽しそうな、皆の声。

 その中では、アンドロイドだとか、人間だとか、そんなことは関係なかった。

 ただ、助け合い、ぶつかりながらも心を通わせた仲間がいた。


「ナイン」


 彼を呼ぶ声が聞こえる。


「ナイン」




 彼は、閉じかけていた目を開けた。




 目の前には、とどめを刺そうとする無数の自分。

 ボロボロになった体を叩き起こし、彼は一番近くにいた自分の喉笛に噛みついた。

 体を動かすたびに全身が焼けるような熱を発する。

 それでも、とうに限界を超えた身体を駆り立てて、群がるアンドロイドをなぎ倒し、彼は叫ぶ。



「アンドロイドも、人間も関係ない。

 俺は、俺だ!

 例え同じアンドロイドが何人いようとも………!

 『ナイン』は、ここにいる俺だけだ!!」



 噛みついて、蹴って、撃たれ、殴られ、次第に意識が薄れていく。

 体が壊れていく。

 自我が熱に溶けて消えていく。


 それでも。


 体が折れ曲がり、焼き付き、砕け散っても、無数の自分をなぎ倒し、

 彼は手を伸ばす。

 一人の、ただ一つの存在として。


 ずっと憧れ続けていた、サファイア色の空へ。























「外に出たい?」


「あぁ。いつか、ここを抜け出して、外の世界を旅してみたい」


「いつかは出れるだろ」


「そうじゃなくて。

 皆、ここに来る以前の記憶が無いだろ?

 だから、それを取り戻したい」


「そ、それこそ、別にこの中でも……」


「……なるほどな。ナインらしい」


「へっ、死ぬ気か?

 オレにはとても正気で言ってるとは思えないね」


「……私も、ちょっと意外」


「………まぁ、そう思うか。

 でも、理由はそれだけじゃないんだ」


「理由?」


「そう。

 俺たち、せっかく生きているなら、こんな狭苦しい建物の中じゃなくて、もっと広い世界で、自由に過ごしてもいいだろ?

 もちろん、この中にいるのとは比べものにならない困難が待っているだろうけれど。

 それでも俺は、俺として、自分だけの人生を、世界を、歩いて生きたい。

 だから、俺は………………」



 いつか、外の世界で。


 眩しすぎる、青空の下で。


 生きていくんだ。




 こんな風に、青い空を見上げながら。





 予想の何倍もうるさいヘリコプターの中。


 目の前にいるのは、両腕両脚全てが義肢の東洋風の少女、そして帝国軍の軍帽と国旗が塗りつぶされた腕章をした中年の軍人。少女の方はすやすやと安らかな寝息を立てているが、一方の軍人は何やらせわしなくノートパソコンに向かっていた。


 少し視線をずらすと、そこには一人の少女が丸くなって寝転がっている。


 真っ白だったブラウスは所々が焼け焦げて黒くなっている。その下に着こんだインナーも破れてボロボロで、そこら中から鉄製の身体が覗いていた。

 眠っているのか、それとももう動けないのか、どれだけヘリが揺れようとも微動だにしない。


 弾丸、返せと言われるだろうか。

 まぁ、いいか。

 小さく彼は呟いた。


 彼は窓の外に視線を移した。

 緑豊かな山脈の間には、何やら不思議な造りの施設が置かれている。

 徐々に遠ざかっていくそれに手を振るように、彼は、


 サファイアのような、綺麗に晴れた空へ手を伸ばした。


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