表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

char codeType[2] = "No";


「機械、なのか……?」


 側頭部に埋め込まれた空冷ファンは、頭部が機械である証拠だ。彼女の腕や脚の動きに合わせて、微かにモーターの駆動音が聞こえる。

 唖然とした表情を浮かべる少年にニアは手を伸ばす。アサルトライフルをもぎ取ろうとしているのだと気づいた彼は必死に抵抗するが、とてつもない力で銃はあっさりと奪われる。


「立って下さい。

 後ろを向いて、腕を後ろに。

 通信をするようなら撃ちます」


 少年は従うしかなかった。ハンドガンがまだ残ってはいるが、撃ったところで先ほどのように避けられて当たりはしないだろう。

 手を後ろで交差させたところで、彼の両手首に手錠がかけられる。少年が手を動かすと金属の鎖がじゃらじゃらと音を立てた。


 外せないだろうか、と少年は手錠を揺らすが、嫌な予感がしてその考えを捨てる。

 普通の手錠にしては重い。後ろ手で拘束されているため少年からは構造が見えないが、恐らく距離センサーと電磁石が内蔵された二段拘束型だ。


「そのまま、前に進んでください。曲がるときは角の前で指示します」


 奪われたアサルトライフルで背中をつつかれ、少年は慌てて前へ進む。

 人質、兼、盾といった扱いだ。逃げられないよう肩を掴んだりされないのは、いざというとき素早く動けるようにというのが半分、抵抗されても逃げられても数秒で再び拘束できるというのがもう半分なのだろう。

 誰かが気付いてくれることに期待して、少年はそれとなくニアに話しかける。


「……なぁ、こんなところに何の用だよ?

 今、帝国は戦争をしてはいないんだろ? 黒旗がそんな国の施設に何しに来たんだよ?」


 どうせ無視されると諦めの表情で歩く少年だったが、その答えはちゃんと返ってきた。


「最新型の兵器の調査と、開発の阻害。できるなら、実機の破壊と開発データの奪取も行います」


 少し違和感のある発音だったが、彼女の声は合成音声とはとても思えない。機械というよりは、その言語の発音に慣れていない異邦人といった感じだ。


 さらっと情報を晒す彼女に、少年は僅かに面食らう。後々、口封じで殺される可能性が出てきた。


「聞いておいてなんだが、教えてくれるんだな」


 また何か話してくれるかと期待したが、それっきりニアは黙り込んでしまう。少年の頭の中で、死人に口なしという言葉が騒ぎ出す。

 とはいえ、侵入者は三人だったはず。派手な登場に、瞬殺とはいえ正面からの戦闘行為、完全に行動は囮のそれだ。本命は別動隊の可能性が高い以上、今の話も信用ならない。


 不安がぬぐえないが、それでも帝国にとって彼女の捕縛は最優先事項だ。少年は周囲に目を配る。


「止まれ!!」


 ガシャン、という無数の音が通路に響く。

 二人の背後、先ほど通り過ぎた十字路で、二十を超える銃口がこちらを向いていた。


 彼らに向けて、少年は叫ぶ。


「捕縛は無理だ! 撃ち殺せ!」


 肩越しに、発砲の合図が見える。


「撃て!!」


 無数の発砲音が響き渡った。

 ニアに突き飛ばされて、少年は床に転がる。ちょうど少年の身体があったあたりを、無数の弾丸が通り抜けていった。


 少年は身をよじり、ニアが立っていた方を見る。


 そこには無数の弾丸を華麗に避けつつライフルのトリガーを引く少女の姿があった。


 弾丸が見えているとしか思えない。いや、見えていたとしても全て避けられるはずがない。そのはずなのに彼女は弾丸に掠ることすらなかった。

 動きに加えて射撃の腕も人間離れしていて、サイトも覗かず、ただのあてずっぽうにしか見えない撃ち方で確実に相手の数を減らしていく。

 少年が撃ち残した分しか装弾されていなかったはずだが、それでもニアのライフルが弾切れをおこす頃には隊列が半分近くに減っていた。


 弾丸が切れたと気づいたニアは一気に距離を詰める。


 アサルトライフルに、マシンガン。肉弾戦で挑むなど狂気の沙汰だが、かの“黒鉄”にはその理論が通用しないらしい。弾丸を避けつつ集団の中に滑り込み、蹴りで残りの三割ほどを吹き飛ばすと、近くの一人のマシンガンを奪いつつ殴り飛ばす。


 通路の別の方向から弾丸が飛んでくる頃には、少年から見える範囲の収容者はほとんどが床に倒れていた。ニアはしばらく奪った銃で別動隊に応戦していたが、やがてそれも撃ち終えて曲がり角の向こうに消える。


 しばらくは銃声と悲鳴が聞こえていたが、ものの数秒でそれらの数が減り始め、十秒少々でぱたりと聞こえなくなってしまった。


 結果は何となくわかってはいたが、ほどなくしてニアは全くの無傷でこちらに戻ってきた。襟元の小さな通信機で、何やら通信をしている。


「エリア3、クリアしました。

 これより管理室に侵入します。

 はい。……はい、了解しました。レイもお気をつけて」


 通話を終え、ニアはこちらを振り向くと何かを言おうと口を開く。だが、それを突然少年は遮った。


「ニア、俺を連れていってくれ」

「………え?」


 突然の提案にニアの顔に、初めて驚きの感情が映る。受け入れてくれるはずがないとは思いながらも、少年は続ける。


「外に、この施設の外の世界に出たいんだ。

 どうか、連れて行ってください。お願いします」


 深々と頭を下げる少年に、ニアは戸惑いを隠せない様子だった。


「……どうして、私に?」

「あんたとなら、この施設から抜け出せる。

 この機会を逃せば、きっと俺は一生この施設の中だ」

「それは……そうですが、何故外に?」


 ニアは表情を隠すかのように口元に手を当てる。一枚しかないドッグタグが、彼女の豊かな胸の上で揺れた。


「……俺、ここに来る前の記憶が無いんだ。

 断片的な記憶はあるけど、まともに思い出せることはほとんどない。出身も、名前も、俺がどんな奴だったのかも。

 気が付いたらこの施設だったんだ。

 俺は……思い出したい。

 自分のこと、大切な人のこと、忘れていることを全部。ここから抜け出して。

 あんたと居れば、それができる。ここから抜け出せる」


 信じてくれ、と願いながら、彼は頭を下げていた。

 ニアはしばらくどうするべきかと悩んでいたが、やがて何かを決めたように通信機に触れ、誰かに向かって言う。


「一人、収容者を確保しました。

 捕虜、要観察対象として保護し、同行させることを希望します。

 ………はい、ありがとうございます」


 少年が顔を上げると、少し表情を緩めたニアの顔が見えた。

 ギシリと小さく音を立てながら、彼女は右手を差し出した。


「……名前、何と呼べばいいでしょうか?」

「A319か、良ければナインと呼んでくれ」

「わかりました、ナイン」


 ナインは頷いて、差し出された手を取った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ