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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

氷の女と呼ばれた氷堂さんがずっとオレのことを見てると思ったら実はさらに隣の朝日さんを見つめてて尊い

作者: kiki

 



 オレは田中。

 どこにでもいる、ごく普通の高校二年生。

 今までモテたことはないんだけど、そんなオレにもついに春がやってきた。


「じー……」


 隣の席の氷堂さん。

 氷の女と呼ばれ、誰の前でも決して表情を崩さない彼女が、ずっとオレのほうを見てるんだ。

 おいおい、よしてくれよ氷堂さん。

 さすがのオレも、そんなに熱い視線を受けたら溶けちまうぜ――って、溶けるのは氷の女と呼ばれる氷堂さんのほうか。ふふっ☆

 ん? 気持ち悪いって?

 仕方ないだろう――浮かれてるんだから! ひゃっほーう!




 ◇◇◇




 その後も、熱い視線を向けられること数日。

 ある日の休み時間に、オレは友人から話しかけられた。


「あの話、本当だったね」


「だから言ったろ? 気のせいじゃなかったろ?」


「うん、あれは間違いなく君のほうを見てた。ごめんね、ボクも信じられなかったんだ。まさかあの氷堂さんが田中に惚れるなんて」


「オレもびっくりだわ」


 こいつは山田。

 オレとは小学校時代からの同級生だ。

 いわゆる腐れ縁ってやつなんだが、まさか高校まで追ってくるとはな。

 こいつもこいつで、実はオレのこと好きだったりしてな。


「そっか、氷堂さんが田中のこと……」


「何だよ、文句でもあんのか?」


「ううん、そういうわけじゃないけど。ただ、氷堂さんってすっごく綺麗だよねと思って」


「だよなあ。去年のバレンタインはいっぱいチョコ貰ってたらしいぞ」


「田中も結構もらえるタイプなんじゃない?」


「貰えるわけないじゃん。オレにくれたの、山田だけだって」


「ボクも田中からしから貰ってないや」


「……寂しいバレンタインだったなぁ」


「まったくねえ」


 半分おふざけだったんだが、想像以上に自分にダメージを受けたことを思い出した。

 でもそんなことはどうでもいいんだ。

 今年のバレンタインは、きっと氷堂さんからチョコを貰えるんだからな!




 ◇◇◇




 さらに数日後。

 氷堂さんの熱視線は留まることを知らない。


 授業中、先生の目を盗んではオレのほうを見る。

 休み時間、ひたすらにオレのほうを見る。

 熱いわぁ。

 あー、熱いわぁ……なんていいながら胸元をパタパタして、仰いでみたり。

 どうよ、このオレのセクシーショット……ショット……ット……(エコー)。

 もう氷堂さんはオレにメロメロさ☆


「田中、調子に乗ってるね」


「だって見てくれよ山田。休み時間、オレがいなくなっても、氷堂さんってばオレの席をじっと見つめてるんだぜ?」


「……本当だ」


「オレだけじゃない。オレが触れた空気や机、椅子、ノート、かばんにまで好意を向けてる証拠だろこれ!」


「……」


「何だよ山田、その顔は。何で買ったばかりのアイスを落とした奴を見るような目でオレを見るんだ!」


 これは去年あった実話である。


「田中ってさ……」


「ああ」


「バカだよね」


「山田、お前――」


 これにはさすがのオレも怒った。

 拳を握り、プルプルと震わせながら闘士を燃やす。

 氷堂さん逃げてくれ! 今のオレの怒りの炎は、君の氷すら溶かしてしまう勢いだ!


「バカじゃないやつにバカって言うより、バカにバカっていうほうが罪深いんだぞ、わかってるのか!」


「怒りの矛先がバカっぽいよ」


「あー! またバカって言ったー! やーいやーい、バカって言ったやつがバカなんだぞー!」


「さらにバカの上塗り!」


「バカの上塗りって、バターたっぷり塗ったパンみたいで美味しそうだよな」


「もうそれはバカを越えてるよ田中ぁ!」


 憐れまれている。

 それでも付き合いをやめない山田は、たぶんすげーいいやつだ。

 友達でよかった。


「ところで山田」


「何だいバナ……田中」


 さすがにバナカはひどいぞ山田。


「氷堂さんは今、オレがいないのに、オレの席を見つめている」


「うん、見てるねえ」


「オレはずっと、あの行動を『オレがいた空気すら氷堂さんは愛してるからだ』と思っていた」


「一周回ってIQ高いんじゃないかと思えてきたよ」


「褒めんなよ、照れるだろ」


「愛おしい素直さだね」


「でもさ、山田は、氷堂さんは別のことを考えて、オレの席を見つめてるって思ってるんだよな?」


「うん、というか田中」


「どうした山田」


「氷堂さんが見てるの、どう考えても田中の席じゃないよね」


「はっはっはっは、面白いことを言うんだな山田は。じゃあ誰を見てるって言うんだよ」


「田中の隣の席」


「オレの隣は氷堂さんだけだ。恋は盲目って言うからな」


「物理的に盲目になるやつ初めて見たよ。いや、逆にもいるでしょ?」


「逆っていうと……朝日さん、か?」


「そう、朝日さん」


 朝日さんは、オレの隣の席にいる、地味めな女の子だ。

 彼女は顔を赤くしてうつむいていた。

 前髪が長いのでその表情はよく見えないが、何かを恥じらっているように見える。


「そうか……そうだったのか……」


 バカだ、オレは。

 まさかそんな単純なことに気づけなかったなんて!


「よかった、田中もようやく気づいたんだね」


「ああ、そうだな。氷堂さんが見惚れるぐらい今のオレは魅力的なんだ」


「……ん?」


「あの氷の女を落とせたんなら、他の女が落ちないわけがない」


「んんっ?」


「まさか朝日さんまでオレに惚れてたとは――」


「このおバカーーっ!!」


「ふべぇっ!」


 山田のダイレクトアタックだと!?


「氷堂さんは! 頭ちんちくりんでボクぐらいしか話について行けないバカの田中じゃなくて、その向こうにいる朝日さんを見てるのーーー!!」


「そ、そんなバカな!?」


「バカはお前じゃーい!」


 痛い痛い痛い。

 ほっぺたつねらないでくれ。

 というか何でそこまで怒ってるんだ山田よ。

 確かにオレはバカだがいつもはもうちょっと冷静だろう山田よ。


「この鈍感モンスター! 勘違いクリーチャー! お前の目は節穴だからいっそボクがこの場でくり抜いてやるぅー!」


「落ち着いてくれ山田バイオレンスっ! 目ン玉は! 目ン玉はさすがにまずい! 絵面がR-18Gになってしまうー!」


 オレたちがぎゃーぎゃーと騒ぐと、当然クラスメイトたちの視線は集中するわけで。

 教室の端々から「あらやだー」「またあの二人よぉ」「騒がしいわねぇ」などとお嬢様がたの生ヴォイスがオレの耳に届く。

 でもその間も、氷堂さんは朝日さんをじっと見つめたままだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「よかった……落ち着いたか、山田……」


「ひとまずはね……でもわかったでしょ、氷堂さんは田中のことなんか見てないってこと!」


「わかった、わかったから、もう勘弁してくれ……ふぅ……」


 あの騒動の中でも視線を逸らすことはなかったんだ。

 でも正直、ほっとしたよ。

 もし氷堂さんのあの熱視線がオレに向けられたものだとしたら、あまりの重さに、その想いを受け止めきる自信はなかったからな。


「はぁ……すぅ……ふぅ。朝日さんは氷堂さんに見つめられて、恥ずかしがってるんだ。でもまんざらでもないって顔してる」


 確かに、二人の間には何やら甘い空気が漂っているようにも思える。

 間に挟まれたオレ、よく糖尿にならなかったな!


「おかしいな」


「何が?」


「朝日さん、最初のころはあんな顔してなかったと思うんだが」


 思い返してみれば、おぼろげながら朝日さんの表情が頭に浮かんでくる。


「そうだ。最初は確か、嫌そうな顔をしてたと思うんだ」


「それってどれぐらい前?」


「二週間前、ぐらいだったか」


「つまり、氷堂さんが一方的に朝日さんに惚れたんだろうね」


「そこから熱烈アピールが始まったわけだな」


「『私なんか、氷堂さんと釣り合うはずがない』。朝日さんの性格上、そんなことを思っていたのかもしれない」


「でも氷堂さんは『釣り合う釣り合わないなんて関係ないわ! 私はあなたが好きなの!』ってストレートに攻めるわけだな」


「そうそう、それで朝日さんは『やめて、それ以上は、私……』って少しずつガードが揺らいでいって」


「最後は夜景の綺麗な遊園地に連れて行かれて、『私は本気よ。あなたのことを愛しているの』って氷堂さんが告白したわけか」


「バッグに付いてるおそろいのキーホルダーはそのとき買ったんだろうねぇ」


「そして朝日さんは氷堂さんとこんな風に抱き合い――」


 オレたちは胸をぎゅっと押し付けあいながら、抱きしめ合う。


「『本当に私でいいの?』とか言って顔を近づけたのかな」


「そうだな、こんな感じで」


「こんな、感じ……」


 そして顔を近づけて、ギリギリまで距離を縮めて――


「うひゃぁううっ!」


 すると、山田は奇声をあげてオレを突き飛ばすと、地面を転がりながら離れていった。


「おいおい山田、さすがに本気でやりゃしないって」


「か、顔っ、顔が近いっ! 息がかかるっ!」


「そんなに嫌だったか?」


「嫌じゃっ! 嫌じゃないけどっ!」


「……嫌じゃなかったのか」


「えっ、あ、そのっ、嫌だった……いや、違う。それもそれで違って、あの、えっと、うわあぁぁあああっ!」


 なぜか頭をかきむしる山田。

 その顔は真っ赤で、こころなしか朝日さんの表情と似ているような気がした。




 ◇◇◇




 何にせよ、氷堂さんはこれっぽっちもオレに惚れてなんかいなかったわけで。

 その結果は残念だけど、授業中も無言でいちゃつく氷堂さんと朝日さんに挟まるのは悪くない。

 いつの間にか朝日さんも氷堂さんのほうを見ることになり、挟まれたオレは腕を組み、満足げに微笑む。

 最近、この胸を満たす暖かな気持ちのことを『尊み』と呼ぶことを知った。

 なるほど確かに、これは尊い感情だ。

 ぜひとも氷堂さんと朝日さんには、今後も順調に愛情を育んでほしいものである。

 オレも協力していく所存だ。


 そういえば、“尊い”言葉と一緒に、こんな噂も見かけた。

 女の子同士の恋愛の間に挟まる男は消える、なんて恐ろしい都市伝説だ。

 人間が消えるなんてことありえるのか?

 オレも男だったら、もう消えてたりするのかねえ。

 ま、ここは女子校だから関係ない話だけどな。


 ところで最近、授業中によく席の離れた山田と目が合う気がするんだが――あいつ、何かオレに言いたいことでもあるのか?




勢いです勢い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 山田が一番かわいい! さて、鈍感な田中をどう攻略していくのか。
[一言] 「お前ごときが~を読んでいたので、作者名から「あれ、もしかして百合………?」とちょっとだけ思ってたら当たってました。
[良い点] 尊みが深い...。 [一言] 田中は山田に好かれとるやん! おめでとう!! ...ん? 女子校...ハッ
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