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16 さよならアトランティス

 EMP(Electro Magnetic Pulse)とは電磁パルスの事だ。

 EMPグレネードはすなわち電磁パルスを発生させる投擲武器であり、起動すれば周囲の電子機器の機能を破壊・停止できる。人体には影響が無い一方でロボットであると考えられる河戸に対しては必殺の武器となる。


 古武士は一流殺人鬼の嗜みとして一通りの武器の構造原理と扱いを知っている。EMPグレネードも簡単な物なら製造可能だ。それでもゼロから作るとなると手こずるが、御名語が潜伏していた首輪解除チームの遺産が利用できそうだった。首輪解除チームが作ろうとしていた首輪解除装置も電磁パルスを利用している。ちょっとした改造で武器に転用できるだろう。


 さて。

 古武士と御名語は漁村に向かい、民家の中で静かに屍を晒していた丸出広院の死体の横に落ちていた機械類と工具を無事回収した。全てを殺人鬼の拠点・飛行機の残骸まで持ち帰るには重すぎるため、御名語を見張りに立て、その場でEMPグレネードを作ってしまう事になった。


 工具を使い配線を繋げありあわせの部品を組み立てる古武士は少し感心していた。原型を作り上げた丸出は相当機械に詳しかったらしい。首輪解除装置は丁寧に作られていて、完成していればかなり信頼性の高い物に仕上がっていただろう。デスゲーム参加者を首輪から解放し、命を救う切り札になっていたに違いない。

 古武士はありがたく命をすり潰す切り札として流用させてもらう。

 

 日が落ちて手元が見えなくなる直前になんとかEMPグレネードは完成した。

 EMPグレネードは配線剥き出しの球体で、スイッチを入れて投げる事で起動する。有効範囲は1m、一個限定使い捨て。河戸のすぐ近くに投げ込んで一発で成功させる必要がある。

 必ず効くという保証はなく、失敗もできない。それでも対抗手段は確保できた。


「できた? 早く帰ろ――――待って」


 落ち着かない様子で見張りをしていた御名語は緊張した様子で立ち上がりかけた古武士を制した。二人は息を潜め、耳をそばだてる。

 一人分の足音が二人の方へ近づいて来ていた。








 出席番号8番、河戸(こうど)(あい)は超古代文明アトランティスが製造した愛玩用ヒューマノイドである。

 海を思わせる深い青色の髪、愛くるしい顔立ち、藤沢並に低い身長、そして頭部に装着された暗視ゴーグルのような装置が特徴だ。

 府通高では三年生の有能生徒会長が教育委員会に「暗視ゴーグルは眼鏡やコンタクトレンズと同様に、学業に必要な視覚補助器具である」という意見陳述書を提出し押し通している。暗視ゴーグルをつけて学生生活を送っていても完璧に合法なのだ。


 河戸はかつてアトランティスが滅亡する際に密封容器に入れられ眠りにつき、長い時を経て沖縄の海底遺跡で目覚めた。海底から地上に出た河戸は様変わりした文明に困惑するもその高い学習能力ですぐに適応。主を探し数年の間放浪した河戸は偶然巡り合った藤沢カミラに仕える事に決めた。

 河戸は愛玩用ヒューマノイドである。主を楽しませ、和ませる事が存在意義だ。藤沢は自分と同じぐらいの身長の不死者であり可愛らしい河戸を気に入り、傍に置きたがった。河戸も自分を純粋に可愛がってくれる藤沢を気に入った。藤沢の要望で主というより友人として良好な関係を築いている。


 デスゲーム開始後しばらくの間、河戸はバレーボールを探して島をうろついていた。藤沢や猫塚とビーチバレーをする約束をしていたにも関わらずバレーボールを失くしてしまったからだ。

 河戸は七丈島に向かう船旅の中でスリープモードに入っていたのが仇になり、アラーム設定で起動した時には既にデスゲームが開始していた。そのせいでセーラー服以外の持ち物を全て失い、持ち込んできたはずのバレーボールも無くなってしまっていた。

 河戸に配られた武器はロケットランチャーで、ビーチバレーには何の役にも立たないゴミだった。


 島をうろつく河戸はA組の女子生徒の一人、日土居(ひどい)浦霧(うらぎり)に遭遇した。日土居は河戸に協力を提案した。

 河戸の主は藤沢である。日土居は主ではない。また、アトランティス国籍も持っていない。主でもなくアトランティス国籍も持っていない日土居に親切にする理由は無かったが、バレーボール探しを手伝うと言うので提案を飲み協力する事になった。


 ところが日土居はあっという間に河戸を裏切った。

 河戸が配られた武器を捨ててきた事を知ると日土居はそこに案内して欲しいと言い出した。自衛のために必要だと言うのだ。声紋分析で日土居の言葉が虚偽であるという高い可能性を割り出した河戸だったが、それを指摘する事はせず、日土居をポイ捨てしたロケットランチャーの場所に案内した。

 人間は虚偽にまみれている。それをいちいち指摘していては円滑な交流の妨げにしかならない、という事を河戸は学習していた。

 そして河戸はロケットランチャーの説明書を読んだ日土居の砲撃を受け、吹き飛んだ。


 吹き飛んだ、というのは文字通り吹かれて飛んだだけだ。

 愛玩用ヒューマノイドとはいえ河戸の皮膚装甲はアトランティス製特殊強化合金であり、多少乱暴に使っても壊れないようになっている。ロケットランチャーの直撃はアトランティス基準では「多少乱暴」に分類される程度の威力だった。


 吹き飛ばされ地面にくしゃりと落ちた河戸はすぐさま起き上がり逃げていく日土居に制裁を加えようとしたが、ロケットランチャーの衝撃で幾つかの不具合が発生していたため、倒れたままナノマシンによる自己修復を優先した。

 そして自己修復が完了する前にエリア縮小に伴う島爆破に巻き込まれ、海に沈んだのだ。とんだ災難である。


 戦闘用ならばいざ知らず、愛玩用ヒューマノイドである河戸は馬力が低い。海底に沈み岩の下敷きになった河戸が脱出するためにはかなりの奮闘と時間が必要だった。

 ようやく海から上がり地上に戻って樹上ツリーハウスにいた日土居をぶち殺した時には既にデスゲーム四日目の夕方。予め定められていた修学旅行の日程は終わってしまっている。


 修学旅行先である七丈島に滞在している以上、まだ修学旅行中とするべきか?

 修学旅行日程が終了している以上、修学旅行は終わったとするべきか?

 修学旅行中にビーチバレーを行うという約束の定義に関わる深刻なエラーが発生している。


 困り果て、藤沢に相談するために藤沢の生体反応に向かって歩いていた河戸は漁村を横切る。

 そして民家と民家の間に張られていた釣り糸に足を引っかけ、飛んできたEMPグレネードの直撃を喰らった。単純にして効果的なブービートラップだ。


 河戸は全身の機構を激しくショートさせた。

 直前まで長時間海水に浸かっていたのも悪かった。排水が完全に済んでおらず、生乾きのセーラー服と体表、体内に電気をよく通す塩水が入り込んでいた。


 結果、河戸の損傷は連鎖的にエネルギーコアにまで及び、臨界に達して爆発四散した。

 アトランティス最後の遺産の呆気ない散り様であった。







 単独行動している河戸を発見し急いでトラップを仕掛けた二人は、あっさり成功した急造作戦に疑心暗鬼に陥った。物陰に潜んだまま様子を窺う。

 なんといっても不死者である。殺しても死なない存在だ。死なない存在を殺すために手段を講じたとはいえ上手く行きすぎた。


 しかし現実に河戸は爆発四散した。全身の部品は粉々のバラバラに飛び散って、復活したり再生したりする様子はない。

 二人の足元に転がってきた部品も原型をとどめておらず、元々腕だったのか足だったのか頭だったのかすら分からない。


 それから更に数分息を潜め、ようやく抹殺を確信した二人は喜びと一抹の不安を胸に急いで飛行機の残骸まで戻った。

 EMPグレネード完成直後に河戸を一方的に殺害できたのは大金星だ。

 しかしこれで明日の朝6時に河戸の死が放送され、不死者達全員に仲間が殺された事が知れ渡る。凄まじい怒りを買うだろう。


 殺人鬼は協力体制を作ったが、不死者陣営も続々と集結している。

 もう後戻りはできない。


 決戦の時はすぐそこだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >河戸の損傷は連鎖的にエネルギーコアにまで及び、臨界に達して爆発四散した。 「サヨナラ!」爆発四散! ……すみません、やってみたかっただけです。
[一言] 河戸ちゃん不死と言うには弱すぎるしバックアップくらいありそう 寧ろ本体はvtuberやってそう
[一言] 個人的には河戸ちゃんがあっさり死んでしまってうーんといった感じです あらすじにもあるようにこの小説だと、 モブを無残に殺害する殺人鬼達をあっさり弄ぶ不死者+なぜか不死者側に入っちゃっている…
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