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12 修学旅行の夜

 人間だろと言われ一瞬固まってしまうという隙を晒したが、足掻くだけ足掻く事にした。死にたくない。

 平静を装って返す。


「何言ってんだ、不死者だよ」

「隠すな。お前の紙オムツが『俺を履いてるお漏らし野郎は人間だ』って言ってる」

「もう死のうかな俺」


 これは誤魔化せない。最悪のバレ方した。なんだこの地獄?

 状況打開のために脳みそをフル回転させる。


 逃げる? 無理だ。一瞬で追いつかれるだろうし、仮に逃げ切ってもいずれ狩られる。脳裏に藤沢の蛮行の数々が過った。アレの矛先が自分に向くと思うだけで心臓にビンタされたようだ。


 いっそここで堀田を殺して口封じ。不死者も殺せるらしいから、理論上はやれない事もない。が、クラスメイトを手にかけるのはキツい。堀田は不死の怪物だが、見た目は人間だ。殺そうと考えただけで手が震える。なんで殺人鬼も不死者もあんなに簡単に殺人ができるのか。


 命乞いをするか? ワンチャンあるかも知れないが、自分の命の行く末を堀田の慈悲に賭けるというのは不安過ぎる。ポルタ―ガイストが慈悲を持っているのかそもそも分からない。

 しかし交渉するというのは良い案に思える。力比べでは絶対に勝てない。口で勝つしかない。


 俺は今までの記憶を掘り返し、超速でそれっぽい嘘をでっち上げた。

 両手を上げて降参しながら神妙な顔を作って言う。


「まあまて、確かに俺は人間だが、嘘ついて不死者に紛れ込んでたのは不死者のためなんだ」

「へえ?」


 堀田は首を傾げた。ここだッ!

 言いくるめテクニック第一条! 相手の言う事を認める! 人間だろ? と言われたらはいそうですと肯定するのだ! 自分の言い分を否定されたら、例えそれが正論でも良い気分になるヤツはいない!

 言いくるめテクニック第二条! 君のためだよでゴリ押す! これはなんやかんや君のためになるんやで! の論調でとにかく押す!

 二つ合わせて「君は正しいけど、僕の意見も聞いてくれ。それが君のためだ」をベースにして言いくるめて切り抜けるッ!


「実はな、俺は不死者(アンデッド)殺し(スレイヤー)殺し(スレイヤー)なんだ」

「アンデッドスレイヤースレイヤー?」

「不死者がいるだろ。それを殺せるヤツがいるだろ。それを殺すのが俺の役目だ。不死者を殺すヤツを殺す、つまりアンデッドスレイヤースレイヤーだ」

「はあ?」


 堀田が傾げた首の傾きが大きくなる。

 意味わかんねぇよな。俺も俺も。


「依頼元は守秘義務で言えない。でも俺は不死者の味方だ。不死者のフリをして不死者に紛れ、不死者を狙ってやってきた不死者殺しを逆に殺す。そのための潜伏。人間なんだから不死者殺しが正体を見破ろうとしてもバレない。正体なんてないただの人間だからな」


 堀田はしばらく沈黙し、疑わしげに俺をジロジロ見てくる。吐きそう。通れこの嘘。

 背後の窓からは女子のキャッキャウフフした笑い声が聞こえてくる。

 この温度差よ。たすけて。


「お前の紙オムツはそんな事言ってない」

「対策してあるからな。言うワケないだろ」

「対策ってなんだよ」


 それは俺が聞きたい。

 おい三秒前の俺! 対策ってなんだよ! 言ってみろ!


「とにかくだ。不死者の敵ならとっくに藤沢を殺してる。いいか、A組に不死者殺しがいる。誰かは分からない。それを狩るのが俺の任務。正体を黙っていたのは悪かったが、言いふらすのはやめてくれ。不死者殺しに俺の存在がバレたら警戒されてやりにくくなる」

「でも藤沢を騙してたんだろ」


 俺の紙オムツがひとりでに震動し、絞まってきた。

 ひえっ! すごい力だ! 返答間違えたら紙オムツに絞め殺される!!!


「悪かったって! 俺も好きで黙ってたんじゃないんだ、仕事なんだよ! 俺は不死者殺しの殺し方を知ってる。いいのか? 俺を殺したら不死者殺しに殺されるぞ!」

「…………」


 少しの沈黙を挟み、紙オムツは大人しくなった。


「正体は黙っておく。裏切るなよ」


 俺は神妙に頷いた。

 セーフ! 切り抜けた! 俺って実は天才では!?

 不死者殺しなんているかどうか分からんというか多分いないけど、とりあえずは大丈夫だ。

 なんか適当なもう死んでるクラスメイトを「アイツ、実は不死者殺しだったらしいぜ」って事にしとけばなんとかなるなんとかなる。


 俺は心の中で生の実感を噛み締め、堀田と一緒に屋内に戻った。

 ちなみに堀田に「覗かねーの?」と言われ、戻る前にちょっとだけ風呂を覗いた。

 えっちだった。うむ。


 風呂の後、就寝前に五人でトランプをした。二ノ影陽炎と二ノ影不知火の配布武器が両方トランプだったらしい。運営は冗談がお好きなようだ。滅びろ。

 不死者グループのローカルルールで、堀田だけババ抜きはカード枚数二倍スタート、七並べは一回行動したら一回休み、というエグいハンデを付けてやっていた。それでいい勝負になるんだからもう頭おかしい。


 トランプ中ずっと堀田が俺の正体を暴露しないかと気が気では無かったが、堀田は余計な事を何も言わず、黙って三連ロイヤルストレートフラッシュを決めて女子からブーイングされていた。

 キレた二ノ影姉妹が抱き抱えていた枕を堀田の顔面に投げつけてベッドに行ってしまったのでお開きの空気になる。

 堀田はカードを片づけてケースに入れながら言った。


「藤沢」

「なんだい?」

「さっき伏見がお前の風呂覗いてた」

「おい!!!!!!!!!!!!!」


 馬鹿お前マジで馬鹿お前ふざけんなよ馬鹿お前この馬鹿ポルターガイストがこの野郎人の心ってもんが無いのか! バラすのそっちかよ!


「藤沢違う! 違うからな!?」

「違わないだろ。紙オムツが言っ」

「違わない!!! 違わないからもう黙ってくれ!」


 覗きがバレるか紙オムツがバレるか。鞭と鞭はやめるんだ! 飴くれ、飴! 堀田が口を開くたびに窮地に立たされてる気がする。

 というかパンツ洗って乾かして履き替えたのにまだ声聞こえんの? 幻聴も大概にしろよ。


「伏見くんはえっちだな。もう少し紳士的だと思っていたんだが」


 藤沢は少し傷ついた目でセーラー服の胸元を手で隠し、俺を見上げてきた。

 う゛ああ心が痛い……怒らなかっただけマシ……いやこれ怒ってくれた方が気が楽だ。


「面目ない。俺は欲望に負けた理性の無い野獣です」

「ほう? 伏見くんは私に欲望を抱いていたのか」

「はい……」

「失望したよ。体が目当てだったなんて」

「いや待ってくれ弁解させてくれ。否定はしないがそれだけじゃない。藤沢は中身もあるから。見た目だけじゃないから。春頃だったか橋の下で捨て猫育ててたろ、大きくなってきたら猫塚にパスしてたけど普通はきゃーかわいいかわいそう誰かに拾ってもらえるといいねなんつってちょっと撫でてサヨナラだよ。藤沢は優しいし自分にできる範囲でやれる事やる責任感があるんだよ。下手に最初から最後まで面倒見ようとして失敗して死なせるより専門家に預ける判断できるのが本当の責任感なんだなって俺は感心したね。性格美人じゃなけりゃ覗いたりはしない。つまりそういう事だ。どういう事だ? いやそういう事なんだようん」


 気持ち悪い早口になっていた事に気付いて黙ると、藤沢と堀田も黙ってしまった。なんか言えよ。

 痛いほどの沈黙を挟み、藤沢が言う。


「伏見くん」

「はい」

「撫でたければ撫でてもよいが?」

「あっはい」


 ずずいと差し出してきた頭を撫でると、藤沢は満足げにベッドに向かった。

 セーフ? セーフなのか?


「なあ堀田。今のは?」

「おかしいな。俺が読んだ漫画だとここで伏見がビンタされるはず」

「おかしいのはお前だよ」


 コイツさては人間の機微を漫画で学んだな? 言う事やる事むちゃくちゃなんだよ。

 俺は堀田から好みを聞き出して情操教育に良さそうな漫画を考えながら男子用の寝床へ向かった。









 デスゲーム四日目、朝6時。

 俺達が具沢山豚汁でゴキゲンな朝食を食べていると、ピン(↑)ポン(↑)パン(↑)ポン(↑)と人生で一番馴染みのあるチャイムが聞こえてきた。全員箸を止めて耳を澄ませる。


『マイクテスト、マイクテスト。本日の天気は曇り。はい。皆さんおはようございます。ゲーム運営です。生きている方はお疲れ様です。引き続き頑張って生きたり殺したりしましょう。今朝までの犠牲者を発表します。


 出席番号7番、区津(くつ) 子露瀬(ころせ)さん。

 出席番号12番、出越智(でおち) 呉九郎(ごくろう)くん。

 出席番号14番、独野見(どくのみ) 慧蓮(けいれん)さん。

 出席番号25番、丸出(まるで) 広院(ひろいん)さん。


 以上4名が死亡しました。生存者は18名です。


 大変ハイペースで殺し合っていますね。今生き残っている参加者は全員猛者と言っていいでしょう。グループを作って強い標的を囲んで殺すのもアリですが、裏切り・内部分裂には気を付けましょう』


 ピン(↓)ポン(↓)パン(↓)ポン(↓)、と馴染みのあるチャイムで放送は締めくくられた。

 残り18人。そろそろ後半戦だ。10人の確定生存枠(?)を除けばもう8人しか残っていない。

 もう場当たり的に生き延びるだけでは済まなくなってきている。なんとか生きてこの島を脱出する方法を考えなければ。

 しかしどうやって――――?

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― 新着の感想 ―
[一言] 風呂覗いてんじゃネーヨはげ!!
[気になる点] くっころする前に死んでしまうなんて [一言] 裏切るとは所詮紙オムツは新参者
[一言] かwみwおwむwつ
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