1 はわわッ! なんて恐ろしいデスゲームなんだッ!
私立府通高校という名前は当時の行政「府」がある大「通」りに面しているという理由で決まったらしいが、今では地元のパッとしない中堅高校という意味で「普通高」と揶揄されている。
校内で煙草の吸殻が見つかったら注意喚起の紙が配られるぐらいには不良がいなくて、未だ東大進学者を出していないぐらいには成果を上げていない。不良校でもなく、かといって進学校でもなく。部活動で華々しく活躍したという話も聞かないが弱小というほど弱くもない。
まあ府通高に行けばその名の通り普通。それぐらいのポジションだ。
俺が府通高に進学したのは家が近いからで、あとは学力が相応だったからだ。もっと上も狙えるとは言われたが必死に勉強していいとこに進学する気力も無かった。
府通高の普通科といえば文字通り普通ド真ん中で、俺は可もなく不可も無く高二に進級した。
進学校ではないが中堅高校ではあるので、府通高の修学旅行は大学受験で忙しくなる高三ではなく高二の秋に行われる。
修学旅行直前にクラスに何故か転校生が二人立て続けに入ってきたり、教員が何人か入れ替わったりと慌ただしかったが無事修学旅行は決行の運びになった。
府通高の修学旅行先は例年沖縄だが、今年に限っては絶海の孤島にわざわざ船を借りて行く事になった。
一応は東京都に属しているらしい孤島・七丈島は太平洋にぽつんと浮かぶ島で、最近最後の島民が亡くなり無人島になったという。島民と校長に親交があり、今回修学旅行先に選ばれる事になったらしい。
最初、生徒からは不満続出だった。俺も正直気が進まなかった。名前も聞いた事の無い無人島より沖縄の方が断然楽しそうだ。
もっともウチのクラスには妙に達観している変人が多く、不満は少ない方だった。
修学旅行の事前説明では無人島では松茸狩りや海釣りを楽しめ、発電機を持ち込むので電気も通るとの事だった。それで修学旅行というよりキャンプと割り切る人が増え、俺達府通高二年はちょっとした興奮と期待が混ざった高揚した雰囲気の中で七丈島行の連絡船に乗り込んだわけだ。
七丈島で巻き起こる恐ろしい悲劇を知りもせず……
目が覚めると俺は白い部屋の中にいた。船に揺られている内にいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
部屋にはドアが一つ。そして目の前には一枚の紙と膨らんだリュックが一つ。
「やべ寝過ごしっ……?」
意識が覚醒して飛び起きたが、すぐに状況の異常さに思い至った。
首に違和感。触れば金属の首輪がガッチリはまっていて取れない。
床が揺れていない、船の中ではない。誰かが寝ている俺を下船させてくれたのか? しかしここは船着き場でも宿でもなさそうだ。この白い部屋は一体? 先生は? 他のクラスメイトは?
混乱しつつ置かれていた紙を手に取り目を通す。先生の書き置きだろうか?
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☆デスゲームの御案内☆
出席番号 21 番 伏見維人 様
この度は弊社の開催するデスゲームに強制参加頂き誠にありがとうございます。
私立府通高校二年A組 の皆さんには殺し合いを行って頂きます。
以下に五つのルールを示します。
1.参加者は私立府通高校普通科二年A組生徒30名+担任教諭1名+保健教諭1名=32名です。
2. 生き残った最後の1名のみが島を脱出できます。
3. 二十四時間連続して死亡者が出なかった場合、生存者は全員首輪が爆発して死にます。
4. ゲームクリア以外の方法で島からの脱出を試みた者は首輪が爆発して死にます。
5. その他ゲーム進行を妨害した場合首輪が爆発して死にます。
6. ゲームエリアは島内に限定します。ゲームエリアは段階的に縮小します。
良いデスゲームを期待します。配布武器はランダムです。
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「う……ん……?」
ゆっくり三回読み直したが、判断に困る。
悪戯か?
犯人候補はA組変人グループ。しかし奴らは変人だが、こういうアグレッシブ不謹慎悪戯をするような連中とは思えない。人目を避けて教室の隅でコソコソしているタイプの人種の集まりだ。
それ以外はもう思いつかない。
悪戯ではないなら本物か?
本当に殺し合いが開かれるとでも言うのか?
この法治国家日本で?
いや流石にそれは……
でも実際首輪はまってるし……
悪戯やドッキリ企画にしては悪質で手が込み過ぎているような。
本当にデスゲームに巻き込まれたというならエライこっちゃなのだが、どうにも実感が湧かない。ふーん、って感じだ。こんな紙切れ一枚を信じて大慌てするのも間抜けだ。
紙と一緒に置かれていたリュックの中身を確認する。
中に入っていたのは24個セットの猫缶、水、地図、コンパス、腕時計、懐中電灯、拳銃に非常によく似た物体。
……これは一見して拳銃に見えますがぁ、その正体は……拳銃ぅ、です、かねぇ。
手に取ると重い。プラスチックじゃない。
本物? 本物? 流石にヤバくないか? もし実弾入ってたら持ってるだけで逮捕されるんじゃないか?
えー、たぶんパッと見の構造からしてここが外れそうで、外れた、それで、中に弾丸が、入っ、て、ない! と。
はい。
ゴミ。
あとこの猫缶は何? 餌付け用? まさか食料のつもりなんじゃないだろうな。
えー。
よく分かんないっすね。ポケットの中に入れてたはずのスマホも無くなってるし、電話で先生に確認する事もできない。そもそも七丈島は圏外だけど。
どうしたらいいのか分からず、とりあえずリュックに荷物を詰め直してポケーっと紙を眺めていると、ピン(↑)ポン(↑)パン(↑)ポン(↑)と人生で一番馴染みのあるチャイムが聞こえてきた。チャイムに引き続いて何やら誰かが校内放送――――じゃなくて島内放送を始めたようなので、部屋のドアを開けて話を聞く。
『――――ト、マイクテスト。本日は晴天なり。はい。皆さんおはようございます。ゲーム運営です。状況を把握された方もされていない方もいらっしゃる事と思いますが、ひとまず島の中央をご覧ください。見えない方は見える位置に移動する事をオススメします。少々移動時間を取ります』
放送が途切れる。俺がいたのは森の中の小屋だったが、ハシゴで屋根に登れそうだったので、言われるがまま屋根に登り周りを見渡せる高所を確保する。
島の中央は遠かったが、分かりやすかった。高い鉄塔が立っていて、暴れる人影がぶらさがっている。
あのぽっちゃりシルエットは!
まさかクラスメイトの相田くん!?
『えー、放送を再開します。ご覧いただけたでしょうか、A組出席番号1番の相田明人くんです。運営としてはですね、やはり一番最初の死者には出席番号1番が相応しいだろうという事で、殺します。とりあえず誰か一人死なないと盛り上がらないので』
言うが早いかぶら下がっていた相田くんが突然爆発四散した。
唖然、呆然。目の前で起きた爆発の意味を呑み込む前に淡々と放送が続く。
『はい。死にました。ご理解いただけたでしょうか? これはデスゲームです。なおただ今の動画は弊社のゴールド会員になって頂けると視聴できますので、生き残った暁には是非加入を御検討下さい』
ピン(↓)ポン(↓)パン(↓)ポン(↓)、と馴染みのあるチャイムで放送は締めくくられた。
やべーぞ、これ本物のデスゲームだ!
はわわわわッ!