向日葵は朝を待たずに咲き、朝を待たずに枯れる
ハース・マーリンのボス、八重神 奈落。
その名が偽名ということまでは分かっている、本名を知っているのは片手で数えるほどしかいない。
……残念だが俺はまだ本名を知らない。
俺はマーリンにおける幹部にまで上り詰めたというのに、側近クラスにまではまだ遠いらしい。
今日もボスは俺に顔を見せず、側近の八町 托卵が用件を伝えてきた。
『蓮間 太郎をとうとう動かし始めたようですね。命令通りで八重神様も大変お喜びでしたよ。私には一年も間もない彼にやらせることになんの意味があるかわかりませんが、これからもご意向どおり行動してくださいね。』
全身黒ずくめのスーツ姿にきっちりとした七三分けに黒縁眼鏡、なのに肌は色白いものだからもはやモノクロ写真から抜け出してきた人物のように思える。
顔にいつも浮かべているきみの悪い笑顔はどことなく、あいつに似ている。
矢鳥 伝子に。
まぁそれはいい。
明日は太郎の祝賀会だ。本格的に仕事に参入できるようになればもうすぐ一人前。なんというか胸の真ん中あたりが熱くなる。こんな感情は生まれて初めて抱いたかもしれない。
何かプレゼントでも用意しとかないとな。
らしくもなく笑みがこぼれる。
雨が降り出してきた。
傘は持っていない。車ではなく歩きできた。ボスが一時雇用した船出中継代理店の連中の能力も使って足取りが取れないようにして、行きは来ていた。
どうせ八町を使うくらいなら、移動の便のことくらい考えてほしいものだな。
そんな愚痴を考えている時。
プルルルル!
スマホのベルが鳴った。
雪海だろうか?何か伝え忘れたことでもあったのか?しかしそれに映る文字は非通知。
不審に思いつつも、おもむろにスマホを耳に構えて出る。
「はい、も——
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