戦闘開始!
ガラガラと崩れた瓦礫が地下1階にあたった轟音がぽっかり空いた穴から天に向かって突き抜けていく。
地下1階はとても広く打ちっ放しのコンクリートで四方を囲まれた空っぽの箱のようだ。しかし、不思議なことに空っぽのコンクリートの空間にジオラマセットのような白い楽屋が置いてある。
「いててて……無事着陸?」
奇跡的にも死なずに済んだらしい。これで崩落の経験は一応2度目になる。意図的に巻き込まれたのは初めてだが。
「どこが無事なんだ、完全に事故だろ。てか、人為的だから事件だろ」
「これからはこんなの比じゃないくらいの激しい戦闘になる」
こんなの比じゃない、なんてまだまだ先が思いやられる。とはいえ、相手はそれだけビッグな組織、遠足気分では勝てやしない。
「腰が……ていうか、完全に僕これ関係なかった…こなければ良かった……」
ドライバーさんが腰をさすりながら、恨み言を吐く。そういえばこの人何か能力があってきたのか。それとも本当にガイドさんの専従ドライバーなのか。
後者だったら使い物にならないんだが。
「敵襲!?お前ら!」
白い楽屋は壁が2面しかあらず、吹き抜けたところからは俺たちの姿が完全に筒抜け、どころか壁抜け。だから、そこにふんぞり返ってスマホで動画を見ながら自堕落にしていたインスタ女に見つかってしまった。
だが、そんな戦闘準備もしてない状態ならこいつ程度なら俺でも退治できる。ただし、こいつだけなら。
「おい!こいつらが館長の言っていた例のやつらだ。おまえらさっさとやっちまいな!」
インスタ女は1階床の残骸に奇跡的に埋もれなかった扉に駆け込み、適当すぎる指示を出して逃げていった。
目の前には7人の男女、こいつら全員に異能力があると思うと骨が折れるどころでは済まされないかもしれない。
肉を断たせて骨を断つくらいの気合いで行かなくてはッ!
「うっふーん、投げキッス」
露出度の高いグラマラスなおば……女性が唐突に投げキッスを安平に向けてしてきた。投げキッスと同時に、口元からピンクのハートが飛んでいき安平の体を空気砲のようにすり抜けていった。
「わぁお、セクシー…って、あれ?あれれ?体が思うように動かな、い!?」
「まぁじか……」
「先手を打たれた!?」
安平の体が蝋人形のようにみるみる固まっていく。
何が起こったかよくわからなかったが、あの投げキッスのせいで安平が固まっているのは見てそうに違いない。
「どうも、魅了の能力者、ダイナマイト麗子です。すでにそこのボーヤはもう私に飛翔魅了、されています。自力では動けないでしょうね。そのボーヤを助けたかったら、このまま無抵抗で捕まってくださいな」
白い楽屋からゆっくりと階段を一段一段踏みしめて、優雅に降りてくるダイナマイト麗子。
ダイナマイト……麗子…
これまた濃いキャラが出てきたものだ、主人公なのに最近出番が少なかった俺より目立ちそう。
「ダイナマイトナンチャラだろうが、はまぐりボンバーだろうが、我々は絶対に引かない」
ガイドさんがいつにも増して声が熱くなっている。別段このダイナマイト麗子のナイスボディに嫉妬してるわけじゃないと思うが、この仕事は雪海さん率いる……いや、雪海さんがいるcグループのが担当してる最大級の仕事だから、そういった面ではこんなところでつまづくわけにはいかないのだろう。
「あ〜んッ!ハイ皆様ご一緒にッ!」
「「「「「「あ〜んッ!」」」」」」
なにやら気持ち悪いコール練習が始まりだした、後ろにいた異能力者たちもノリノリである。
「はいもっと声あげてッ!!投げキッス!」
「「「「「「投げキッス!」」」」」」
ダイナマイトの口紅塗れの唇からピンクのハートが今度はガイドさんの方に飛んでいく。
しかし、ガイドさんは一歩も動かずただドライバーさんの襟を鷲掴み、自衛隊のライオットシールドよろしくハートから身を守る盾として自分の体の前面に引っ張った。
「ぎゃぁぁ!ガイド!?な、何をす、る」
見事にドライバーさんの体躯に投げキッスのハートは命中し、ドライバーさんの体もまた蝋人形のようにガチガチに固められてしまった。
「よかったな車これで役に立った」
盾のようにして蝋人形化したドライバーさんの後ろに隠れるガイドさん。ドライバーさんを盾にすればいくら投げキッス魔の攻撃といえど届かない。そうすれば勝てる見込みは全然ある、という算段に違いない。
しかし、今度は豚の貯金箱を持った赤メガネのメイド服女がダイナマイトの代わりに出てきた。
ジャランジャラン!
豚の貯金箱を振り出すメイド。その動きがだんだんと大きくなりヘドバンのように縦に振り始めた。
「足りない……足りない足りない足りないたりナーーーイ!」
ジャランジャラン!ジャランジャラン!
俺の体から緑色の光る粒子がメイドの持っている豚の貯金箱に収束していく。
「な、なん、か、吸われてる、ような」
明らかに攻撃は始まっているらしいがすでに思考能力も半分以上奪われ、反撃することも煩わしく感じる。
なんだ、これ……身体が…怠い。
「足りなーい、足りない足りない足り足りないなーい!」
「活力吸収か!清水、あれを止めろ!」
ガイドさんの声が遠くから聞こえる。
ぼんやりとした視界が、さらに霞立っているのがやっとだ。
清水がペットボトルをメイドに投げつけようとするのが見える。奴の能力は水を操る能力、言うなれば安平の水弾の能力の上位互換に属するわけだからペットボトルでさえ、奴にとっては本当に爆弾と化す。
「やめろッ!属性過多女ッ!」
ペットボトルはうっすら弧を描きながら、豚の貯金箱めがけて飛んでいく。ヒットすれば確実にメイドの能力を一旦は阻止できるだろう。
頼むぞ………当た、れ!
「ピョロロロロ〜、ピー!」
笛の音のようなものが唐突に鳴り響き、その音に脳が冴えさせられ、一瞬だが目がばっちり覚めた。そのとき見えた光景は、空中にペットボトルが制止した状態でふわふわ浮いている様子だった。
「あ〜、どうも、どうもどうも!ちょっと通してくださいね…前失礼しますね……はい!私、音マネ芸人のエレクトリカル佐藤って言います!よろしくお願いします!最近は近くの劇場で、前座をやらせてもらってて、はい!いやぁ、それが全然お客さん見てくれないんですよ、あはは!はい、それで、ですね私の異能力は、あの〜、絶対損をさせないので聞いて行って欲しいんですれども、これがどうも地味で……だけど新しいんですよ!聞いて驚かないでくださいね〜!なんと私はーー
「音真似、声真似したら声真似のバリエーションによって異能力が発動する能力でしょ。はぁ…あんた長いのよ、話が。だぁーから売れない芸人なのよッ!」
オレンジ色の古着っぽそうなTシャツ1枚にある意味ビンテージなジーンズを履いた以下にも売れてない感の漂う芸人。話す内容が長い上、はいの量が多すぎる。
それだから、仲間内にすら遮られるのだろうけど……
「ダイナマイトさんそりゃあないっすよ!俺の1番の見せ場なのに!」
「はいはい、出番を終えた脇役は黙って下手に控えなさい」
エレクトリカル伊藤、いや、 後藤…佐藤を腕で押しのけ、再度前に出てくるダイナマイト。渋々バックに戻った佐藤はメイドに豚の貯金箱を腹に押し当てられた。
「同情するから金をくれ!」
「えっ………金子ちゃん、おじさんに同情してくれるのかい?優しいねぇ。おじさん家族にも逃げれちゃったけど、なんか、生きる希望……見つけちゃったかも」
唐突に変なことを口走り、目尻涙をためて上を見上げる佐藤。
家なき子に社会に淘汰されたおじさん、どちらもかなり同情したくなる代物だ。
こんな場じゃなけりゃな!つか、佐藤の方に関しては完全に自業自得臭がするッ!
「金子ちゃん、そんな奴からお金もらったら後で三倍の借金をする羽目になるからやめときなさい」
「ちょっとぉ!」
「うっさい!てなわけで、後半戦は次回だよ!覚悟しときな!」
?次回ってなんの話だ?
ていうか、誰に言ってるんだ?




