矢鳥の巣に集まる烏合の衆
「シスター・ハーモニー。残念ながらそれは叶わないと先に忠告しておこう」
「ワーオ、チンチクリンのアナタ。ワタシのこと知ってるんですか、おほほほぉ、ミーも有名になっちゃったワ!」
八鳥さんの迫力に負けないほどに、キャハ☆とシスターらしからぬギャルとルー大柴を足して二で割ったような雰囲気を醸し出す。
しかし、矢鳥さんからしたら異能力者を3人も相手にしなくてはいけない大事態だというのに、やせ我慢の冷や汗一筋も流さないのは凄みを感じる。
暮れ始めた太陽に背中を照らされ、さらに余裕に拍車がかかっているようにすら見えるのだ。
「矢鳥さん、一体何を仕組んでいるっていうんですかッ!?」
彼女の脅し立てるような笑顔にとうとう俺はしびれを切らした。
俺の言葉なんてものは関係ないと一蹴するように足を組み替えて、ゆっくりと話し出す。
「そもそも、戦闘に不向きな能力の僕が銃とこんなお粗末なナイフ一本、銃一丁で突撃するわけないだろう?だから、日雇いの皆様を呼んでおいたんだよ。そろそろ孤児院の方で暴れ出しているんじゃないかな?」
矢鳥さんはチラッと目で孤児院を見る。
先ほどまで、遊んでいた子供達は風のように消え、小さな砂埃だけが舞っている。
横長の孤児院の窓に光はなく、嫌なくらい静かだ。
「キルコ……孤児院壊しちゃうけどごめんね」
突如として、シスターが部屋の中に異能力で光を充填させ始めた。その明るさは文字どおり、明らかに危険なことが目に見える。
危険だと判断したのか、ガイドさんが突然俺の襟元を掴み、シスターの開けた大穴から俺共々脱出した。いとも簡単に引っ張り寄せるその豪腕のせいで、俺の足は地につかず首が思いっきり締められた。
そして。あの窓が等間隔に並んだ長い廊下をくノ一のように駆けていき、入ってきた分厚い木造の二枚扉をいとも簡単に蹴破った。
投げ飛ばされるようにして、地面に足がついた俺はやっと春の新鮮な空気を肺いっぱいに吸うことができた。
二、三回咳き込んでいると、教会の影が黒く濃くなっているのに気づいた。キィィィィンと金属が擦れるような音が小さく鳴っているので、俺とガイドさんは教会と孤児院の間にあるグラウンドに回り込みその正体を目にした。
「ま、眩し……!!」
孤児院のあった場所が太陽よりも明るく輝いており、そのせいで光を遮る遮蔽物の影は真っ黒になっていた。
音の発生源もそこのようで、その音をよく聞くと鐘の音のようにも聞こえる。
やがて光はすぼむ花火のように小さくなり、飲み込まれていた孤児院が全容を見せた。
孤児院後は見るも無残に大型爆弾のクレーターのように抉れ、焼け焦げている。
生命が生きづかないような絶望的な場所に、なんの手品かポツリポツリと子供の姿があることに気づいた。
「………ここ数年は青空教室になりそうですよ」
服が若干焼け焦げた神父が、残念そうな表情を浮かべ、ぱっぱっと煤を払いながらやってきた。その表情は本当に苦しそうだった。
「護星教会、最後の切り札であるシスター・ハーモニーの最強の博愛、光を操る能力。その光は全てを薙ぎ払うほどの熱線にもなりうれば、子供を守る護正の盾にもなる。まさに指折りの強さを誇る異能力者と言って過言じゃないな」
ガイドさんが淡々とこの光景についてのことを説明してくれた。
いや、どうして知っているのか。
九死に一生で逃げ延びた矢鳥さんも制服のスカートや袖が引き裂かれた状態で煙の中から出てきたが、実際のダメージ量は微量な気がする。
「総勢50名以上雇ったつもりだったんだけどなぁ。安上がりに素人も俣野がいけなかったのか。一瞬で蒸発するだなんて、エゲツないね。しかしだ、君らにとっては残念だが、ちらほらと生き残ったのもいるようだし、作戦は続行できそうかな。さて、僕も作戦通りやらせてもらうよ。」
ナイフを構えた矢鳥さんがグラウンド中央から、短距離走者のように素早く突進した直後、隣から一人分の気配が消え、ふわりと髪をなびかせるほどの空気の流れを感じる。
ガギンッ!
重い金属音。人外的な距離の詰め方で矢鳥さんのナイフとガイドさんの黒い警棒が力を伯仲させてぶつかり合う。
「私が相手をしよう。」
「君も大変だな。戦闘向きじゃないのにこんなアクションしなきゃいけないだなんて……いや、それは僕も同じか。じゃあ、結局これが君の確定させた運命のルートかい?」
矢鳥さんはナイフを手首のスナップで警棒をすり抜けさせ、ガイドさんの首筋を狙う。
そのナイフをガイドさんが左手で腕ごとつかみ、ガラ空きの警棒で脳天をかち割りに行く。
矢鳥さんは右足軸回転でそれを半身でかわし、右手に持っていたナイフを落として左手に受け渡す。そしてそれをそのまま、ガイドさんの腹部を横一文字するようにしてなぎ払おうとする。
ガイドさんは左足でそれを蹴飛ばし、二人とも距離をとった。
高度な攻防戦は俺の脳に詰まった処理能力を上回るスピードで行われ、何度も金属音と火の粉を見せた。
「私たちは子供達を避難させます!どうか、蓮間さんも手伝ってください!シスターも!」
神父は今のうちと言わんばかりにそういった。
「え、はい、わかりました。今向かいます!」
「オーケーよ!希望の光よ、子供達を護って!」
キィン!ガキィン!と金属の弾けるような音を響かせる戦場をすり抜け、俺たちは走って孤児院跡のクレーターに向かった。
シスターは光を操る能力を使い、子供達に光のベールをまとわせて多少の防御力を与えたようだ。
神父も祭服でも韋駄天のような足の速さを見せ、誰よりも早く子供達の元に着いた。
「大丈夫ですか!?怪我はない!?」
3人の子供の集団に跪き、体に怪我がないか素早く確認する神父。子供達は大してこの状況にパニックを起こさず、ボケーっとしている。それどころか笑顔で神父を励ます子もいた。
「こんなの日常茶飯事だからな、大丈夫だぜ」
「シスターちゃん、今度は何しちゃったの?」
「……おうち、なくなっちゃった」
ちょっと天パがかった黒髪の男の子、笑みを浮かべている肌の白い男の子、赤いカチューシャをつけクマのぬいぐるみを抱えている女の子。3人には特に焦りを感じられなく、ちょっと先の方で行われている例の二人の攻防戦に興味津々といったところだ。
「アレには絶対近づいてはいけませんからね。さもないと、みんな殺されてしまいます」
神父が3人に注意するも、御構い無しの二つ返事しか返ってこなかったが、孤児院にいたらしい他の子供達も集まってきた。
3人を含めて数えてみるとその総員は21名。
なかなかに多い量だ。シスターがいないと思ったら、噂に聞いていた日雇い派遣異能力者の残党二人とバチバチに対峙していた。
「あたし、釘と藁人形、梅ヶ島こうぞ」
「おいら、喰々七面山 こんや」
青髪の男と角刈りの男に挟み撃ちにされているシスター。しかし、その顔は自信と希望で満ち溢れていた。
「何それタレントネームですか?でも、ありがとうですよ。なんて言ったって、そういうの日本じゃ負けのフラグって言うらしいですからね!」
清楚の清の字もないようなおてんばな言葉で眼前の二人を貶すシスター。二人もそれには黙っておらず、ついに戦いが始まった。
「オイオイ、あいつらだけ楽しそうじゃねえか。俺にも楽しませてくれるよな、ボーヤ」
背後から滑りのある重低音が聞こえる。その声だけで鳥肌が立たせられ、背筋がぞわっとする。振り返ってみると身長が高い割に細く、黒い厚手のコートに黒いマスクをした男が立っていた。
見るからにあちらの二人よりも危険そうな男が俺を呼び、マスク越しで濁されているその声でこういった。
「決死戦場」




