十二話:異常
(今回は短めです。次回からは元の長さに戻ります!)
「……という訳で、要約すると、アカツキはまず魔力を通すパイプ……血管をより魔力になじませなければいけない」
「なるほど」
あれからいくらかの説明は続いた。
世界は龍の死骸で出来ており、その龍が死に絶える時に吐き出した息が魔力として循環していること。
魔力をロスなく循環させるには、魔力を体に馴染ませることが必要である――などだ。
そして今、アカツキは体に魔力を馴染ませることについて、ラージャに教えを受けていた。
「魔力を無駄なく循環させるには、漏れ出る魔力について知らなければいけない」
「……と言うと」
「漏れ出したところは、魔力を循環させるにあたって、特に脆くて鍛えられていない場所。認知することによって、そこを鍛える」
ラージャはそう言いながら、アカツキの額、右胸の二つに指先で触れる。
「大体の場合は、この二点から漏れ出すことが多い」
「なるほど……。とりあえず魔力を循環させてみるね」
アカツキの言葉に満足げに頷いたラージャ。
ゆっくりと魔力を循環させ始めたアカツキは、自分の内側に意識を向ける。
……確かに、アカツキは三箇所から魔力が漏れ出す違和感を感じる。右胸、肩甲骨から少し下あたり、そして側頭部である。
「どこに違和感がある?」
「右胸、背中、頭の左右の端っこ」
「……? 本当の色。でも信じられない」
ラージャは驚いて、アカツキの言葉を聞いた。それはアカツキだけに感じることが出来るような薄らとした表情ではなく、誰から見ても驚いていることがわかるほどのものだった。
何が何だかわからないアカツキ。そんなアカツキを放って、ラージャは深々と考え込んでいた。
流石に考えている途中に声をかけるのは不味いかもしれないとアカツキは躊躇したが、しかしまず自分がどういう状況なのかが気になるのもまた事実であった。
「ラージャ?」
「……ん。アカツキ、よく聞いて。人間の魔力回路は、大きく分けると三つの区画を経て循環している」
「三つ?」
「心臓、股間、そして額付近。この間をぐるぐると回っている。逆に言えば、これ以外のところに魔力の順路はない」
「……つまり?」
アカツキは疑問符を浮かべながらラージャへと問いかける。
ラージャはアカツキの方へと向き直り、真剣そのものといった表情を浮かべる。
威圧感を感じたアカツキは、何がラージャをそういう風な表情にさせているのかがわからず、戸惑いの度合いを深くした。
そして、ラージャが口を開く。
「……端的に言えば、アカツキは人間じゃない」
「………………え?」
「側頭部や背中に魔力が循環するのは、生物の中でもそれなりの上位の存在」
「……いやいやいや、僕の両親は正真正銘の人間だし、おじいちゃんもおばあちゃんも、特異性のある出身ではあったけれど、普通の人間だったよ?」
「わかってる。でも、事実としてはそう。アカツキの存在は……少し奇妙」
落ち込んでいると見たのか、ラージャはしっかりとアカツキの手を握る。
そして珊瑚色の瞳でアカツキの黒い瞳をしっかりと見ながら、アカツキを慰める。
「大丈夫。アカツキは人間。ただちょっと他の人とは違うだけ」
「……うん、ありがとう」
「それに、人間じゃなくたって、ずっとずっと、私はアカツキの友達。離れない」
当然であると、ラージャは胸を張る。
普通の人間とは少し違うことは、アカツキに少なくない衝撃を与えた。しかし、考えてみると、そもそもアカツキには普通の人間の血が流れていない。
アマギ・イッテツ。アカツキの祖父の――異世界人の血が流れているからだ。
だとしたら、少し違うのも納得できる話ではある。
だとしても、アカツキの心の中には少しのしこりが残った。しかし、ラージャがそのしこりを取り払った。
それほどに、友達という存在はアカツキにとって大きかった。
「――うん、ありがとう」
「ん。むしろ当たり前のことを言っただけ。友達は永遠」
「そうだよね、うん。そうだ」
心の中に少しだけ残っていた暗い気持ちをアカツキは追い出して、ラージャの珊瑚の瞳を覗き返すアカツキ。
ラージャは、アカツキの様子を見て元気を取り戻したと判断したのか、手を離して眼鏡を両手でかけ直す。
どうやら、再び授業を開始するようだ。
「で、話を戻す。アカツキの無駄をなくすために、魔力が漏れ出ている場所を塞ぐ」
「……その方法は?」
「簡単。さっき探った魔力が漏れ出やすい場所あたりを特に注意しながら、誰かが魔力の流れを導く」
「魔力の流れを導く? そんなことが出来るの?」
「少なくとも、共感を満足に使うことの出来るくらいの力量があれば、できる」
そう言いながら、ラージャはアカツキへ自らの髪の毛を一本握らせた。
ラージャの腰まである青くて長い髪の毛は、アカツキの手から今にも消えてしまいそうな程に透き通っている。
そしてラージャは、髪の毛をアカツキに握らせて、そこに魔力を流し込むように指示をした。
アカツキの魔力が通ったラージャの髪は淡く光り、魔力の作用で浮き始めた。
それを確認したラージャは、髪の毛の一方を持って、目を閉じた。
「じゃあ、今から魔力を流していく」
「うん」
どうなるのだろうか、とアカツキは戦々恐々としながら、ラージャの魔力が入ってくるのを待っていた。
程なくして、握っている手から何かじんわりと冷たいものが流れてきているような感覚が伝わってくる。
これがラージャの魔力なのか、とアカツキが判断した次の瞬間――。
「はえ?」
アカツキは気を失ってしまっていた。