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零話:勇者アマギ
今からさほど遠くない昔、その人物はこの世界へと舞い降りた。
ありえないほどの精度で縫われた服。この世界では希少とされる、黒い髪に黒い瞳。
その人物の召喚に、人々が湧いた。勇者の出現であると、魔を滅する最強の戦士の降臨だと囃し立てた。
そして、勇者も期待通りの強さを発揮した。
並みの人間では丸一日かけてようやく討伐できる魔獣を、たったの一太刀で下す。一人で千の戦士に匹敵する――等、その逸話には枚挙にいとまがない。
そして勇者は優しかった。健やかなるもの、病めるもの、富めるもの、飢えるものであろうとも、そのすべてに等しい優しさをもって接した。
やがて魔を滅し、貴族にまでなった勇者を讃えて、人々は口ずさむ。
彼こそ、勇者アマギ。その名あるところに平和ありと。