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それから数日が経過した。
午前と午後は少女達の訓練に時間を当てていた。
「最近はもっぱら訓練だな」
リリスがふてぶてしく言った。
「クエストも控え気味かな」
「リリスはクエストも訓練もどっちも嫌いよね。面倒でしょ」
「部屋に居るのが1番だ」
「そう言うけどリリスは成長してるのよ、だって強くなってるもの」
「自分ではわかりにくい」
「ミーコの言った通りだよ。確実に強くなってる。俺が保証する」
「へえ〜」
リリスはあまりピンときていない。
冷の想像以上に成長しているのには驚くほかない。
(この子達は成長期なのかもな。魔物とのクエストは控えて、訓練に集中していたが、最初と比べたら比較にならない程、剣術、体術、防御力に目を見張るものを感じた。やはり俺の目は確かだったな。この子達はまだまだ成長する。もっと鍛えてあげよう)
訓練は嫌々ながらもこなしていく。
本人達も知らない内に強くなっているのだった。
(そう言えば、道場の建築工事がどうなったか、見てみたい)
冷は道場を見てみたいと思い、彼女達に確認してみる。
「あのさ、道場がどこまで作れたかを知りたいんだ」
「見に行ってもいいですよ」
「あれから何日も経ってますからね」
「よし、下見にいこう」
「やったね、訓練は終わりだ」
「リリスには道場が完成したらたっぷりと訓練してあげてください」
「わかった、約束するよ」
「やめろ!」
商人に建築工事を委託してから、日が経った。
どこまで作れたかの確認に行く。
購入した土地には、何人かの作業員が働いていた。
日本でもよく目にする光景と同じであった。
「冷の土地は前は草っぱらだったよね。それを私達が草むしりして綺麗になった。あれからしたら建物の土台が作られたのでは?」
「あの時は頑張ってむしったわ」
「そうそう、誰かさんがムチャさせてきて」
「あれは、君たちの訓練だよ。道場の基礎部分は作られた感じする。まだ時間がかかりそうだ」
(もう少しかかりそうだ。楽しみは後に)
「冷氏は気が早いです。そんなに早く作れるわけない。時間はかかるのです。その方が良い物が作れると思います。余りにも早いと逆に怪しい」
「つまり、手抜き建築て奴か。せっかく作るのだから長く使いたい。どうも俺はせっかちな性格のようだ。まだかまだかとなってしまう」
冷はまだ道場が完成するのにかなりの時間がかかるとわかって、残念に思った。
気が早い性格が現れたのだった。
「よし、道場は進んでいるようなのでギルドに行こうか」
(訓練ばかりでは飽きてくるのもある。力を試すには実践しかない。彼女達の現在の力より、ちょい上くらいのレベルがいいだろう)
「クエストですね」
「何日かぶりだな」
「嬉しそうだな君たち」
「嬉しくはないですよ、本当に嬉しいのは冷氏では?」
「えっ、俺かい。まぁ楽しみでもあるからな」
(言われてみると楽しみである。もちろん危険もある)
「これでは冷に利用されてるみたいだわ」
「冷氏に育成されてる感じする」
「いいだろ、君たちはとても強くなってるのだから。でも危険もあるから手放しはしないよ。ちゃんと見てる」
(育成か。俺はどこまて彼女達を育成てきるかな)
その足で冒険者ギルドに向かう。
いつもならクエストを受付けをしてもらうのだが、今日は違う。 テーブルにつき冷はアリエルに詳しく知りたいことがあり、教えてもらおうとした。
「なぁアリエル、教えて欲しいんだ、話の内容としては俺のこと、この世界のこと、魔人のことなどだ。アリエルが転生前に言ってたのは、人族は魔人には敵わない、何度も絶滅しかかったと。魔王を復活させようとしていて、それを食い止める必要があるんだったろ」
「そうです。あらゆる異世界を滅ぼす恐ろしい事態になると。もう少し詳しく話しましょう。私が女神になる前の話ですが、遥か大昔の時代。ここには勇者と呼ばれる者がいました。勇者は人族でありとても強かったと。外界には魔物も今と同じ様に魔物はいました。しかし魔人や魔王はおらず、人族が大量に殺されたり、絶滅に近くまで殺されることはありませんでした」
「魔人は生まれてなかったからか?」
「いいえ、すでに魔人と呼ばれるレベルの魔物は存在していました。決して人族の前には現れなかったのです。その理由として魔界の存在があります。魔界にはその時代の最強種である淫魔がいましたからです」
アリエルは唐突に淫魔と言ったので、話を聞いてるリリスも驚く。
「私が話に出てきたか」
「淫魔が! それってリリスの魔族だろ」
(淫魔は強くて魔族らの上に立っていたとなるな)
「リリスのもっと古いご先祖さまと言えますね。その昔は全魔族、魔物を従えていたのが淫魔族。淫魔が支配していて魔王や魔人と呼ばれるのも支配していたの」
「でもリリスはとてもそうは見えないが……」
(そこまで強いのか淫魔は)
冷はリリスを見ながら首を傾けた。
アリエルもそこで話をとめる。
なぜか言い出しづらいようであった。
そこにギルド店員のユズハが現れて話に入ってきた。
「アリエルさんが話しづらいようですから私が話します。大昔、とある事件があって淫魔族は没落したと記されてます。歴史によると淫魔族のリーダーと勇者はとても仲の良い友達であったとされていて、ある日のこと事件は起きました。勇者が淫魔に対して文句をつけました。淫魔族のしている魔物への支配、絶対服従。それらをかわいそうだから止めろと言い出したのです」
「それは淫魔族が悪いだろ。偉そうにしてたからだ。だからリリスもそんなに偉そうな態度なんだな、やっと謎が解けたよ」
「うるさい、私だって知らない内容だぞ。それに偉そうには余計だ」
「その時に事件は起こったとあります。勇者が淫魔のリーダーとバトルになった。淫魔側は魔族のしていることに文句をつけるなとなり、勇者は魔物にも自由にさせてやれと言い出し、両者は言い合いから口喧嘩、そして殴り合いへと発展していったとか。その果てに淫魔側は隷属が使えなくなっていて、魔物は人族がいる地にも開放されてしまった。戦いは両者の力が拮抗して勝負はつかなかった。お互いに互角の能力であった。結果的には勇者からみて魔物が開放されたので良しとした。淫魔はムカつくし勇者を嫌いとなる」
「おいミーコ、キミのご先祖さまは素晴らしい人格者だな。俺は尊敬するよ」
(要するに淫魔が性格悪いから、勇者が魔物を助けてあげたわけだな)
「ありがたく思います冷氏。私も今の話は薄っすらとしか知りませんでした。その血が私の中に流れているとわかり誇りに思います」
ミーコはリリスに勝ち誇るようにして言った。
リリスは当然のようにムッとなる。
「なんで私だけ悪者みたいじゃないか。もっと良い話があるだろう。魔族にも良い心もあるのだぞ」
「はい、勇者は自分では納得の行く行動をしたと大満足だったそうです。その地点では……」
「その流れで言うと、悪いこともあったと?」
「魔物達は淫魔から独立した。そうなると今までと違い、誰からも指図は受けないとなりますよね。特に高レベルな魔物程、淫魔に対して恨みを持っていたようです。じっと押さえつけられていたわけだから。それが無くなったとなると、どうなるか?」
「……つまり魔物達は人族の地で人族を襲い出す……」
「正解です。魔物達は今までのストレスを発散させるようにして暴れ出したというわけで、もう数も多いし冒険者だけでは手がつけられない状態に。勇者もこの有り様に失敗したなと言ったとか」
「てことは、ミーコのご先祖さまは、尊敬されるどころか大問題児ってことだな。世界の人族を窮地に追いやったんだから」
(つまりは余計なお世話したせいで世界が崩壊したと)
「ま、まさか、私のご先祖さまが、そんな失敗をしたとは、誇りに思ったのを訂正します」
先程とは逆に申し訳ございませんと頭を下げる。
別にミーコがしたわけではないから責任をとることはないが、ミーコは責任を感じてしまった。
「ほら、みろ。淫魔は悪くなかったんだよ。それまで隷属させていたのは人族を守る意味もあったんだろ。素晴らしいのは淫魔のご先祖さまだぞ、わかったか、ミーコ、アリエル!!」
リリスは逆に大きな胸を揺らして自慢しだした。
「いいえ、そうとも言えません。淫魔はかなり酷い隷属を強いていたとか。性格が悪過ぎて勇者が可哀想に思ったのです。あまりにも性格が悪過ぎた淫魔にも責任はあるとされています」
「……おい、リリス、やはり性格悪いらしいぜ」
(受け継いでいるとしか思えない時がある。あれはそういう理由だったのか)
「……そ、そ、そのようだな、アハハハ……」
笑ってごまかすリリスであった。
「さらに、悪いことに魔物のなかでも高い能力の持ち主がいました。人族並に知能も持ち合わせていて、それらは魔物を従え初めたのです。後に魔人と呼ばれるのですが。もちろん魔物も寿命がありすから入れ替わっていますが、能力はかわらないはず。最も人族にとって災難だったのは魔人をも従える存在がいたこと。3人の魔王です。それらは暴れだして手がつけられない状態と化した。強さは尋常な強さではなく、人族は絶滅の危機にまでなりました」
ユズハ店員は話をしている最中にも恐ろしくなってきていた。
話したくもない過去。
初めて聞かされた日は、眠れなくなった。
その関係者がここに集まっているのは、なぜなのかと考えてしまう。
「それでどうなったか。勇者がいるだろ。または淫魔に言ってもう一度隷属させればいい」
(元の状態に戻せばいいだけのこと。簡単だろう)
普通はそう考えるだろう。
だが歴史はそうはいかなかった。
「勇者はこれは大変だとなり、慌てて魔人と魔王の討伐に向かいますが、いかんせん、相手はとても強いし、数も多いし、特に魔王となると別物であった。そこで勇者は友達に相談した」
「淫魔のリーダーかい?」
「いいえ違いました。その友達とは淫魔でなく女神。なんと勇者は不思議なことに女神とも友達だったと記されていました」
「ええっと!女神が!」
冷とリリス、ミーコはアリエルの方を見やる。
女神が関わってくるのは初耳であった。
なぜか話しづらい雰囲気だったのは女神が関係してくるからである。
「その通り、なんと私の先代の先代のもっと……先代の女神が勇者と友達だったと聞いてます」
アリエルは照れ笑いを作って言った。
勇者からの助けに女神は行動に出たのである。
そもそもどうして友達なのかは、はっきりしていない。
どうやって連絡を取り合ったのかさえ、わかっていない。
しかし事実、女神は地に降りてきて勇者と話し合う。
淫魔に口を出して魔族や魔物が暴れて手に負えないと。
どうか助けてくれよと、せがんだ。
まぁ女神としては、助けないわけにはいかなかった。
放っておいたらとても危険だと知っていたから。
ちょっとした出来事から世界の崩壊まで起きた歴史。
学校でも教科書に載っている重要事項である。
冒険者なら知っているべきことで、知らないのは冷くらい。
それを知ってか冷は恥ずかしい感じになる。
(まずいな、俺って歴史を知らなさ過ぎだな。もう少し知っておこう。勉強って嫌いなんだけど、どうしよう)




