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ギルド店内は異様な空気に包まれた。
ガーゴイルというフレーズが空間を漂ったから。
あってはならないフレーズもある。
聞かなくてもいいフレーズもある。
ガーゴイルというフレーズは誰もが聞きたくないフレーズである。
そのフレーズを容易く言いのけたので、ギルド店内は異様な空気に変わる。
ミーコもそれを察知していた。
「あの冷氏さぁ、みんなが凍りついてます」
ミーコの言う意味が冷も伝わった。
周りにいた冒険者達が時間が止まったかのように動かないのが変である。
「黙ってますね」
「静かになった」
「凍りついてるなあいつら」
「みんなどうしたのかな?」
(俺の方を向いてますが、やっぱり俺が悪いのですか。言わなくても目で分かりますよ)
冒険者は冷に話しかけられて全員が反応して壁に張り付いていた。
まるで怖がるようにして。
「お前が話しかけたから、怯えて壁に張り付いてるぞ。どうもお前は冒険者からみると危ない奴らしい」
「リリス、俺は良い事をしたはずだぜ。みんなの為になるようにだ。怯える必要ないからよ」
「怯えてるよ」
「皆さん、お元気ですか」
「ひえつ!」
冷がひと言言っただけで、何人かの冒険者はギルドから飛び出していった。
「俺を魔人のように見やがるな……」
(これでは英雄どころか何にも評価されないよ)
「当然です冷さん。あなたはもはや魔人レベルの存在。怯えてしまうのは当然です。それを自覚して生きていつて。ガーゴイルがどれ程冒険者から恐れられていたかがわかります」
「俺としても気を付けなきゃダメか」
(気をつけます)
「なぜかしら冷は魔人と引き会う。そう言う運命を持ってる」
「嬉しくねえ運命だな」
報告を終わるとギルドを出た。
アリエルが最初に宿屋に行くのを言う。
「この後は宿屋に帰るのが先決でしょう。ネイルが待っているのですから」
「きっと心配してるわ」
「早く帰ってやろう。俺も会いたいしな」
(心配させたかな……)
宿屋に直行する。
部屋に入るなりネイルが飛び立つようにして、冷に抱きついてきた。
「ご主人様!! ご無事でなりよりです〜」
「心配かけたな」
(心配させてゴメンよ)
「はい、ギルドの人からご主人様達が遠くに仕事があるから2、3日は帰れないよと教えてくれたの〜」
「そうか、俺達はとても大きな仕事をしてきた。ほら、おみあげだよ、食べな」
(コットルの町で売店で密かに購入した)
ネイルは抱きつきをやめて、冷からもらう。
「肉だ〜!」
「干し肉だ。ネイルは好きだろうと思って」
「美味しいです。干し肉、美味しい。もっとくださいご主人様」
「ああ、ごめんな、これしか持ってないんだ。また買ってくるから」
(こんなに嬉しがるなら、沢山買うべきだったな)
「ああ、食べたい〜」
「困ったな」
(本当は無いんだよな)
「冷氏よ、これからご飯を料理しましょう。私もお腹が減りました。食材はあるし、買いに行かなくても大丈夫です」
「料理は賛成」
「頼むよ、俺も減った。これから料理としよう。アリエル、リリスも頼むぜ、美味しい料理を作ってくれ」
「それは私の得意分野、はりきります」
「不得意分野の間違いなんだけどよ」
「なにっ!リリス。今、何か言いましたか?」
「いやいや、何も言ってねえ。アリエルの料理を楽しみにしてるぞ冷が」
「まぁな……あはは」
(なぜ俺に振るよ)
「れ……い」
「楽しみにしてますってば!」
(何が出てくるかがわからない楽しみがだけど……)
それでも皆はお腹が減り、料理はその後完成した。
肉は良く焼き、野菜もサラダとした。
アリエルの顔色を伺いながら、皆は食べることに。
特別、問題はなく食べ終え、味もまずまずの出来と言えた。
アリエルの担当したサラダは簡単であったのもあった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま!」
食事を終えてひと休みする。
旅の疲れもあり、リリスは風呂に入りたいとなる。
「お腹が満腹だ。もう疲れたし、風呂に入りたいから準備するぞ。アリエルとミーコも入るか?」
「入りたいです」
「入ります。けど女子だけならね」
「なんだアリエル、その女子だけならって!」
(俺は一緒に入れないじゃないか。いくらなんでも、楽しくないだろ。俺は絶対に入るからな)
「普通に入ろうとするのは、どうかと思います」
「だって、冷はガーゴイルと戦って疲れてるだろ。だから後でゆっくりと一人で入ればいいと思ったの」
「それでは面白くない」
(悲しいだろ)
「ネイルが入ってあげます!!」
ネイルがだきつく。
「おお、ネイルだけだぜ。俺を裏切らないのはさ」
(本当に可愛いな)
それから風呂の準備は完了した。
「入るぞ」
リリスは服を脱いでいく。
「私も」
リリスに続いてミーコが服を脱いだ。
大きな胸が揺れる。
「私も入りますわよ。冷はダメだからね!」
アリエルが服を脱いでいく。
もちろん冷の見えない所で。
「わかってるさ」
アリエルも入って行った。
部屋には冷とネイルだけ残された。
(うう、みんなしてヒドイな)
「ご主人様、もうみんなは風呂ですし、ネイルと寝てますか」
「それもいいな。でも俺としては風呂に今、入りたいのだ」
(どうしても入りたい)
「ええっと、アリエルが怒りますでしょう。あんなに忠告してましたし、今入って行ったらダメですよ〜」
「俺を止めても無駄だってことをわからせてやろう!」
(俺のことがまだわかってないようだ。そこのところも教育しておく必要があるな)
教育系として風呂場にナギナタを担いでいく。
しっかりと教えてやる為に持っていった。
冷はニヤリとして風呂に入って行った。
風呂はリリスとミーコ、アリエルが3人で湯に。
気持ちよく湯に入っていて、安心しきっていた。
「いい湯だな」
「冷氏がいないから安心できます」
「あれだけ言っておいた。さすがに入ってはこれないわ」
アリエルが安心しきっていた、その時に冷が現れた。
驚いたので、思わず湯から出てしまう。
そうなると裸は丸見えとなった。
「冷!! あなたはの時間ではないのよ。ちゃんと時間を守りなさい!」
「そうは行くかよ。俺は俺の時間で入るのさ!」
(ていうか、アリエルさん、裸見えてますよ)
冷はドボンと風呂に飛び込むと、お湯は波たち彼女達の顔にかかる。
「もう!!!!!!」
「お湯が顔に!!!!」
「熱いだろ!!!!!!」
「俺を仲間外れにした罰だぜ!」
(みんな見えてますよ)
「ご主人様〜〜〜〜〜」
更にネイルまで服を脱いで来てしまう。とても大きな胸が入り、風呂は冷と女子の混浴風呂となった。
そこでとてつもない事が起きていた。
とてもあり得ないことで、最初にネイルが異変に気づいて、
「あれれ、ご主人様、何かおかしくないですか」
「おかしくないけど」
(混浴風呂は俺の夢だから、おかしくない)
「でも、おかしいです」
「どうしたのよネイル。あなたかま変よ」
「言ってごらんよ」
「はい、風呂に入ってるのってご主人様とアリエルとミーコとリリスと私と5人だよね。数えてみると6人いるのよ」
ネイルが指で確認しながら数を数えてみると6人いた。
「あれれ、本当だわ!」
「確かに変ね!」
「そんな馬鹿な!」
「どうしてだろう」
(俺にもわからない。なぜひとり多いのだろ。もしや……)
「まさか敵ですか?」
「誰だ!!!! そこに居るのは!」
リリスが湯けむりで見えにくいが、人影を捕まえて言った。
「痛い、痛いよ、離しておくれよリリス」
リリスが捕まえた後に声がした。
その声には冷は聞き覚えを感じた。
「その声には聞き覚えがある、誰だっけかな」
(誰だっけかな、思い出せない)
すると湯けむりが晴れて人影は姿を現した。
「私だよ冷」
現れてきたのは美少女である。
とびきり可愛いらしい。
胸を押さえて隠していた。
「えっっと、わかりませんが誰だか?」
(見たことないのですが。けど可愛いな。こんなに可愛い娘を見たら忘れるはずないよな)
「ちょっと誰なのよ!」
「冷の知り合い?」
「またも女の子を連れてきたかよ!」
「違う! 俺は連れて来てなどいないよ。信じてくれよ」
(この感じだと敵ではないな)
そこで謎の美少女が説明をしだして、
「バカもん! 忘れては困るぞ冷。お前の先祖だろうが、忘れたか!」
「えっっ!! まさか、まさか、バアちゃんかい?」
(確かにバアちゃんの声と似ている。いや同じ声だ。それに俺の名前を知ってる)
「正解。ただ、バアちゃんと呼ぶなと言ったろ。風呂など久しぶりに入ったな。気持ちいい」
現れた謎の美少女は冷の遠い遠い遠いバアちゃんであった。
声が似ているとは思っていた。
「バアちゃんて、冷のですか?」
「そうだよ」
「若いですよね。見た目が私達と同じくらいです」
「昔の若い時の姿だな。懐かしい」
「待ってください。冷氏のバアちゃんなのは、わかりました。でもなぜ風呂場に。それも裸で」
「うう、なぜかわからん」
「ああっ、わかった! ご主人様がナギナタを持ってきていた。そして風呂のお湯がナギナタにかかり濡れた。お湯が原因ではないですか?」
ネイルがとっぴしょうしもないことを言った。
普通に言ったらあり得ないこと。
「その様だな。温泉に濡れると若い時の姿になるようだ、アハハハ」
バアちゃんは愉快に笑った。
「不思議なこともあるもんだな」
リリスは笑うどころか驚いた。
「いいではないですか、こうして冷とバアちゃんが出会えたのなら」
アリエルはバアちゃんの姿に歓迎をした。
一方、冷はというと、
「そっかぁ〜。バアちゃんだったか。なんだか照れてしまうな」
なぜか照れていた。
(それにしても驚いた。バアちゃんがこんなに可愛いとはな。今度から風呂にはナギナタを持ってこよう)
「お前さ、今後はナギナタを持って風呂に入ろうと考えてただろ」
リリスが冷の気の緩みを見逃さなかった。
「思ってないってば!」
「いいのだぞ冷。バアちゃんは裸を見られてもな、アハハハ」
「バアちゃんも勘違いされるだろ、余計なこと言うなって!」
(ダメだ今の俺、完全に変態に見られてる)
「まさかバアちゃんの裸も見たいのかよ。やはり変態だわ」
「やはりね」
「なぜ、こうなる!」
こうして風呂にはひとり増えて楽しむ。
冷だけは緊張していた。
リリスがガーゴイルと戦いについて、
「なぁお前、よくガーゴイルを倒せたな。お前が死んでいたかもしれないんだぞ。無理に戦うことなかった」
「ガーゴイルと戦ってわかったことがある。俺はアリエルにこの世界に送り込まれた。たぶん魔人には勝てないけど、冷ならばって。俺ならば魔人に勝てる気がする。逆に言えば俺にしか無理だってことがわかってきた」
(根拠はないけど、俺しかできないような)
「アリエルはそれがわかっていたのかな。冷氏がここまで強くなると。これだけの潜在力を秘めてると」
「う~ん、確信はなかったわ。まぁ他に適任者がいなかったんだもん。冷の前に送った者はみんな死んじゃった。生き残りは少ないのよ。たいていは冒険者辞めてる。農家や商人したりしてる。残りの人は死んだか行方不明者ね」
「俺は選ばれた者なんだな」
「自慢するな。お前は変態でなければ尊敬してるぞ」
「変態って……こういうことかい?」
冷はリリスの胸を鷲掴みした。
「お前なぁ! それが変態だってんだよ!」
リリスは冷の頭をお湯に押し込む。
「!!!! リリ……ス!!」
「あらら、リリスはガーゴイルよりも怖いわね」
ネイルは苦しそうにもがく冷を見てつぶやいた。
魔人を倒した冷にもこれには参っていた。
風呂の時間を堪能し、全てが楽しかったわけではないが、部屋に戻る。
湯で温まり疲れも取れていた。
リラックスタイムが終わる。
冷にとっては、今日は重要な一日となった。
(これで3人の大物の魔人を倒したとなる。俺の目標としては全ての魔人、そして魔王とやらを倒したらいいのだ。このペースでいけば達成は不可能ではないよな。アリエルからはどう考えても無理だけどとか無責任なこといってるが、俺は無理だとは思はねえ。思いたくもない。あと何人の魔人が居るかは知らねえが必ず倒してやろう。スキルも新たにウインドキル、ガーゴイルの翼などが手に入った。スキルストレージには記憶してある。でも俺には羽がないから、どう使えるのか考えもつかないんだよな。次に魔人と戦えるようにスキルも明日には確認しておこう。あとは道場だな。建築工事の様子も見たいし)
新たな魔人との戦いに備えて心の準備だけはしておいた。
冷の感じていた通り、魔人は動き出していた。
それは冷の行動がキッカケであり、微妙に変化していた。
魔人達の予測していたのと違う経過が、どう影響するのか。
魔王の復活に影響するのかは、まだわからなかった。




