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ウインドキルを覚えました。
ガーゴイルの翼を覚えました。
戦闘を終えて新たにスキルを獲得した。
冷達が役目を終えて行ってしまった。
残されたガーゴイルは動かないのが不思議である。
中級魔人として名のある魔人なのに。
「なぁ、動けないのか?」
「見てわかるでしょ。全く動けません」
「中級魔人ならば余裕で縄をちぎれるだろう」
「無理、何度やっても無理。きっと冷のスキルと魔力量によるもの」
「またも冷かよ」
「嫌ってるの? 仲間かと思った」
「冗談じゃない。あんなの仲間になるかよ。それじゃ王都に連れて行くからな」
「どうぞ」
ギルドの職員も挨拶をしにきて、
「ラジッチさん、騎士団さん、ご苦労さまです。伝染病の薬は血から出来るとのことと」
「そうらしい、血は抜いておこう。そして調合師に渡すんだ。いい結果が出たらいいな」
「さっそく調合師にお願いしてみます」
ガーゴイルから血を抜き取ることに。
ラジッチと騎士団は王都に帰ることにした。
ハンマド国王にガーゴイルを届けるのが最優先である。
国王に命じられた内容はガーゴイルを倒してこいとのこと。
喜ぶことは確定しているし、むしろ驚くのが普通。
冷がガーゴイルを倒した。
それから数日後、王都ではハンマド国王は王の間に居た。
ラジッチからの報告を衛兵と待っていた。
「ハンマド国王、あの様な命令をして大丈夫でしょうか。ガーゴイルを討伐させるなんて、いくらラジッチさんでも冷と一緒でも不可能と思われますが」
衛兵は難しい顔で国王に言った。
常識的に言って無理だと誰でも判断がつく。
「しまったかな……いくらラジッチと冷でも難しかったか。私としたことが、冷なら、もしかしてと期待をしてしまったのだ。なにせオーク、サイクロプスと魔人を倒したのだからな。つい、つい、調子に乗ってしてしまったのだ」
「もしや全滅していたら……」
「それもあるかもしれん。その時は申し訳ないとしか言いようがないな。ああ、ラジッチよ、悲しい戦士をひとり亡くした。私のせいだ」
ハンマド国王は涙を流して言った。
王都では、もうラジッチは死んだことになっていた。
ハンマド国王だけではない、他の衛兵は命令した時からそう思ってる。
ラジッチには二度と会えないと。
ガーゴイルの名を聞いたら、誰でも思うだろう。
戦闘の経験のある衛兵なら当然と言えた。
王の間は静まり返る。
その時に王の間に衛兵が駆け込んで来る。
慌てた様子であり、国王に近づくと、
「ハンマド国王、報告します!! ラジッチと騎士団がたった今、帰りました。ガーゴイルもいました」
それはラジッチと騎士団の到着であった。
何かの聞き間違いではと思う。
「何!! 帰っただと! 早く連れてまいれ」
「はい!」
衛兵にラジッチを連れてまいれと催促する。
その声は嬉しい限りで上ずっていた。
直ぐにラジッチと騎士団は王の間に入って来ると国王に頭を下げた。
「ただいま帰りました」
「よくぞ生きておった!」
「は?」
つい、国王は本音が出てしまい、ラジッチはびっくりする。
まさか死んだことになっているとはおもいもしない。
「いやいや、嬉しいぞ、さすがはラジッチだ。命令通りに実行して帰った。申し分ない働きに感謝する。ガーゴイルを倒すとは!」
「……ガーゴイルは連れて来ました。本物のガーゴイルです。見動きは出来ません。残念ながら私が倒したのとは違います」
「それでは、誰が……。まさかまた、また、また冷か?」
ハンマド国王は疑いつつきいた。
何も聞く前に、てっきりラジッチだと思い込んでいた。
「ご察しの通りです。冷ひとりで倒しました。そして捕獲したのです。あれは異常です。本当に初心者の冒険者なのかと疑います」
「……冷がか。で、その冷はどうした、居るのか?」
「いいえ、居ません。ピルトの町に帰りました。王都に来るようにも言ったのですが、考えてることが読めません。何を考えてるのか理解できないところがあります」
「うむ、あまり評価されるのが嫌いなのか」
「普通の冒険者なら喜んで国王に会います。評価も上がりますし。あれは興味がないようです。しかも伝染病も解決しました」
「何!!」
「ガーゴイルが伝染病の源泉だと推測して行動をとっていたようです。そしてガーゴイルから解毒剤を取れることまで推測、実際に効果があり子供達は直ぐに元気になった。ガーゴイルさえ捕まえておけば、伝染病も消えていきます。もう心配は要りません」
「本当にか。それはでかしたぞ! 全て冷の手柄ではないか。伝染病がガーゴイルが原因だったとは、今まで誰もたどり着くことのなかった結果だ。途方もない活躍としか、言いようがない。もう苦しむ子供もいないし、怖がることもないわけだ。ウル森の立ち入り禁止区域の指定は不要となる。よって、たった今から指定解除する」
長年の間、ウル森にかせられた立ち入り禁止区域の指定は解除された。
冷の行動がまたも影響を与えた結果となる。
ラジッチの話を聞いた衛兵らは、あっけにとられたのは言うまでもない。
作り話にしか聞こえない。
「……ただしこの時代において冷は危険人物では。長い時代ずっと人族は魔人には手を出さなかった。それは一度魔人と戦いになれば、人族は滅亡するやもしれない。魔人は攻めてこないのは単に人族には魔人を封印する魔法があるからとなっているから。だから平穏な時代が長年続いてきた。冷のこの状態が続くと魔人も黙ってないと思われますよ。きっと反撃してきます。そしたら国そのものがどうなるか」
「このまま冷を好きにさせるなと言いたいのだな。それは考えておく。ある程度、冷は行動に制限が必要となろう。だがガーゴイルを捕らえたのは大成果だ。この褒美はあげる必要がある。もちろんラジッチにもだ」
「はい、ありがたく頂きます」
ラジッチは冷の行動を恐れている。
突発的に行動してしまうからだ。
しかも魔人となぜか激突してしまうからたちが悪い。
ラジッチとしては危なくて、これから何をしでかすか不安な気持ちになった。
魔人を刺激し過ぎるのだった。
そして問題のガーゴイルが国王に面会した。
国王も目が合うと身震いして、
「キサマがガーゴイルなのだな」
「そうよ」
「中級魔人となればあまりにも危険。よって城の牢獄に入ってもらうがいいな」
「あれ、殺さないの。殺すのかなと」
「殺しはしないさ。生きていてもらう。人質となれば役に立つかもしれん」
「アハハハ。役に立つわけ無い。まぁ協力する気もないけど」
「それに知りたい情報もある。他の中級魔人の現在地や目的を言え」
「言うわけないでしょ」
「上級魔人についてはどうだ。我々には動きが読めない。ある情報では魔王を復活させようとしているとか」
「知りません」
「言うんだ」
「さぁね。知らないほうがいいかもよ。上級魔人の方にでも会いたいの? 会ったら後悔するわよ。だから知らないほうがいいよ」
ガーゴイルは忠告する。
これは国王を脅かす為ではなかった。
国王の為を思って言った。
つまりは危険だと。
「そんな脅かしに騙されるかよ。言わないならいい。こちらから上級魔人の動きを偵察するから。牢獄に入ってもらう」
「……親切に教えてあげたのにな」
ガーゴイルは残念な顔を作った。
国王はその顔を無視した。
ガーゴイルは兵士に連れて行かれ牢獄へと。
「ガーゴイル、この牢獄に入ってもらう。言っておくが牢獄は魔力で壊れないように作ってあるから破壊しようとしても無駄だ」
「はいはい。入ってればいいのよね」
ガーゴイルは説明通りに入ると、床に座った。
兵士が去り静かになった。
隣の牢獄から声がした。
「ガーゴイルか?」
「誰だ……もしやその声はサイクロプス」
聞き覚えのある声に驚いた。
「どうしてここに来たんだ。まさか俺を助けに来たとか」
「違うよ。負けたのさ。それで牢獄に入れられたわけ」
「負けた? 嘘だろ。誰だよ相手は。冒険者かい?」
「冷よ」
「冷! またかよ! 何でガーゴイルに近寄る?」
「知らないわよ。でもとんでもなく強かったのは事実。まいったわ、私の誤算だわ」
「アレは俺も驚いたよ。何をしようとしているのかわからない。魔王を倒すのかもな」
「えっっ!! それは無理でしょ。だって上級魔人もいるし」
「いや、やりかねないぜアレは。それに仲間も居たろ美少女の3人が」
「ああ、居たな。別に気にしていなかったが、何かあるのか?」
ガーゴイルは特別少女達を意識していなかったので、サイクロプスの言うことがわからない。
「そうか、知らなかったか。教えてもいいが信じるかな」
牢獄の中で、顔は見えないが声で判断はできる。
「教えてよ、もったいぶらずに」
「まず3人は特別な少女だってことだ。そこらにいる少女ではない。赤い髪の毛をした少女はアリエル。女神である」
「なにっ! 聞き間違いだと思うが女神ってあの神族の女神か」
突然に聞いたから、きき返してしまう。
「女神と言ったらひとりしかいない」
「意味がわからないが、女神が仲間とはな。考えてもみなかった」
「それと金髪で背の低いのがいて、勇者の血を引いているらしい」
「えっっ!! それは本当か。いや嘘だな。勇者なら大変な話だよ。我らにとっては天敵。すでに血は途絶えたと聞いている」
魔族なら常識的な答え。
「途絶えたのは知ってる。魔人なら当然だろう。俺も疑ったさ。話を聞くと嘘とはないようだ」
「今すぐに殺さないと危険てことか?」
「冷がいるから無理だろう」
「なんてメンバーなのよ」
「もうひとりいる。それは青い髪の毛をした胸の大きな少女だ」
「ええ、覚えてる。それも勇者か?」
「違う。淫魔だ」
「えっっ!! 淫魔だって! もうとうの昔に絶滅した一族のはず」
ガーゴイルにはもはやどれを信じていいのか悩む。
「生きていたようだ」
「我々魔人の主人。魔王をペットにしていた一族。それが生きていたとはな。それにしてもなぜ冷の側にいる。我々魔人の仲間にならないのだ」
「知らない。ただ3人とも能力は低いので問題にはなっていない」
「今後は急に成長したりしておお化けする可能性もあると」
「覚醒したらどうなるかは上級魔人や国王も予定外だろう」
「そんな3人を連れてる冷って、気味悪いわね」
ガーゴイルはサイクロプスに聞かされた話で、自分が負けたのが少し分った気がした。
王都は冷の成果に驚がくする。
冷を間近で見た騎士団は、早速冷の話を仲間に聞かせた。
いかに冷が凄かったか。
驚異的な強さをみせたかを。
無言で話を聞いた騎士団は、身震いをする。
縄でガーゴイルが来た時は、近づけない程に恐怖した。
もはや冷は王都において確実に評価を得ていた。
知らぬ者はいないまでに。
たったの数日で評価を得てしまったのだから、異常と言えた。
それは当たり前と言えて、歴史上でもないペースで魔人を倒したのだから。
歴史上どの時代にもない最速ペースでの快進撃であった。
歴史上に残る偉業を達成したのに、冷は知らぬ存ぜぬである。
ピルトの町に馬車で到着する。
「やはりこの町はホッとする。落ち着きます、きっと冷の活躍を聞いたら驚くと思う」
「町の人はいつもと変わらないようだぜ」
「今はでしょう。先ずは冒険者ギルドに行って報告をしたら……」
「俺が行ったのは森に草を取りに行くとしか言ってないからな。それ以上はギルドも知らないだろう」
(話しづらい気もする。怒られるのが目にみえてる。仕方ないので笑顔で行こう)
「てことは、ユズハさんはまた驚かせてしまうわ」
「とにかく報告だけはしておこう。いずれは知るのだからな。俺が言ってみるよ」
冒険者ギルドにたどり着くと店内は、いつも通りに活気があり、冒険者で埋まっていた。
ユズハ店員は冷を発見し笑顔で挨拶する。
「あら冷さん、もう帰って来たのですね。その様子だと草を見つけてコットルの町に持ち帰り、目的を達成させたって感じですかね。それにしても早すぎます。仕事が早いのは冷さんの特権階級とはいえ、恐れ入りました」
ユズハ店員は冷の仕事っぷりに感激していた。
こうなると冷は話をしずらい。
勘違いを訂正させなければならない。
(どこから説明したらいいのだろう。俺って相手にわかりやすく話すのは苦手なので、簡単に説明しようと思う)
「ユズハさん、あなたの言ったことは違いました」
(少し違うんだよな)
「違いました? まだ伝染病は治せなかったと」
「それは終わりです。伝染病は治せたと思う。俺もハッキリと見たわけじゃないけど、治せたはず」
(解毒剤は出来たから、問題ないだろう)
「それでは別の森に効果があったとか?」
「う〜んと、森はウル森であってたんだ。それでウル森に入ったんだ。そしたら魔人がいてガーゴイルっていう魔人なんだけど、ユズハさんは知ってるかな」
(たぶん知ってると思うけど……)
「ガーゴイルなら知ってますよ、もちろんね……が、が、が、が、ガーゴイル! ガーゴイルに遭遇したのですか。い、意味がわからないですよ。つまりガーゴイルが居たので草だけ取って急いでコットルの町に逃げたということかしら。それなら話はわかります」
あまりにも名前が突然に出てきて大声を出してしまう。
「森に住んでいたんだな。そんでもって戦いになって俺は戦ったんだ。結局俺は勝ってしまう」
(知ってたのですね、それなら話は早い)
「はあ? ガーゴイルに勝ってしまいって!!!! そんな馬鹿な話を信じろというのですか!」
「途中にはラジッチも倒して、そしたらラジッチも協力してくれて一緒に戦ったんだ」
(ラジッチはまぁどうでもいいんだけど)
「ラジッチさんを倒して……。あのラジッチさんを? 有名な冒険者のお方ですが。知ってたのですよね?」
「ああ、知ってて倒した。ラジッチが戦いに来たから仕方なかった。結果、ガーゴイルから解毒剤が作れたってわけだ、これで子供も助かったようだ。話は以上だけどわかったかな」
(要は俺らの活躍で伝染病は解決済みなわけだよ)
「……全くわかりませんが、ガーゴイルを倒して解毒剤は作れたと」
「そう、その通りです」
「魔人はついこの前にサイクロプスと戦い倒した。それなのにまたも魔人を倒して、いくらなんでも倒しすぎでは?」
倒し過ぎを通り越していた。
これで3人目。
「俺もそう思う」
(謝ったらいいのかな。でも人族にとっては良いことしてるつもりなんだけどよ)
「……はあ……。わかって頂ければいいですが……」
ユズハ店員はまさかの展開に冷や汗をかいていた。




