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冷がウル森にガーゴイルを倒しに行くと宣言した時にコットルの町にはラジッチと騎士団が到着していた。
彼らは国王から厳しいのだが、ガーゴイルの討伐を言い渡されていた。
もちろん冷と協力しての話だ。
しかし冷とは協力して戦うのには気が引けるのは当然で、顔もみたくないのが本音と言える。
一度戦いボロボロに負けたのであるから、ラジッチとしては会いたくない人物なのに、またこの町に来てしまうはめに。
ラジッチは冷は死んでいると推測してもいて、普通にいったら魔人ガーゴイルには勝てないだろうと。
「ラジッチさん、コットルの町に到着しました。最初に冒険者ギルドに行ってみるのが宜しいかと。国王からの指示ですので」
「それが正しい。ギルドなら冷の現在を教えてくれるだろう。ガーゴイルとやりあったんだ。8割方死んでるぜ。生きているなら協力してガーゴイルと戦う。死んでいたらが問題だ」
「死んでいたら、ラジッチさんと騎士団だけでガーゴイルと戦うことに。冷が倒せない相手を私達も倒せないと思いますが」
質問する騎士団は、冷静に冷の強さを分析して言った。
「正しい。俺らも死ぬわな。そこが難しいところだ。戦わずに済む方法はあるか。あれば教えてくれ」
ラジッチは歩きながら騎士団と会話していた。
「ありません」
「正しい。奴が生きていることを願うか。それも悲しいがしかたあるまい」
冒険者ギルドを目的にして足を運ぶことに。
普通なら好待遇を受けるのが当たり前なラジッチ。
有名な冒険者であるから、誰もが憧れるのになれていた。
「いらっしゃいませ」
「国王からの使命で来た騎士団だ」
「ご苦労さまです騎士団様。この度はコットルへ長旅お疲れ様です」
ギルド店員は背筋をピンと伸ばし挨拶する。
そこに店内にいた冒険者は珍しそうに眺める。
「コチラは冒険者のラジッチさんだ。今回はガーゴイル討伐に協力してくれた」
「ええ! あ、あの有名なラジッチさんが! それは心強いです。ガーゴイルも怖くありません」
ラジッチに対しては羨望の眼差しでみる。
冒険者ギルド職員にとっては、憧れる存在のひとりだから。
サインをもらおうかと言いたいくらいであった。
周りにいた冒険者は驚いた。
死ぬまでに会えるかわからない人に会えたとなり興奮していた。
「早速だが教えてください。ウル森に行った冷はどうなったか聞きたい。答えは死んだか、生きてるかで?」
「冷は無事に町に戻って来ました。ガーゴイルが居たのは報告してあると思いますが、戦ったが途中で引き返したそうです」
「なに! よく引き返せたな。どうやって引き返したのだ。魔人だぞ相手は。しかも無事にとは」
「走って逃げてきたとか」
「嘘だろ!」
「本当です」
「割りと単純な戦法だな。話を本題にしたい。俺達は国王に冷と協力してガーゴイルを倒せと言われた。冷はどこにいますかな」
この町で落ち合いウル森に行くのがベストな選択と考えた。
生きていて欲しいのか生きていて欲しくないのか、ラジッチもハッキリしなかった。
生きていると判明したので、冷を探すことに。
「もう帰りました自分の家に。家はピルトの町です。馬車で帰ったと思いますが……」
ラジッチが来るとは思わなかった。
普通に騎士団が来たらガーゴイルの討伐に行くのだろうと。
「帰っただと! なぜだ、なぜだ、なぜだ。まだウル森にガーゴイルは居てるのだろう。どうなんだ。それを放っておいて帰ったと言うか?」
まさかそれは絶対にないと思った。
考えてみればガーゴイルを発見した張本人である。
そのまま帰るという発想は考えつかない。
「放っておいて帰りました。たぶん森からは出ないから大丈夫だと」
「そんな馬鹿な話があるか! 俺達は何しに来たというのだ。無意味な行動となってしまうぞ。それと伝染病はどうなんだ。治せたのか」
冷の無責任な行動にイラッとした。
思わず声が大きくなってしまい、周りの冒険者達はビクつく。
「冷さん達が取ってきた草。国からも指定された草を錬金術士に調合させました」
「治せたならそれはそれでいいとしよう。国王にもいい知らせとなる」
「いいえ失敗でした。効果がなかった。つまり言い伝えや研究の結果は嘘だとなりました」
「なんと……効果がなしとは」
ラジッチはマズくないかと思った。
冷がいくら大丈夫だと言ってもガーゴイルは魔人。
超危険な魔人である。
それを放っては帰れない。
冷は構わない。
国から使命を受けたわけではないからだ。
ラジッチは立場が違った。
無視して帰ったら国王から処罰されるのは決定。
結局はウル森に行かざるを得ない。
それにとても期待されている。
ここで退散したらガッカリされるのはラジッチも耐えられない。
「どうされますかラジッチさんは。冷は帰りましたがラジッチさんならウル森に行ってガーゴイルと戦ってくれますよね。ぜひお願いいたします。近くにいたら落ち着いて寝てられません。皆さん一緒です。誰かが倒してくれると信じてました。平和をもたらしてください!」
もうギルド店員の中ではラジッチは魔人よりも強いとなっていた。
鋼鉄の騎士ラジッチとして有名になり過ぎたのもあった。
期待感がギルド店内に満ち溢れる。
「わかった。ウル森に行こう」
期待感を抑えるのは無理だと感じた。
だが断わる理由が適当に思いつかない。
ラジッチと騎士団はウル森行きが決定した。
行かなくていい方法を探したが結局は行くのである。
「頑張ってください!!」
「さすがラジッチだ!」
「もう怖くはない!」
「任せてください」
ギルドを出て騎士団からは心配の声が上がる。
「冷が居るのが前提ではなかったでしょうか。居ないとなると我々だけで戦うはめに。かなりしんどいです」
「行くしかないだろう。勝って国王を昇天させてやろうじゃないか」
「おお!」
ラジッチが声を張ると続いて騎士団が声を続けた。
ウル森にガーゴイル狩りに出向くが、冷のことを強く恨んでいた。
よりいっそう腹がたった。
ウル森はガーゴイルの住まう森と知られてしまった。
今までは知られることはなかった。
記憶は消されていたからだ。
ガーゴイルもその事はわかっていた。
あの人族達を取り逃したから、居場所は知られるのは仕方ない。
今までは吸血して記憶は無くさせてきたので、知られることはなかったのだ。
長い間、誰も気づかないでこれた。
人族がたとえ来たとしても負けることは、まず考えにくい。
帰りうちにして終わりだろう。
だから人族は来ないと予想した。
しかし気になるのは、戦った人族の男。
とても強かったと認めざるを得ない。
万が一あの人族が来れば話は違ってくる。
確か……レイとか言われてたと思い出す。
戦いの最中に一緒にいた女に言われていた。
レイ……。
はてな、どこかで聞いた名だ。
ガーゴイルは、しばらく考え込んだ。
そしてその冷に行き当たる。
冷……そう言えば魔人が集まった会議が行われた日。
サイクロプスが人族に負けて捕まったと。
そこで出た人族の名前が冷だった。
やっとそのことに気がつく。
サイクロプスを負かしたのは、あの人族だと。
仲の良かったサイクロプスを負かした憎っくき奴。
ガーゴイルは憎しみが増していくと、体は震えた。
サイクロプスを救いに行こうと考えたのだが、同じく魔人達に止められた。
王都には特殊な魔法を使う者も控えている為だ。
魔人だけでなく魔王をも封印させられるという魔法である。
それが使えるかは定かではないが、歴史上では封印させられた過去がある。
それだけにやすやすとは王都には近づけないのだった。
冷が近くにいるとわかれば、答えは決まっている。
冷を殺すまでだ。
今が殺すチャンスでもある。
コットルの町に滞在していると予想した。
ガーゴイルは森に居る魔族達を呼びつける。
「おい、集まれ、私の魔族達よ」
どこからともなく集まった魔族。
その数は数十匹にも達した。
ガーゴイルの前でひざまずく。
中には下級魔人もいた。
「どうなさいましたガーゴイル様。突然に呼ばれるとは」
「とても重大な話がある」
「それはどんな内容ですか」
「私は怒りに満ちている。コットルの町に襲撃をかける。町にいる冷という冒険者。そいつはサイクロプスを負かしたクソ野郎だ。絶対に殺すぞ」
「えっっ!!」
「本当にですか?」
「確信した」
「サイクロプス様を! まさかこんなところにやって来るとは。わかりましたガーゴイル様。我々も冷を探しますが、何かあったのですか?」
配下の魔族らはなぜガーゴイルが怒ってるのか、知りたかった。
冷が森に侵入して戦ってのを見ていないから。
「冷が森に入ってきて、私と戦った」
「えっっ!! 待ってください、そしたら話がおかしいです。ガーゴイル様と戦ったのなら死ぬはずです。なのに町に探しにしに行けとは変ですが」
「戦いの最中に逃亡した」
「汚い! ずる賢い奴です!」
「私の正体を知った者は生かしておくべきか?」
「殺すべきです!」
「町には冒険者も居るだろうが、構わない、全員殺せ。ひとりも逃すなよ。武器、防具を身に着けてる奴は必ず殺せ」
「はい、わかりました。サイクロプス様の敵を討ちましょう」
配下の魔族らは全員防具と武器をまとい、邪悪な目でコットルの町に向かう。
ガーゴイルは翼を広げて大空に羽ばたいた。
冷への復讐が始まった。
もちろん冷はそのことを知らないでいた。




