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冒険者ギルドの店内は、いかつい体をした者から、女性の冒険者まで待機している。
ピルトの町のギルドと似ていた。
たいていのギルドの風景は似たりよったりである。
コットルの町はどこにでもある庶民的な町。
近くのウル森に魔人が住んでいるなど夢にも思ってないで、掲示板を見ている。
アリエル達は、ギルドに到着し急いで店員に説明をした。
店員はアリエルの顔は覚えていた。
慌てた様子なので話をきいてみる。
「あ、あの草を持ち帰りました」
「あら、あなたがたは、ウル森に向かって……えっ!! 本当ですか。確認をしますから拝見させてください!」
アリエルは袋にある草を1つだけ取りだして渡した。
店員は半信半疑の顔でアリエルを見ているのは、ここ数十年ギルドでも見ていない物であるからだ。
国からは立ち入り禁止されている。
それに本当はダメだが、密入したという冒険者の話も噂では聞いていた。
しかし彼等は一様にして草を持ち帰りに失敗しているとのこと。
よってアリエルが嘘をついている可能性があるから確認をする必要があるのだった。
渡された草を持ち見た。
「!! これは……本物!! ちょっと確認してきます」
「はい……」
アリエルは慌てるギルド店員に頷く。
「本物のようね」
「そのようだわ。でもあそこまで慌てるとは」
「偽物じゃないならいい」
店員は他のギルド店員達と相談し合うと、驚き顔を見合わせる。
慌ててアリエルの所に帰ってくる。
「あ、あ、アリエルさん、これは間違いなく我々が求めていた草です。これがあれば伝染病を治せるという言い伝えがあります。言い伝えですので確実ではないですが。国の錬金術士達も試したとの記録がありました。わが町の錬金術士に錬金させてもらいます。もし調合に成功しさえすれば伝染病も治せるはずです。現在は日に日に患者数が増えてまして、死者も出てます。このままでは我が町の子供が全員死んでしまう」
「それなら早く錬金術士に! あと残りの草も渡します!」
残りの草も集める。
リリスとミーコの分も集めると、アリエルだけでは持てない程の量にまで達していた。
「なっ! こんなにも! どうやってこんなに……。今まで冒険者が密入しても誰も草に辿りつけなかった。それどころか帰って来た冒険者はみんなおかしくなっていた。どこか虚ろでウル森に行った記憶も曖昧な風に。アリエルさん達は全く異常がない。不思議です」
「まぁそれはたぶんアレだから……」
「アレとは?」
「その……まじんが……」
「まじんが??」
アリエルが魔人ガーゴイルの名を言いそうになる。
それをリリスが止めに入り、
「アリエル!! 言うなって!」
「でも……」
「これは冷どの約束だろ!」
「はい」
アリエルは我慢して言わないことにした。
今頃どうなっているか。
きっと生きているに違いない。
冷なら大丈夫だろうと思う。
店員は大量の草に喜び大声を出してしまう。
それだけ入手困難な物であった。
別の店員に託すと錬金術士のもとに急いで行く。
ミーコとリリスもホッとした表情に変わる。
「後はこの草が効果があればいいが。何と言っても命がけで手に入れた草だ」
「走ってきたから疲れました。冷氏が帰ってくればいいです。私達には戻れませんからね」
「戻っても冷の足手まといに成りかねない。それよりは確実に草を届けるのが大事な仕事だった。だからこれでいいのだよミーコ」
リリスは多少にも落ち込んでいたミーコを励ます。
「そうですね、冷氏から言われた重大な仕事です。無事に完結させられたわけですから、誇りに思いましょう」
「ミーコは冷が好きなのよ。心配なのよね」
「あ、アリエル! なぜ冷氏を好きにならなければならない! 単に心配しただけだ。勘違いしないでもらいたい!」
急に言い訳っぽい言い方に。
アリエルも怪し気にみる。
「おいミーコ、顔が赤いぞ」
「やめなさいリリスまで!」
みると本当に顔が赤いのであった。
「それだったらリリスこそどうなのよ!」
「私?」
「だって冷氏と同じ部屋に泊まった。好きだから断らなかった?」
ミーコは逆にリリスこそと攻めたてる。
「ば、ば、ばか言ってんな! 好きなわけあるかよ!」
「あれ、リリスも顔が赤い」
「違う! 走ったら息が上がって赤くなったんだよ!」
「照れてますね」
なぜかお互いに認めようとはしないなか店員が、
「……あのちょっといいですか。そう言えば肝心な冷さんの姿が見えないですけど、どこに?」
「それが……話にくいのですが、実は冷はまだウル森にいるものと」
「……もしかしてまだ草を集めているのですか。それは懸命です。きっと沢山持って帰って来るのでしょう」
店員は冷がまだ収集してるものと思い感心した。
しかし事実はとても残酷な話だけにアリエルは話し辛い。
「……」
「どうかしましたかアリエルさん?」
「アリエルの代わりに私が話します。私達はウル森に入って魔人と遭遇しました」
「おい!ミーコ!!言うなって!」
「もう言っちゃいました」
「おしゃべりだぞ!」
「ミーコが言ってしまったなら話すしかありませんね」
店員は一瞬おかしな顔を作るが直ぐに正気を取り戻すと、
「ま、魔人……!!!!!!!!!!!!!! そんな話は初耳です! そしてその魔人は?」
「魔人ガーゴイルでした」
ミーコは事実をありのままに話した。
「が、が、が、が、ガーゴイルですって!!!!!!!!! なぜこんな近くの森にガーゴイルが! 今までそんな事実は確認してません。見間違いでは?」
「いいえ、残念ながらガーゴイル本人でした。そして冷氏はガーゴイルと戦闘に……。今も戦っているかもしれない。私達は冷氏に言われて草を届けるように言い渡されたの」
「……その話が本当なら伝染病どころではない……。もちろん伝染病は大変な危険な病気です。町を滅ぼしかねないわけですから。しかしガーゴイルとなるとその比じゃない。我が町コットルだけでなく周辺の町も破滅させられるのも簡単でしょう。伝染病だけでなくガーゴイルまで来るなんて、最悪。最悪の日。直ぐに王都に知らせます!!!」
ギルド店員は顔を強張らせて言う。
恐怖で声はうわずってしまう。
店員だけではない。
聞こえた冒険者も死んだような顔つきとなる。
「まさか冷を捕まえる為にですか。それなら反対です!」
アリエルが強く反対した。
「いい、いいえ、冷さんの為に応援を要請するのです。冷さんを救出しなきゃいけないです。このまま死んだらどうしますか」
店員の言ってる事は理にかなっている。
常識から言って魔人に勝てるとは思えないからだ。
それもギルドなら知らない者はいない魔人のひとり。
「死なないです冷氏は!」
ミーコがキッパリと否定する。
「サイクロプスを倒したのは聞きました。でも今回も勝てる保証はないですよ。むしろ負ける可能性がある。国家が危険な魔物として名を上げた魔人だ。どれだけ危ないかしれない。一刻も早く王都に!」
「待てよ、このビビリ野朗」
「ビビリ野朗!!」
リリスが何を思ったのか罵倒した。
罵倒された方はなんで?と。
「今もこうしてる間に戦っているんだぞ。王都に連絡して応援が来るのは何時だ? 間に合うかよ。結局は冷のことなんか考えてねえよお前は。冷を心配してるふりして自分の事しか考えてねえ。自分達が助かればいいとな」
「そ、そんなことは、ありませんて。もちろん我が町の安全は優先したい。これは本心でした。でも周辺の町にいる騎士団員や冒険者を集めれば戦力となります。少しでも戦力になればと思ったのです」
必死にアピールする店員にリリスも黙った。
「どうしますリリス……」
「確かに周辺にいるなら直ぐに来れるのかな。そう言えばウル森に入る前に王都の騎士団と冒険者が止めに来たな。とりあえずお前を信じてやろう。早く王都に言え。何してる早く言え!」
「あなたが言うな……と……。それに騎士団が来たって!! それも初耳ですし!!! どなたが来たのですか?」
「確かラジッチとか言ったかな……もう忘れたわ」
「ラジッチさん!! あなた達はラジッチさんと騎士団に止められて、どうやってウル森に入れたのです?」
ラジッチと聞いただけで驚く。
「冷がラジッチをぶちのめしたからだよ」
「私達も騎士団を倒したのよね!」
アリエルも自慢するように言った。
「はあ!!! そんなに早く王都から来るなんて……。もっと時間がかかると思っていました。しかしあのラジッチさんを相手にして、倒したとは……」
店員は冷や汗をかきはじめる。
「それは済んだ話だ。早くしねえか。淫魔に逆らう気かよ?」
「淫魔!!! 淫魔てあの……えっ!! 全くよくわかりません。淫魔とかわかりません。でもわかりました連絡しまっす!」
リリスが淫魔と言うのは初耳であった。
魔族の中でも超レアな魔族。
ギルドでも見たものはいない程にレアな存在であった。
それが目の前に居るのに驚いたが、それどころではないので、早急に連絡をした。
他のギルド店員も、その話には仰天する。
信じないわけにもいかない。
普通の話なら嘘に決まってるし、無視して終わりだろう。
だが冷の仲間であるし、実際に草を持ち帰ったわけで、真実の信ぴょう性が高いと思わざるを得ないのだ。
ギルド店内も騒然となるのは突然といえた。
彼女たちが大声で話していたのは嫌でも耳に入った。
しかも魔人、ガーゴイル、サイクロプス、王都、などただならぬ言葉のフレーズ。
嫌でも耳に入るのは致し方ない。
店内の冒険者は全員が驚がくすることになってしまった。
「き、聞いたか今の会話。魔人が出たらしいぜ!」
「それもあのガーゴイルだとよ。マズくねえか。ここに居たら死ぬよな」
「早く逃げた方がよくねえか。勝てる相手じゃないだろ。王都だって勝てねえぜマジな話」
そわそわと冒険者の間で話声が出始める。
冷が町に来て、子供達の為に動いてるのは知っていた。
それを知っていてなお、自分の命の方が大切だとなった。
その声はミーコにも聞こえた。




