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退散することになったラジッチ。
有名な冒険者のプライドが傷つけられた。
冷に対して怒りが込みあげる。
「あの野朗、ムカつくぜ」
「しかしラジッチさん、アレはとんでもなく強いです。化け物クラス」
騎士団も冷の強さを認めしかなかった。
あれだけラジッチがやられたら、誰もが思うだろう。
「俺が想像していたより遥かに上だよ。なんなんだアイツは」
「まだ冒険者としてはルーキー。信じられません」
「そしたらこの後まだ強くなる可能性があるのか」
「これ以上ですか!」
「クソッ、考えるのは止めだ。それよりもどうするかだ。このまま王都に帰るのは俺にとって屈辱」
国王に信頼度は一気にガタ落ちするのがラジッチにはわかった。
そこは辛い。
今まで築き上げてきたから。
しかし他に選択肢がないのは、もっと辛い。
「どうしますかラジッチさん……」
「連絡するしかない、王都に……」
ラジッチと騎士団は結局は王都に知らせてみることにした。
ラジッチ達とは反対に向う冷。
「地図によると、ここがウル森らしい。中にはいるがいいよな」
「ええ。魔物が居そうな気もするけど」
「居たら退治していくさ」
(いっぱい居そうな気配を感じる)
「ラジッチとやらと戦って怪我はなかったの」
「かすり傷くらいだよ」
(あの大車輪をまともに受けたらかすり傷じゃ済まない)
一歩、森の中に入ると静かな森であって、ここが危険地区とされてるとは思えなかった。
先ずは草を探す必要があるので、なるべく下を見つつ、観察して歩いた。
「あの草はどうかな?」
「いいえ違います。絵の感じと違いますね」
必要な草は絵で判断する。
間違えないために、近くに接近して観察する。
「確かに違う形してる。俺は草には興味ないけど、種類は多いのはわかる。色と形で区別するしかない」
(写真とは違うから、微妙な違いとかわかりにくいかもな。キノコも似ているのが多いので有名だが、それと同じだ。普段から全く草には興味ないから、特徴とか判断しづらい)
「似てるのがあったら要注意です。出来れば全部の草の特徴が載ってる本があればベストですが、無いのですから運もあります」
「リリスも下を見ながら歩いてくれ」
「ふ〜ん、面倒だな」
「そう言うなって。もしかしたら発見できるかもだよ」
「そうよ、あなたも探しましょう」
アリエルとミーコに探すように促されるもリリスは面倒だと思う。
「探すよ、探せばいいのだろ」
「頼むわよ」
森はかなり広く、1日では歩き回るのは不可能である。
運も影響するのは、仕方ないことで、その後も探して歩いていると、リリスが声を上げた。
「あっ!! これは絵と同じだろ。見てみろよ」
「どれどれっ!」
「本当です冷。これに間違いない」
「うん、全く同じだ。しかもたくさんある。袋に持てるだけ待って帰ろう」
(こんなに早く発見できてラッキーだろう。大量発見だし嬉しい限りだ)
「どうだよ、私が見つけたのだぞ!」
発見してリリスは偉そうに言う。
「さっきまではヤル気がなかったのに」
「私が探せばこんなものよ」
「はい、わかりましたから」
「ナイスだぜリリス!」
「感謝しな」
「さっそく集めましょう」
全員で袋に詰めていく。
草は一面に咲いており、とても全部は取り切れない程にあった。
「これだけあれば十分な量でしょう。きっと町の人も喜んでくれると思うわ」
「一刻も早く帰ろう。俺達の帰りを待ってる」
「そうしましょう」
目的の草は確保に成功した。
後は帰るのみ。
来た道を引き返すことに。
険しい森の中は迷路であるが、冷は幼い頃から山奥で生活しており、道に迷うことは無い。
そうして冷が先頭で歩いていると、冷の歩く速度が遅くなる。
(何かの気配を感じる……。魔物か)
「みんな……止まってくれ」
「何かしら?」
「もしかして荷物重いとか」
「そんのことあるか」
「迷ったか?」
「森で迷ったら帰れなくなる」
「違うんだ、魔物らしい気配を感じる」
(どうよら俺だけ感じてるようだ)
「えっ……。その気配は近いのかしら」
「ああ、さっきから俺達を監視してる」
(どうするか、向こうから動くか)
「げっ……。もう少しで出口なのでしょう。一気に走り行けたらどう?」
「ミーコは足が速いからいいが、他は追いつかれたら不味いだろ。それにミーコよりも速い可能性もある。相手の姿を確認するのが大事だ……」
冷が足を止めて周りを確認する。
(逃げ切れる相手なのか、今のところ不明だしな)
「そうよ、私は足が遅いんだから」
「アリエルはもっと走るの訓練したら、遅いから」
「足が太くなるから嫌なのよね」
「見ためですか」
「見ためは大事よ、女神なのですから」
「足が太いと女神になれないのかよ」
「太くてもいいと思います」
「良くありません!!」
アリエルは足が太くなるのを極端に嫌った。
口論して間、冷は空を見上げて言う。
「おい、俺のことをさっきから見てる奴……。わかってんだ、出てきたらどう?」
冷は誰も居ない空間に話した。
何も反応はなかった。
(間違いなくいるはず)
「お前の勘違いじゃないか。何の返事もない」
「珍しい」
「……おかしいな。俺には感じるのだけどな。あそこから。よしこれでどうだ?」
体に感じる物は嘘ではないと自信があった。
そこで落ちている石ころを拾って森に向かって投げてみる。
冷にはそこから感じる物があったので、決して当てずっぽうではない。
通常なら木に当たって下に落ちるところ。
それが石ころは木に当たらずに跳ね返ってきたのだった。
「あれれ、何でコッチに跳ね返ってきたの。変です。まるで誰かが居る……」
アリエルが不思議そうに言うと、当たった方角の風景に異変が起きた。
木だと思っていたのは、動き出して移動しだした。
「今、何かしら移動したわよ!」
「お前の言ったのが当たってた!」
「俺も見たぜ。やはりそこにいたか。恐らくは魔物だろう。厄介な魔物だし、俺が相手した方がいい」
「任せるわ」
アリエル達は、いったん冷の後方に下がる。
彼女達に移動した後はハッキリとは見えなかった。
冷はというと、全て把握していた。
敵は空中を移動していると。
つまりは、空中を飛んでいる。
(俺の予想なら奴は空を飛べる魔物。それがハッキリとした)
すると、木々の中から声がして、
「よくぞ私の居場所がわかった。しかも一発で」
現れたのは翼を持った魔人。
ガーゴイルであって、冷の視線の先から姿をみせた。
翼が緑色の羽で風景と重なり合うと見えにくくなっている。
「会話が出来る魔物……てことは魔人かしら」
アリエルの予想は当っていた。
「嘘でしょ!」
「またかよ!」
リリスは警戒心を一気に上げる。
「当たり。私は魔人ガーゴイル。あなた達は誰かは知らないがこの森は私のナワバリ」
「が、が、が、ガーゴイル!!」
ガーゴイルという言葉を聞いた瞬間にミーコが驚き声を震わせる。
「どうしたミーコ!」
「ガーゴイルと言えばあのガーゴイルしかいないです……」
身震いして言う。
「ガーゴイルの名前は知ってて。そこの少女はわかってるようだわね」
声がすればするほどにミーコは身を縮める。
「ち、中級魔人ガーゴイルです。なぜここに……。早く逃げましょう。冷氏は知らないかもだけど、普通は名前は知っていて当然。それも最悪の名前。伝染病どころではない。みんな殺されちゃいます」
ミーコは冷に逃げるように言った。
ガーゴイルという名前は昔から知っていた。
いや冒険者を目指す者なら誰でも知っている。
「逃げましょう冷!!」
アリエルも逃げるのに賛成した。
ミーコの説明を受けて冷は慌てない。
「俺達をどうする気だガーゴイルさん。別に俺はあんたにイチャモンつけにきたわけじゃない。この草が欲しくてきたのさ。だったら草くらい保って帰っていいだろう」
(俺と戦う意志があるのか、まだわからないな。今はこの草を届けるのが先決。戦っている場合ではない。なるべくガーゴイルを刺激しないように気をつける。それにしても綺麗な女だな。胸もデカイし。敵にするにはもったいない)
「草をか……。なぜ草を必要がる。私の姿、存在を知ったからにはこのまま返すとわけにはいかないの。運が悪かったと思いなさい」
「てことは俺達を殺す気か」
「殺しはしない。ちょっとだけ……生かす」
ガーゴイルは言葉を濁すと冷の居る地上に降ってきた。
そして冷に照準を合わせた。
「おっ……と危ねー。いきなり突っ込んでくるか」
(羽があるので飛べるとしか考えてなかったが、めっちゃ速いなコイツは。気をつけよう。俺もマックスの力を出さないと。中級魔人となると、サイクロプス並みの能力はあるだろう)
ガーゴイルの速度を受けて、相当にヤバイ相手であると理解した。
しかし冷は飛ぶことは出来ない。
当たり前であるが人族には羽はない。
「避けたか……。私の攻撃を。それに石ころを隠れていた場所に当てたりと……。何者だ。普通の冒険者ではないな」
ガーゴイルもまた冷の能力の高さを知り、上級のクラスの冒険者だとわかる。
しかしこの地点ではサイクロプスを倒した相手とはわからない。
攻撃姿勢をみせられて黙っていられない。
「今度は俺からも攻撃させてもらうぜ」
(羽があるのなら全員が逃げきれる可能性は低い。ここは戦うしかない。でもなんで魔人と出会っちゃうんだろうな俺って)
「ふふ、どうやってここまで来る。羽がないのに……」
言うとおりである。
ガーゴイルは空中に飛び留まっていた。
その為に普通のジャンプ力では届かないのは冷も承知している。
そこは百戦錬磨の武術家。
全くガーゴイルの思いつかないパターンの攻撃を編み出してくる。
周りにたくさんある大木。
その大木に飛び蹴り飛ばす。
その反動で次の大木に飛び、まだ蹴り飛ばす。
そうすることで、木から木へと飛び移る。
まるで動物のような軽い身のこなしで飛び、ガーゴイルがいる近くに接近。
「それが届いちゃうんだよね俺は!」
「何!!」
ガーゴイルに接近し蹴りを連打した。
連打といっても普通の連打とは違う。
超高速の蹴りの連打。
速すぎて止まっているように見える程。
ガーゴイルは、とっさに防御の体勢へと入る。
しかし蹴りはガーゴイルの思考の遥か上であった。
まともに数発蹴りを喰らい、地面に落下していった。
(へへ、俺の蹴りはそう簡単には見切れねえだろ)




