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 ラジッチの表情からは余裕は消えていた。

 戦闘前とは違い、精神的に押されてる。

 周りの騎士団は、冷の実力がここまでとはと思い知らされた。

 噂には聞いていたが、ラジッチを苦しめるのを見て恐怖する。


「おっと、まだ俺のナギナタはこんなもんじゃないぜ。これは防げるかな?」


 ナギナタを繰り出す速度が一段と増していった。

 先ほどよりも速くなる。


(さっきは10%の能力を出した。思ったより当たったな。次は20%でもいけそうだな)


 冷が最初にナギナタでみせつけた攻撃はマックスのたった10%しか達していなかったのだった。

 つまりはホンの準備運動といって差し支えない動き。

 その準備運動をラジッチは見えなかったのだ。

 実力差と言えばそれまでだが、あまりにも差があり過ぎた。

 ラジッチはまだ良かった。

 周りにいる騎士団達には、ナギナタ自体が見えていないのだ。

 何が起こったのかさえ、わからないままラジッチが腕を押さえていた。

 20%の能力のナギナタを突き出すと、もはやラジッチにも確認出来ないレベルになってしまった。

 

「な、な、な、ナギナタが見えない……。いったいどうなってんだこれは……。人間の成せる技かこれ!」


「まだ俺は本気じゃないけどよ!」


「なんだと!」


「その感じだと俺のこと分かってないよ」


(魔人のオーク、サイクロプスの方が遥かに強かった。これが本当に王都から派遣されてきた有名な冒険者なのか。ちょっと期待はずれだよな)


 冷は案外と弱いラジッチに残念がる。

 もちろん言葉にはしなかった。

 失礼にもなるからだ。

 

「ラジッチさん、大丈夫ですか!!!」


 あまりにも強い冷。

 冷を見た騎士団はラジッチに駆け寄ると、武器を構える。

 ラジッチを救援にきたのだ。

 ラジッチひとりではとても歯が立たないと判断した。


「余計なことはするな。俺ならひとりで戦える」


「でも、相手は強すぎます!」


「とにかく、下がれ」


「……はい」


 心配した騎士団達は、武器を下ろして後方に下がる。

 ラジッチには冷を複数人で倒す気はなかった。

 大勢で倒したところで納得がいかないからである。


「大勢で倒しても恥さらしなんでな」


「強気だね」


「まだスキルは使ってないのを忘れないでくれよ」


「スキルあるの?」


(有名な冒険者になるのだから、スキルの1つは持ってて当然か)


 ラジッチは冷に押され気味である。

 スキルで逆転を狙う。

 ラジッチのスキルは武器である巨大な斧との相性がよい。

 ラジッチは斧を頭上に。

 それを見た騎士団達は、


「あ、あれは、ラジッチさんのスキル、大車輪!」


「……大車輪だと」


(名前からして豪快なイメージですが)


「俺にこの大車輪を出させるとはな! 終わりにしてやるよ!」


 頭上にかかげた斧を回転させる。

 回転させる度に速度は増していく。


「……」


 冷は巨大な斧を軽々と回転させたので、気を引き締めた。


(何をしてくるかわからないが、かなりの破壊力になりそうだ)


 ラジッチは斧を回転させたまま冷に向かっていく。

 轟音が冷の耳に届くと同時に斧は迫った。

 前回はナギナタで軽く防いでみせた。

 しかし今回は直感で危機感を感じてかわすことに。

 スキルである攻撃回避を発動。

 寸前で回避に成功。

 斧は冷には当たらずに舞う。


「ふふふ、防ぐのはやめたか。それは正解。なぜなら大車輪を防御した者はいない。武器だけでなく腕ごと吹き飛んでいたぜ!」


 回転をさせたまま冷に忠告する。

 その後続けざまに攻撃を放った。

 冷はナギナタは使わずに攻撃回避に専念。


「逃げて逃げ通すか!」


「……」


 攻撃回避したが、大車輪の斧は地面を叩き、土に炸裂した。

 大地は斧で裂かれて地割れした。

 

「おおっ! さすがはラジッチさんです。大車輪なら無敵です!」


 騎士団は大車輪の威力に冷が怯えていると確信する。

 その冷は決して負けを確信したわけではなかった。

 大車輪の特徴を観察していたのである。

 確かに大車輪は強力な破壊力を持つ。

 それは今の一撃で判明した。

 そこでスキルにはスキルで対抗を選択。


「土を耕すのが得意なのかよ?」


「逃げてばかりのくせに!」


「俺もスキルを出すからよ」


(とりあえず遠距離からのスキルを試してみる)


「やってみろよ!」


 冷の選択したスキルはフレイムバーン。

 火属性のスキル。

 遠距離から打てるのもあり、選んでみた。

 

「フレイムバーン!」


 ナギナタを左手に持ち、右手から炎を放った。

 大きさは小さいが確実にラジッチめがけていく。


「なにっ! 火属性の使いか。これでどうだ!!」


 ラジッチは回避せずに斧をフレイムバーンにぶつける。

 炎の大きさからして勝てるとみこんだ。

 斧は打撃力だけは負けなかった。

 フレイムバーンを一瞬で消し去った。


「……この程度は消しちゃうのね」


(やるな)


「大車輪の力さ、今頃わかったのかよ!」


「ならば、次のスキルを出します!」


(フレイムバーンは俺としては大車輪の能力を計りたかった) 


 次のスキル候補を選ぶことに。

 同じく遠距離攻撃のできるオメガラウンド。

 大きな岩石を複数個上空から振り落とすスキルだ。

 先程は1つであるが今度は複数個。

 単純に勝てると判断する。


「じゃあいくよ、オメガラウンド!」


 冷の頭上高くで突然に岩が幾つも出現する。

 それを見たラジッチは困惑した。

 数が多く全てを消しされるか微妙だと感じた。


「なんだ……このスキルは!」


 ラジッチは最大限の力で回転を速める。

 大車輪をフルマックスさせた。

 岩石は見事に消し去られていく。

 大車輪の凄さが発揮された。

 

「まだまだ続くよ!」


(俺のオメガラウンドは簡単に消しされるわけない)


 冷の思った通りに岩石は続けざまに落下。

 さすがに大車輪も限界点があった。


「ぐわぁ〜!」


 大車輪をすり抜けてラジッチの体に岩石が当たる。

 斧は吹き飛ばしてしまった。

 更に降り注がれて地面は大爆裂した。


 ラジッチはこの時に冒険者としては屈辱的な失態をしてしまう。

 戦意喪失していた。

 あまりにも衝撃的な強さに。

 斧はドサリと地に着地した。

 ぼう然と立ち尽くしていた。


(あれれ、まだ全然本気出してないけど……終わり?)


 終わりに決まっていた。

 なにせ武器を持てる精神状態ではないのであり、勝負はついていた。

 

「俺の勝ちでいいなラジッチさんよ!」


「…………そのようだ」


 負けを認める声は小さかった。

 聞こえるか聞こえないくらい小さかった。

 絶対に勝つと思われたラジッチがあっさりと完敗させられたのを目撃した騎士団は恐怖した。

 アリエル達を掴んでいた手を緩める。

 それを見逃さない冷は彼女達に指示する、


「今だ! ミーコ、リリス、アリエル! 武器を持て、そして騎士団達をブチのめしてやるんだ!!」


「はい!」


 ミーコは見動き出来ない体をスッとすり抜けて聖剣ヴェルファイアを騎士団の防具に当てる。


「しまった……ぐわぁ!」


 速度では騎士団もミーコには敵わなかった。

 騎士団はひとり、ふたりとあっという間に斬られてしまう。

 

「冷だけじゃなくてよ、私の聖剣ヴェルファイアも速いんだから!」


「何だ、凄い速くて……ダメだ!」


 ミーコの攻撃を見て騎士団は驚いた。

 そこへリリスが魔剣グラムによる攻撃を開始する。

 

「うつ、コイツもヤバイかも……」


「ディープスピン!!」


 更に気押された騎士団に対してディープスピンを準備。

 魔力を溜め込む。

 離れてる騎士団、数人に向けて放出した。

 光の魔力の攻撃は騎士団を吹き飛ばした。


「こ、これは、魔族のスキルだよな……。まさか魔剣を使うとは……コイツもヤバイ!」


「ただの魔族じゃないぞ私はな」


 さりげなく自慢するリリス。

 ここは自慢するところではないが、相手はリリスの話を聞いてる間はなかった。


「逃げろつ!」


 攻勢が不利と判断した騎士団は、後ろに下がっていき後退して行った。

 そこへアリエルが風属性のスキル、シルフィードを放つ。

 シルフィードはディープスピンよりも遠距離の攻撃範囲を持つ。


「うつ、!! 逃げるのも無理だ!」


「私達のやられた分の仕返しはしたわ。後はどうする気?」


「いい感じの攻撃だった。俺が見ていても感心だ。スキルの使い方も慣れてきたのもあったぞ。俺の怒りはだいぶ減った。さぁどうするよラジッチさん。まだ俺達と戦いを続けるかい。それとも知っぽを巻いて退散するか、どちらかだ」


(まぁきかなくても同じだろうけど。俺の実力は知ったのだから、さっさと帰ってくれればいい。目的はあくまでウル森であって、ラジッチらの相手をしてる場合じゃない。早いとこ帰って欲しい)


「……わかった。ここは退散しよう。でもな国王に逆らったのだぞ。これが何を意味するか理解しておけ。きっと後悔するぜ。俺より強いランクの冒険者がお前の命を狙うだろう。当然だ国王に反逆したら死あるのみ。あはは……お前の苦しむ顔が浮かぶぜ。ざまあみろ!」


 ラジッチは後ずさりしながらも冷に文句を言い続ける。

 完全に負け惜しみにしか聞こえない。

 それを聞いてる冷は呆れた。


「……いつでも相手になってやるよ。そいつらに言っておけ、俺は逃げも隠れもしないとな」


(ああ、面倒くせえ野朗だ。早く消えてくれよ。会話するのも面倒くせえから。ただの時間の無駄だし。それはいいとして、やはり国王を敵をまわすのは確実だな。どうするよ、日本で言えば警察と戦うみたいな話だろ。かなり面倒な話になってきた。命を狙うて暗殺者かなんかいるのか。夜もおちおち寝てられんねえかも)


 ラジッチと騎士団は冷から遠ざかっていつた。

 冷にとってはただの迷惑者でしかなかった。

 

「参ったわ……国王が怒りだしたら大変なことになるわ。ピルトの町にも住めなくなる」


「マジかミーコ! それは困るぞ。だって考えてみろこれから道場を作るのだ。まだ出来上がってもいない。それなのにピルトを追い出されてもみろ、最悪だよな」


 そこまで深く考えが及ばなかった冷は今さらながら慌てる。


(しまったな。道場の件があったのを忘れてた。あそこに作るのは決まってる。それは俺のやりたい事。追い出されないように出来ないかな)


「もう遅い。ていうか何で先に考えなかったのですか不思議です。普通考えますよね?」


「すまん、全く考えてなかった」


(先に言ってくれよな)


「ミーコ、冷に言っても無駄よ。そんな深く考えて行動する人間ではないのです。たいがいはその時の気分や思いつきで動くから」


「あはは……アリエルさん、俺のことそんな風に思っていたの……」


「はい、その通りです」


 アリエルは1ミリも否定しないで言った。

 ミーコは納得の顔に。


「お前が取った行動だ。自分で巻いたこと。でも私達も国王に反逆したものになったのを忘れるな。仲間なのだから同じ反逆者となるに決まってる」


 リリスが心配な顔で言う。

 いつに無く心配である。


「みんな仲間だからな。同じ気持ちでいこう!」


 冷はリリスの心配も寄せ付けない。

 軽く言ってのけた。


「そう言うところが問題なのよ!」


「はい、すみませんです」


(マジで町を追い出されたりして)


「ウル森はどうしますか。目的はウル森でしたよね」


「ミーコの言う通りだ。俺はウル森に行く。これは変わらない。とんだ邪魔が入ったけど、出発しよう」


(ここは俺が責られてるから、話題を変えたいのもある)


「ラジッチや騎士団が来るからいです、相当な危険な場所だと改めてわかります。要注意しましょう。もし危険を察知したら直ぐに撤退を決めて欲しい」


「わかったアリエル。無理はしないようにしよう。何か体に異変があったら申告するように、そして撤退とする」


「はい」


 話はついてウル森に足を向けた。

 ウル森はそこから歩いて到着した。

 かなり深い森林が覆い茂っている森が突然に現れた。

 冷達に立ちふさがるようにしていた。

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