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 冷は向かい合った状態で名前を思い出そうとしたが、無理だった。


(ふ〜んと誰かしら)

 

「教えてやるよ。俺はラジッチ。先日城で会っただろ。Cランク冒険者で有名だ。俺が来たのは理由がある」


 ラジッチはハンマド国王の許可を経てここコットルの町に着いていた。

 目的は冷にウル森には入らせないこと。

 伝染病が拡大する可能性がある為だ。

 周りには国王からの使者である騎士団であった。


「思い出したぜ。城で会った3人の冒険者のひとりか。まぁ誰でもいいから教えてくれ早く」


 理由など冷にとっては、どうせ大した理由ではないからだ。

 途中で目的を変えるのは嫌だった。

 

(別に理由を聞いても俺はウル森に行くけど。それとも俺に個人的な恨みでもあるのか。こっちには心当たりないが)


「誰でもいいだと! この俺にそんなこと言う奴が存在するとは驚いた。俺が来た理由はたった1つだ。それはお前がウル森に行くのを止めること。それだけ。説明は簡単に言うと伝染病をお前が感染して蔓延させる可能性があるから。現在のところ感染源は森にいたネズミだとなっている。だが大人が感染していて子供達に感染する可能性があるとの研究もされていて、お前が行くと迷惑なんだ。わかるよな意味が?」


 ラジッチは完全に引く気はない。

 冷に対しては高圧的な姿勢で言ってきた。


「どうして俺がウル森に行くとわかったよ」


「直ぐに情報は入るのさ」


「わかっててウル森に向かってるのさ。ある草が効果があるとかでよ。それを取りに行く。退いてくれラジッチ。俺は帰らねえからよ」


 ラジッチの高圧的な言い方にも負けず、冷は逆にラジッチこそ引けと言いのけた。

 強者揃いの騎士団員も、ラジッチに対してその言い方はあり得ないと思う。

 王都でもラジッチには逆らう冒険者などいないからだ。


(面倒な奴かもな)


「むむむ……そう来たか冷。俺が引けときたか。なるほど腕には自信があるのはわかった。オークとサイクロプスの魔人を倒したのだから当然か。だが言っておく、これはハンマド国王からの命令。これに背けばどうなるか。国家の反逆者の冷となる。大人しく言うことをきいて引き下がれば、問題はない。国王は冷に期待しておるのだよ!」


「そうかい、話はそれで全部か? ハンマド国王に言ってくれよ。俺はウル森に行くとな。あんたが来たところで俺の気持ちは変わらないとな。じゃあラジッチさん、無駄な1日となって悪いが王都に帰るんだな」


 ラジッチの再三の忠告も無視。

 まるで話にならないとばからに冷は断る。

 周りにいた騎士団達は震え上がる一方となった。

 それはラジッチがぶちギレるのが目に見えているから。

 ここまで言いきったら、ラジッチのプライドが絶対に許さない。

 しかも騎士団の大勢の見てる前で大恥をかかされた。

 優しく言ってあげたのに、ちゃかされる。

 もう我慢は要らないところまできた。

 ラジッチは断られたとしても、構わないでいた。

 冷をブチのめす理由が出来るからで、その理由は手に入れた。

 騎士団達が冷の言葉を全て聞いていたのが証拠となる。

 ラジッチは断られたことで、ニヤリと笑みを作った。


「ふふ、わかった、よくわかったよ冷。たった今、国王の命令を断った。つまりは反逆者となった。だから今から制裁を加えるのは正義となろう。武器を取れ、俺が直々に相手になってやろう!」


 ラジッチは冷の前に一歩歩み寄る。

 手にしたのは大きな斧。

 体には重厚な鋼鉄の防具。

 鋼鉄の騎士と呼ばれる男。

 Cランク冒険者としてその名は国中に知れ渡っていた。

 冷は転生したきたので、知らないのは無理もなかった。


「待って……。この人はとても有名な方。それも鋼鉄の騎士ラジッチと呼ばれるほどの。今ここで戦うのは得策ではない。国王の命令に従ってください」


 冷に戦うのは避けろと言ったのはミーコであった。

 どうしてかと言えば、ラジッチの噂は聞いていたから。


「ミーコ止めるな。俺は鋼鉄だか知らねえが怖くはない。安心してな!」


(ヤケに大きな斧を持ってきやがったな。腕力はありそうだ。それに防具もゴツい。速度は無いとみた)


「知らないかもですが、非常に強い方です。誰でも知ってるくらいに。ここは彼の指示に従ってください」


「俺は知らないけど」


「知らないけど、忠告を聞くのも大事です」


「コイツはそんな忠告聞くかよ。むしろヤル気が出てくるくらいだろ」


「忠告をきかないて、問題です」


「俺は忠告は聞くよ。でもあくまで俺の判断で行動する。ここは俺の直感でいきたい」


「直感ですか……」


 冷は言われたようにナギナタを取り出し構えた。


「言っても無駄なんだよミーコ。コイツはムカついた相手には戦いをのぞむのに国王も何も考えない。勝つか負けるか、ただそれだけなんだよ。まぁ馬鹿だな」


 リリスは止めることはなく、冷の判断に任せるのだった。

 止めても無駄だとわかっているといった方が的確だろうか。


「えっ!! そんなに強い人なの! ちょっと待って冷。この人の命令に従いなさいよ。私は死にたくない!」


 アリエルは反対であった。

 ラジッチが有名な騎士だと知り、慌てて冷を止めに。


「うるさい女だ、大人しくしてろ!」


「きぁ〜〜〜」


 騎士団員に無理に押さえつけられるアリエル。


「アリエル! 彼女に乱暴はよせ。もういいだろ、早く彼女達を離せよ。俺はマジで本気だぜ騎士団員さんよ」


 冷が一変して睨みつける。

 騎士団員は冷の眼光を見て恐怖する。

 死を想像させられる眼光であった。

 一瞬で騎士団員は殺気で心が折れそうになる。


「おい冷、相手はこのラジッチ様だ。間違えるなよな。さぁ戦いを始めようか?」


「やるしかないようだ!」


「大丈夫ですか?」


 ミーコが心配する。


「待ってろ、直ぐに助けてやるからよ!」


「早くお願いします!」


 アリエルは必死に頼み込む。


「なるべく早くしろ!」


 リリスは機嫌が悪い。

 ラジッチは斧を高く振り上げる。

 重量はかなりあるのは誰が見ても明らかであった。

 それを軽々と持ち上げた。

 たいていの冒険者はこれでビビることになる。

 冷はそれ程にも思えなかった。

 

(あの斧の力がわかれば……)


 ラジッチの方から打って出た。

 斧は轟音を鳴らし冷に迫っていく。

 避けることも出来た。

 だが受けることを選択した。


(防げるかな……)


 リリス、アリエル、ミーコの目の前でナギナタと斧が交差する。

 結果はナギナタが防いだ。

 斧とナギナタが激しいぶつかり合いは冷が受け止める。


「まずはこんな感じかな」

 

「この斧を防ぐとは……」


 こうもあっさりと防ぐとは意外であり、疑問に思う。


「俺のナギナタは特注なんでな」


「そんな細くて、安っぽいナギナタがなぜ折れない?」


 不思議に思ったのは当然である。

 初心者が練習用に買うような見栄えの武器にしか見えない。

 ラジッチは折れないのは?と信じられない表情になった。

 しかしこの一撃で冷はラジッチの能力を見切っていた。

 初手で相手の力がわかると言われることがあるが、斧の強さ、腕力の値、素早さ、攻撃に入る時のクセ、全部が冷にとって情報である。

 その一部始終を初手だけで見抜いたのだった。


「これが鋼鉄の騎士の実力か。簡単に防げたぜ。次はどうするよ。してこないなら俺の攻撃がいくぞ!」


(ラジッチさん、今度は俺の攻撃の番だぜ。アリエル達にした行為は許せない。マジで怒ってるからな今の俺は)


 ここまで頭に来たのは初めてと言えよう。

 仲間である彼女達に対する無礼な行いは、ある一線を超えさせた。

 冷の中の一線を超えさせてしまった。

 

「……来てみろ、同じ様に斧で防いでやるからよ、あはは!」


 ラジッチは軽く冷の怒りを流した。

 2人は弾かれるようにして距離を取った。

 間を開けずに冷は攻撃に移る。

 宙に飛び上がりナギナタを構える。


(俺の速度についてこれるかな)


 猛烈な手の動きを開始する。

 突き出したと思ったら引く、引いたら突き出すの繰り返し。

 ナギナタはまるで何本にも見える。


「は、は、速い!! 何だこのさばきは! どれを防いだらいいのだ!」


 ラジッチは混乱した。

 ラジッチの目には10本いや20本にも見えたのだから。

 混乱しないわけがない。

 手当たり次第に斧で振り払う。

 しかし限度があった。

 僅かな数を防いだに過ぎない、小さな抵抗にしかならない。

 その一本がラジッチの腕に当たった。


「ううっ! 切っ先が見切れないぞ。ありえない速さ……」


 この時に初めて冷の強さを知ることになった。

 数々の修羅場を経験している。

 魔物を蹴散らしてきた。

 上級と呼ばれる程の魔物をも決して逃げずに対面してきた。

 そこで感じた恐怖は今でも覚えている。

 鳥肌がたつ程の身震い。

 斧を振り回して耐えた。

 しかし、今感じた恐怖はそんなレベルではなかった。

 今までに感じたことのないレベルの恐怖感と思える。

 これが冷なのかと。

 魔人を倒したのはラッキーだと思っていたが、それは自分の間違いであるとわかる。

 決してラッキーなどではない、実力での勝ちであると。

 冷との戦いは勝ち負けでは終わらない。

 死を覚悟する必要がある。

 ラジッチは想像を超えた相手に、身震いした。

 

「よしっ! これなら勝てるわよ!」


「凄いです冷氏!」


「早く倒せ」


 彼女達は、冷の真の実力を目の当たりにして勇気づけられた。

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