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 鬱蒼とした緑の葉が揺れる。

 小鳥が枝から枝に飛び移る。

 木の下には冒険者がいた。

 複数人がいて楽しそうに森を見渡した。


「なぁ草を早く見つけて帰ろうぜ」


「そうだな。伝染病に効く草。俺達の目的はそれだけだ。必ずあるはず。さっさとずらかろう」


 冒険者達はウル森にいた。

 侵入の許可は得ていない。

 つまりは密入である。

 理由があって、伝染病に効く草を持ち帰れば高値で売れるらしいとの情報を得たからだ。

 

「大人は感染しないらしいぜ。だから大丈夫さ俺達は」


「持って帰れば大金になるぜ。なにしろ王都から立ち入り禁止区域だろ。とても貴重な商品てわけだ。普通には売買は無理だろう。だから闇で売買する」


「そしたら大金持ちは間違いなしさ」


 金欲しさの行動であった。

 そんな冒険者達は気づいていなかった。

 直ぐ近くに接近していた者の存在に。

 その者は、賑やかに笑い合う冒険者達の背後に降り立った。

 それでやっと気づいた。

 突然に現れた人影に。


「だ、誰だキサマ!」


「……」


「いつ間に俺達の後を……。ふふ、見られたらしかたねえ。死んでもらうがいいよな?」


 密入しているのだから知られたら良くはない。

 口封じしなくては自分達の行動が明るみになる。

 密入したとバレると王都から罰せられるのは確実である。

 そこでひと思いに殺すとなった。


「殺すと? どうぞ殺していいよ」


「悪いな、悪気はないんだ。でも生きていられると俺達が困るのでな」


 全員で殺しにかかる。

 簡単に殺せると思っていた。

 相手はひとり。

 しかし、殺せるはずが殺せなかった。

 いくら攻撃しても殺せない。

 変だなと思った。


「…………」


 何か変な感じがしてならない。

 首に違和感を感じた。


「…………」


 全員が首に噛まれた後がみられた。

 その後は殺さないとという考えは無くなった。

 首に攻撃されたことすら気づく間もなく攻撃されていたのだった。

 全員ほぼ同時であった。

 草を持ち帰れることなど頭になくなる。


「さぁ、帰りなさい」


「…………はい」


 フラフラと冒険者達はウル森から去って行った。

 

 

 冷は朝から忙しい。

 町に出ていき腹ごしらえを済ます。


「朝食は食べたのでどうするかな」


「ウル森を目指すなら詳細な場所を知るのが先決では」


「場所も知らないのに向かえないわね」


「でもどこで教えてくれるかだな」


(こういう時にどうしたらいいかわからないのが俺の欠点だな)


「場所なら冒険者ギルドできけると思います」


「それがいいかもな」


 先ずはコットルの町にもある冒険者ギルドに立ち寄った。

 ギルドならばウル森に関する情報は持っていると思ったからだ。


「どうぞ」


 ギルド店内に入ると、職員が接客してくれる。

 職員は女性であった。

 その為に冷は緊張してしまう。


「あの、ウル森について場所を知りたいのです」


「ああ、ダメです。あそこは禁止区域ですので。冒険者の登録は?」


「してます」


(俺のことはまだ知らないようだな)


「名前は。まだ見た感じは若いし初心者なのかな?」


「登録名は冷です……」

 

「ウル森ですか? 知らないようなので説明します。ウル森は冒険者は入れません。国家から禁止区域になってますので……えっ……冷……れ、れい、えっ!! あの冷さんでしたか!!!」


「ええっと……冷です」


(そんなに驚きますか)


「も、申し訳ありません。顔を知りませんでしたから。ウル森の詳しい情報でしたね……」


 ウル森の詳しい情報をギルドで聞き込みした後に、今度こそ出発となった。


「つまりは何とかって草を持ち帰ればいいのだろう?」


「はい、草はこの様な絵です」


 絵を渡された。

 そこには誰でもわかるように描かれてあった。


(これと同じ草を持ち帰ればいいのだな)


「この草ですね、間違えないようにします」


(間違えたら苦労が水の泡になる)


「ウル森から来たネズミが感染源とも言われております。なのでもし冷さんが帰った際にも子供たちには近づけない配慮をします。よろしいですか?」


「俺が感染してたらまたうつしてしまうからね」


「では、お願いします!」


「必ず持ち帰ります!」


 詳しい場所などを教えてもらい笑顔をしてくれたので緊張がさらにアップ。

 

(とても可愛い娘だ。なぜかギルドの受付けは可愛い。ユズハさんも可愛いいし。職員になるのに面接で可愛い娘だけ採用するのかもな)


「どれ、草の絵をみせてくれ」


 リリスが絵に関心をまったようである。


「こんな感じだよ」


「これでわかるかな」


「似てるのが無ければ問題なし」


「草なんてどこにでもあるから間違うかもよ」


「キノコも毒キノコと間違って食べて死ぬ人もいるから」


「不気味なこと言うなミーコ」


「とにかく気を付けて探しましょう」


 コットルの町からは近いがそれでも距離がある為に早めに出発することに。

 町を出る間際、町の人々から声援に囲まれた。


「頼むぞ冷!」


「待ってるからね〜!」


 声援を受けて冷はヤル気が増した。


「みんなから期待されてるわよ」


「そうらしいな」


「頑張るしかないね」


「直ぐに帰って来ます!」


 手を振って声援に返した。

 これだけの声援は期待の現れでもあろう。

 普通ならここは感激するところだが、冷は普通の冒険者とは違った。


(おお、可愛い娘がいるな。名前とか教えて欲しいな)


 国家に反逆するかしないかの状況でも、可愛い女の子を探す冷であった。


「お前、今さ女の子に手を振ってなかったか。気のせいかもしれないが」


「俺は町の人に手を振っていたんだ。女の子だけに手を振るなんて、フザケたマネは、するはずないだろう」


 リリスの見解を完全に否定する。

 

(危ねえな、リリスには危うくバレるところだったぜ。俺は女の子ばかり見てたからな)


「本当かそれ、冷が女の子を見ないて嘘くさいが……」


「アリエルまで俺をそんな目で。助けてくれ」


「見てたでしょ!」


 ミーコに助けを求めても、あっさりと返された。

 コットルの町から歩いてウル森に向かう。

 草原を歩いていると、冷は人の気配を感じ取る。

 それも複数人。

 視線の先、20メートル辺りから、冷の方へ歩いて向かって来る。

 大事なのは敵なのか味方なのかという点であった。


(人……。防具類を身に着けてることからして冒険者だろう。クエストの帰りかもな。冒険者ならば味方と断定できるし、挨拶はしておこう)


「あれ、誰かしら、人がいます……」


「こっちに向かって歩いてますよ」


「たぶん冒険者だろう。身なりからして。君たちは俺の後ろに」


 近くに接近してきたので冷は挨拶をした。


「どうも皆さん、クエストでしたか?」


「……はぁ。そうだったか……」


 何かはっきりしない返答だった。

 まるで上の空といえる、ふんわりと浮いた話し方だ。

 特別、冷に対して殺気はないのでそのまま通り過ぎることにした。


「……」


 彼らも通り過ぎて行った。

 冷達を意識していないような感じで。

 その通り過ぎる瞬間に冷は見つけた。

 彼らが同じ首に噛まれた後があったのを。

 僅かな時間でも見逃さないでいた。


(あれは何だろう、まるで獣にでも噛まれたのか。歯型がクッキリと残っていた。それも全員がだ。普通考えられるような跡ではない。不思議なこともある)

 

「何やら変な感じしました」


 ミーコが察したのは冷と同じものであった。


「ミーコもか。俺も感じた。何だろうか。変な人だったよ」


「お前が言うな。お前も十分に変な人だろうが。それを置いといて他人に変なとは、勘違いもはなはだしい」


「リリスには俺が正義感のある人だといつかわかってもらいたい」


「ふふ、わかるかよ。それよりもウル森に行こうぜ」


 リリスが正義感など興味ないとして先に進んだ。

 

「待ってリリス〜」


 アリエルとミーコも冷を置いて行った。

 

「う〜、やはり変態だというのは消せそうにないか……」


 仕方なく諦めるように歩き始めた。

 しかしその時に声が聞こえた。


「きゃあ〜〜〜〜〜〜〜!」


「!!!!!」


 冷は声のする方に急いだ。

 先に進んだアリエルとミーコ、リリスが何者かに捕らわれていた。

 彼女達の悲鳴であった。


(しまった!!)


「何だいあなた達は。早く彼女達を離してせ!」


(何人もいるな。全員、防具を身に着けてる。冒険者か? 俺としたが油断した。つい距離を取ってしまった。それがこんな目にあうとは。ちくしょー、俺の失敗だ。申し訳ないなアリエル、ミーコ、リリス。直ぐに楽にしてやるからな)


 彼女達の周りには多くの人がいて、見動き出来ないようにしていた。

 冷は反省していた。

 自分がしっかりと見てあげてれば、防げたからでボンミスと言えよう。


(俺としたことが……ミスったな)


「今なんて言った? 俺に対して、離せ……だと。俺に命令出来るような立場かよ」


 冷に対して言う。

 その言い方は仲良くしようというより、敵対心が感じられる。


「君は確か……城で見たことがあったぞ……。確か……」


 冷はその男に見覚えがある。


(顔は見覚えがあるのに名前が出てこない。何ていったかな。俺って人の名前を覚えるの苦手。全く覚えられないで困ったものだった)


 必死に思い出そうにも中々名前が出てこない。


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