表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/351

76

76



 冷達がコットルの町に到着した時に、王都では衛兵が慌てて駆け足で城を走り抜けた。


「大変ですハンマド国王!!」


「何事だ……」


 ハンマド国王は酒を飲んでいた最中であった。

 衛兵が普段こうして現れるのは滅多にないので、耳を傾ける。


「それが国王も知っている冷の件でして……」


「冷? あの魔人オークとサイクロプスを討伐した若者か。彼がどうかしたか。アレだけの貢献を国にしたのだ。多少は好きにしていいぞ」


「好きにしていいと、言われもしても。果たして野放しでいいものかと思いまして。現在禁止区域とされているウル森があります。そこへ向かったと情報がありました」


「ウル森? たしかあそこは伝染病がある地帯だったはずだ。何者にも近寄らせるなとなっているはずだろ。知らないのか冷は?」


 ハンマド国王は大したことてはないと思っていたが、話が話だけに身を乗り出した。


「そこまではわかりません。ただ周辺のコットルの町に向かったようです。いかがしましょうか」


「……止めろ。もし伝染病が蔓延したら一大事だろ。冷には説明して近づかせないようにしろ!!」


「しかし相手はあの冷です……。話が通じるかどうか。更にあの能力です、騎士団を送っても止められるか……」


 衛兵は冷の話は当然に知っていた。

 騎士団を送っても冷が抵抗したら歯が立たないのはわかっていた。

 それほど冷の力は認知されていた。


「……むむ、抵抗したらか。困ったな。確かに冷は納得するかわからない相手だ。なにせ温泉欲しさにサイクロプスを潰したくらいだ。理由がわからん奴だ。仲間にすれば頼もしいが敵にしたらとんでもない奴。どうやって食い止めるか」


 頭を抱えて悩む。

 国王としても冷は敵に回したくないという認識であった。

 

「はい、行動に意味がわからないところがあります」


 衛兵も困っていた時にひとりの男が現れる。

 その男は国王の前に来て頭を深く下げる。


「ハンマド国王、俺に任せてもらぇせんか。今の話は聞きました。冷の扱いは俺なら問題はありません」


「おお! そなたはラジッチ。そうか向かってくれるのか。そなたなら問題はない。直ぐに向かってくれたまえ、騎士団も出そう」


 現れたのはCランク冒険者のラジッチ。

 先日は冷が王都に呼ばれてきた時にであったひとりだ。

 冷の活躍は気に入らないと思っていた。

 見知らぬ冒険者のくせに、良い気になりやがってと。

 そこへ今の話は願ってもない話。

 ここで冷を説得させれば、国王から一段と評価は上がる。

 もし断れば叩き潰す理由にもなる。

 どちらにしろラジッチにしては好都合というわけだ。


「ウル森と言えば確か立ち入り禁止区域だったはず」


「そうだよ。立ち入り禁止区域。王都の研究でもあの伝染病は謎。もし伝染病が誰かの体にうつり拡散したら大変な事態となる」


「あの冷はそこまで考えてないでしょう。なにせ考えが理解出来ないところがありますから。理解しようとしたらこちらが頭がおかしくなります」


「なぜウル森に行ったのかさえわからない。理由はともかく決して近づかせないでくれ」

 

「はい、このラジッチが直ぐにコットルの町に向かいます。必ずや冷を説得させます。では失礼します国王」


「任せたぞ。もし冷が説得に応じなければだ、その時はキミの力で強引にきかせれくれ」


「言われなくても、してやります」


 ラジッチは頭を深く下げると国王から離れた。

 城を出てコットルの町に忙しく馬に乗りこんだ。

 ハンマド国王はひと安心した。

 まさかラジッチが協力してもらえると思わなかったからだ。

 それほどまでにラジッチの力は知られていた。

 そばに居た衛兵も喜んだ。


「国王、良かったですね、ラジッチ様が協力してくれたなら安心です。これ程強い味方はありませんよね」


「その様だな。もう安心していられそうだ」


 ハンマド国王はまた酒を飲みだした。



 冷達はもちろんそんな事情は知る由もない。

 その日はゆっくりと体を休めておく。

 翌日には起き集まって話し合うことに。

 まずは同じ部屋のリリスを起こす。


「おはよう、良く寝れたかな。それでは今日はウル森に出向きたいと思う。ご飯でも食べて準備をしよう」


 冷はいつでも行ける心の準備は出来ていた。


「む〜〜、まだ眠いから寝かせろ〜」


 リリスは掛ふとんにしがみついて、起きようとされたのを拒む。


「もう朝だ。起きて」


「む〜〜、もう少し」


 リリスが起きないので冷は掛ふとんを引っ張る。


「ほらっ! 早く起き……!!!!」


「こ、こ、こ、こ、こら〜〜〜!」


「あらら、何も着て……!!!!」


 掛ふとんをはがすと、リリスは裸のままで寝ていた。


「や…………はり、お前はこれを狙っていたのだな!」


「違う!」


「違うと言いつつ、ずっと見続けてる!」


「そ、それじゃ早く着なさい!」


(もう何度も見たリリスの体だけど、いきなり見ちゃうとびっくりする)


「向こう向いててよ!」


「はいはい」


 リリスが服を着ると隣の部屋のミーコとアリエルを呼びに行く。


「お〜い、ミーコ、アリエル、起きてるかい、入るぞ?」


(4人集まって今日の予定を話し合う為に)


 冷は扉をトントンとノックしてから部屋に入ると、


「なななななななな!!」


「冷!!!」


「あっ!!!!!」


 部屋の中ではまさにアリエルとミーコが服を着ようとしている最中。

 モロに見えてしまった。

 もちろん冷は見る気はなかったのに。


「すすすすまん!」


「出たな変態のぞき魔!」


「タイミングが悪かっただけだろ!」


(俺は絶対に見ようとしたわけじゃない)


「言い訳はいいから、早く閉めたら」


「あっ、そうします」

 

 慌てて扉を閉めた。

 その一部始終を見ていたのはリリス。


「私の掛ふとんの件では物足りなく、次はのぞきかよ!」


「いやいや、これはアクシデントだよ」


(まさか後ろで、リリスが見ていたとはな)


 その後、全員を集めて予定を話し合うことに。

 しかし話し合うとしても、このあり様では、話すのも苦労がいる。


「えっと……リリスもですか?」


「そうだよ。私の裸を見て楽しんでた」


「楽しんではいない。リリスが裸だと知らなかったのさ」


「どうなのかな」


「そして、次は私とミーコを」


「その件は謝罪します。ですから今日の予定といきましょう」


「話を変える気かよ。まぁいい、それでウル森に行くのだろ?」


「その予定」


「魔物もいるみたいね」


「国が危険と言うのなら間違いなく危ないよね」


「それは覚悟の上さ。それでも君たちは俺と行くかい。無理には誘わない。怖いならここで待機になる」


(強制はしない。今回はヤバイ感じするからな)


「大丈夫、みんな冷と行きます」


「その為に来たのです」


「そうかい、君たちの頑張りも期待してる!」


「森に行くのもいいが、腹が減ったぞ!」


 リリスが水をさすひと言を。


「リリスには大事なことだったな」


「当然だろう。腹が減っていたら歩けない」


「宿屋の外に飲食店がありました」


「その店で朝食をとろう」


 防具類は装備して宿屋から外出。

 外に出ると複数人の町の人が立っていた。

 冷を見て近寄る女性。


「あの〜冷さん?」


「はい、冷です」


「ウチにきてください。ウチの娘が苦しんでます、会ってくれませんか?」


「娘さんにですか……わかりました、会いに行きましょう」


「ありがとうございます。こちらです」


 冷は女性に連れられて自宅に向かった。

 大きな家とは言えないが家族が暮らすには十分な家であった。

 

「モモ、冷さんが会いに来てくれたわよ」


 モモはベッドで横になっていた。

 伝染病に感染し苦しんでいて、長いことこの生活であった。


「冷さん、こんにちはモモです。みんな友達も伝染病になったの。みんなを助けてください」


 モモは寝ながら冷にお願いした。


「大丈夫だよ、俺がこれからウル森に行って草を持ち帰るからよ」


(これは大変な目にあってるな。早く何とかしてあげたいぜ)


「ありがとうございます。無理なこと言ってごめんなさい。冷さんしか頼める人はいないらしいの。他には頼めないってさ」


 すると割って入るようにしてアリエルが。


「モモちゃん、この男はあんまり信用しちゃダメよ。確かに強いしそこらの魔物なら相手にならないの。でもこの男の正体はというとね……」


 アリエルがモモに説明しだした。

 冷がどういう男で、とても危険な男であることを。

 モモに知らせる必要があった。


「正体……。とても強くて勇敢な冒険者だと聞いてますが。違うのですか?」


「勇敢な冒険者だなんて、それは表の顔で、本当は」


「おいおい、ちょっと待ってアリエル! それは今言うべきことじゃないだろう。それにまだ幼い娘にだ!」


 慌ててアリエルの口を押さえにかかる。

 

「……んんんん!」


 押さえられて息が出来なくなり、苦しむ。 


「モモちゃん、今の話は聞かなかったことにな。それじゃ俺は行ってくるから!」


「はい冷さん。でもそのお姉さん苦しそうですよ」


「ああ、気にしなくていいよ。このお姉さんは」


「はい」


 モモはよくわからないが、大人の言うことなので返事をしたのだった。


「んんんん!」


「それじゃね」


 アリエルは口を押さえられたまま、モモの家を出るのであった。


「もう、冷ったら離しなさい!」


 やっと口を自由にされた。


「ゴメンゴメン。余計なこと言いそうだったから」


「余計なじゃない本当のことでしょうが。冷はとんでもない女好きな変態だと」


「それは当たってるぞ。変態に違いない」


 リリスも頷いた。

 

「変態です」


 ミーコも続いて賛成した。


「なっ、俺は変態確定かよ」


「犯罪です。女の子を4人も好き勝手にしておいた。王都が知ったら黙ってないです。きっと捕まえに来ます」


「ミーコ、脅かすなよなマジで。それよりも俺が草を持って帰ってまたまた大活躍してやろうぜ」


(女の子を4人も囲むと捕まるのか。そんな法律があるのかな。あるとしたらマズイな。俺は確実に逮捕されるもんな。尚さらモモの前で言ったらダメだろう。止めて正解だった) 


「ウル森の場所は知ってるの? 行き方しらないとわからないけど」


「そこはミーコが知ってると思ってたんだが、知らないのか」


「知るわけないです。知ってるのは名前だけ。これで大丈夫かしら」


 ウル森に行くと行きこんだものの、森の詳しい場所も知らない冷。

 ミーコは呆れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ