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冷達がコットルの町に到着した時に、王都では衛兵が慌てて駆け足で城を走り抜けた。
「大変ですハンマド国王!!」
「何事だ……」
ハンマド国王は酒を飲んでいた最中であった。
衛兵が普段こうして現れるのは滅多にないので、耳を傾ける。
「それが国王も知っている冷の件でして……」
「冷? あの魔人オークとサイクロプスを討伐した若者か。彼がどうかしたか。アレだけの貢献を国にしたのだ。多少は好きにしていいぞ」
「好きにしていいと、言われもしても。果たして野放しでいいものかと思いまして。現在禁止区域とされているウル森があります。そこへ向かったと情報がありました」
「ウル森? たしかあそこは伝染病がある地帯だったはずだ。何者にも近寄らせるなとなっているはずだろ。知らないのか冷は?」
ハンマド国王は大したことてはないと思っていたが、話が話だけに身を乗り出した。
「そこまではわかりません。ただ周辺のコットルの町に向かったようです。いかがしましょうか」
「……止めろ。もし伝染病が蔓延したら一大事だろ。冷には説明して近づかせないようにしろ!!」
「しかし相手はあの冷です……。話が通じるかどうか。更にあの能力です、騎士団を送っても止められるか……」
衛兵は冷の話は当然に知っていた。
騎士団を送っても冷が抵抗したら歯が立たないのはわかっていた。
それほど冷の力は認知されていた。
「……むむ、抵抗したらか。困ったな。確かに冷は納得するかわからない相手だ。なにせ温泉欲しさにサイクロプスを潰したくらいだ。理由がわからん奴だ。仲間にすれば頼もしいが敵にしたらとんでもない奴。どうやって食い止めるか」
頭を抱えて悩む。
国王としても冷は敵に回したくないという認識であった。
「はい、行動に意味がわからないところがあります」
衛兵も困っていた時にひとりの男が現れる。
その男は国王の前に来て頭を深く下げる。
「ハンマド国王、俺に任せてもらぇせんか。今の話は聞きました。冷の扱いは俺なら問題はありません」
「おお! そなたはラジッチ。そうか向かってくれるのか。そなたなら問題はない。直ぐに向かってくれたまえ、騎士団も出そう」
現れたのはCランク冒険者のラジッチ。
先日は冷が王都に呼ばれてきた時にであったひとりだ。
冷の活躍は気に入らないと思っていた。
見知らぬ冒険者のくせに、良い気になりやがってと。
そこへ今の話は願ってもない話。
ここで冷を説得させれば、国王から一段と評価は上がる。
もし断れば叩き潰す理由にもなる。
どちらにしろラジッチにしては好都合というわけだ。
「ウル森と言えば確か立ち入り禁止区域だったはず」
「そうだよ。立ち入り禁止区域。王都の研究でもあの伝染病は謎。もし伝染病が誰かの体にうつり拡散したら大変な事態となる」
「あの冷はそこまで考えてないでしょう。なにせ考えが理解出来ないところがありますから。理解しようとしたらこちらが頭がおかしくなります」
「なぜウル森に行ったのかさえわからない。理由はともかく決して近づかせないでくれ」
「はい、このラジッチが直ぐにコットルの町に向かいます。必ずや冷を説得させます。では失礼します国王」
「任せたぞ。もし冷が説得に応じなければだ、その時はキミの力で強引にきかせれくれ」
「言われなくても、してやります」
ラジッチは頭を深く下げると国王から離れた。
城を出てコットルの町に忙しく馬に乗りこんだ。
ハンマド国王はひと安心した。
まさかラジッチが協力してもらえると思わなかったからだ。
それほどまでにラジッチの力は知られていた。
そばに居た衛兵も喜んだ。
「国王、良かったですね、ラジッチ様が協力してくれたなら安心です。これ程強い味方はありませんよね」
「その様だな。もう安心していられそうだ」
ハンマド国王はまた酒を飲みだした。
冷達はもちろんそんな事情は知る由もない。
その日はゆっくりと体を休めておく。
翌日には起き集まって話し合うことに。
まずは同じ部屋のリリスを起こす。
「おはよう、良く寝れたかな。それでは今日はウル森に出向きたいと思う。ご飯でも食べて準備をしよう」
冷はいつでも行ける心の準備は出来ていた。
「む〜〜、まだ眠いから寝かせろ〜」
リリスは掛ふとんにしがみついて、起きようとされたのを拒む。
「もう朝だ。起きて」
「む〜〜、もう少し」
リリスが起きないので冷は掛ふとんを引っ張る。
「ほらっ! 早く起き……!!!!」
「こ、こ、こ、こ、こら〜〜〜!」
「あらら、何も着て……!!!!」
掛ふとんをはがすと、リリスは裸のままで寝ていた。
「や…………はり、お前はこれを狙っていたのだな!」
「違う!」
「違うと言いつつ、ずっと見続けてる!」
「そ、それじゃ早く着なさい!」
(もう何度も見たリリスの体だけど、いきなり見ちゃうとびっくりする)
「向こう向いててよ!」
「はいはい」
リリスが服を着ると隣の部屋のミーコとアリエルを呼びに行く。
「お〜い、ミーコ、アリエル、起きてるかい、入るぞ?」
(4人集まって今日の予定を話し合う為に)
冷は扉をトントンとノックしてから部屋に入ると、
「なななななななな!!」
「冷!!!」
「あっ!!!!!」
部屋の中ではまさにアリエルとミーコが服を着ようとしている最中。
モロに見えてしまった。
もちろん冷は見る気はなかったのに。
「すすすすまん!」
「出たな変態のぞき魔!」
「タイミングが悪かっただけだろ!」
(俺は絶対に見ようとしたわけじゃない)
「言い訳はいいから、早く閉めたら」
「あっ、そうします」
慌てて扉を閉めた。
その一部始終を見ていたのはリリス。
「私の掛ふとんの件では物足りなく、次はのぞきかよ!」
「いやいや、これはアクシデントだよ」
(まさか後ろで、リリスが見ていたとはな)
その後、全員を集めて予定を話し合うことに。
しかし話し合うとしても、このあり様では、話すのも苦労がいる。
「えっと……リリスもですか?」
「そうだよ。私の裸を見て楽しんでた」
「楽しんではいない。リリスが裸だと知らなかったのさ」
「どうなのかな」
「そして、次は私とミーコを」
「その件は謝罪します。ですから今日の予定といきましょう」
「話を変える気かよ。まぁいい、それでウル森に行くのだろ?」
「その予定」
「魔物もいるみたいね」
「国が危険と言うのなら間違いなく危ないよね」
「それは覚悟の上さ。それでも君たちは俺と行くかい。無理には誘わない。怖いならここで待機になる」
(強制はしない。今回はヤバイ感じするからな)
「大丈夫、みんな冷と行きます」
「その為に来たのです」
「そうかい、君たちの頑張りも期待してる!」
「森に行くのもいいが、腹が減ったぞ!」
リリスが水をさすひと言を。
「リリスには大事なことだったな」
「当然だろう。腹が減っていたら歩けない」
「宿屋の外に飲食店がありました」
「その店で朝食をとろう」
防具類は装備して宿屋から外出。
外に出ると複数人の町の人が立っていた。
冷を見て近寄る女性。
「あの〜冷さん?」
「はい、冷です」
「ウチにきてください。ウチの娘が苦しんでます、会ってくれませんか?」
「娘さんにですか……わかりました、会いに行きましょう」
「ありがとうございます。こちらです」
冷は女性に連れられて自宅に向かった。
大きな家とは言えないが家族が暮らすには十分な家であった。
「モモ、冷さんが会いに来てくれたわよ」
モモはベッドで横になっていた。
伝染病に感染し苦しんでいて、長いことこの生活であった。
「冷さん、こんにちはモモです。みんな友達も伝染病になったの。みんなを助けてください」
モモは寝ながら冷にお願いした。
「大丈夫だよ、俺がこれからウル森に行って草を持ち帰るからよ」
(これは大変な目にあってるな。早く何とかしてあげたいぜ)
「ありがとうございます。無理なこと言ってごめんなさい。冷さんしか頼める人はいないらしいの。他には頼めないってさ」
すると割って入るようにしてアリエルが。
「モモちゃん、この男はあんまり信用しちゃダメよ。確かに強いしそこらの魔物なら相手にならないの。でもこの男の正体はというとね……」
アリエルがモモに説明しだした。
冷がどういう男で、とても危険な男であることを。
モモに知らせる必要があった。
「正体……。とても強くて勇敢な冒険者だと聞いてますが。違うのですか?」
「勇敢な冒険者だなんて、それは表の顔で、本当は」
「おいおい、ちょっと待ってアリエル! それは今言うべきことじゃないだろう。それにまだ幼い娘にだ!」
慌ててアリエルの口を押さえにかかる。
「……んんんん!」
押さえられて息が出来なくなり、苦しむ。
「モモちゃん、今の話は聞かなかったことにな。それじゃ俺は行ってくるから!」
「はい冷さん。でもそのお姉さん苦しそうですよ」
「ああ、気にしなくていいよ。このお姉さんは」
「はい」
モモはよくわからないが、大人の言うことなので返事をしたのだった。
「んんんん!」
「それじゃね」
アリエルは口を押さえられたまま、モモの家を出るのであった。
「もう、冷ったら離しなさい!」
やっと口を自由にされた。
「ゴメンゴメン。余計なこと言いそうだったから」
「余計なじゃない本当のことでしょうが。冷はとんでもない女好きな変態だと」
「それは当たってるぞ。変態に違いない」
リリスも頷いた。
「変態です」
ミーコも続いて賛成した。
「なっ、俺は変態確定かよ」
「犯罪です。女の子を4人も好き勝手にしておいた。王都が知ったら黙ってないです。きっと捕まえに来ます」
「ミーコ、脅かすなよなマジで。それよりも俺が草を持って帰ってまたまた大活躍してやろうぜ」
(女の子を4人も囲むと捕まるのか。そんな法律があるのかな。あるとしたらマズイな。俺は確実に逮捕されるもんな。尚さらモモの前で言ったらダメだろう。止めて正解だった)
「ウル森の場所は知ってるの? 行き方しらないとわからないけど」
「そこはミーコが知ってると思ってたんだが、知らないのか」
「知るわけないです。知ってるのは名前だけ。これで大丈夫かしら」
ウル森に行くと行きこんだものの、森の詳しい場所も知らない冷。
ミーコは呆れてしまった。




