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商業ギルドを後にした冷は、ある事を頭に描いていた。
大金が入ったのだから、好きに使える金があるということ。
これだけの大金である。
当然に冷は見たことはない。
頭に描いていたのは、道場のイメージであった。
(今は草っぱらでしかない。ここに道場を建設したい。きっとこの金があれば十分に可能だろう)
道場を作る夢を思い描いていたのだが、その為には金が必要である。
それは日本と変わらない仕組みであろう。
(よし、俺は自分の土地に道場を作るぞ)
そう決めた冷は相談する。
「俺は今、すっごい事を考えてんだけど」
「すっごい事? またエロいことですね。商業ギルドのパトリシア店員について、エロい妄想をしていたのでは。違いますか?」
「ち、違うさ。俺は今考えてたのは道場を建設するっていうとても大きな夢のある話だぜ。ミーコが言ってるエロい妄想だの類いは、俺は考えてなんかいないぞ」
「そういう時の冷氏はたいてい慌てます」
「慌ててないってば。俺の夢を語っているんだから。言ったことは恥ずかしいけど俺が昔から思っていたんだ」
ミーコに指摘された時は冷はドキッとしていた。
なぜなら半分は道場の建設を、半分はパトリシア店員の体を考えていたのだったから。
半分は指摘が当たっているのであるが、そこは否定しておかないと道場を建設するっていう話が信じてもらえなくなる。
(ミーコの奴、鋭い指摘するようになったな。要注意だ)
「あの土地の上に建設するとなると、今は確か草っぱらでとても建物を建てられるような状態ではなくてよ」
「そうだったな。あのままでは無理だろう。だから検討しようと思う」
「そもそも道場てのは何なんですこと?」
「そうか、女神は日本式の道場を知らぬか」
「世界の全てを知ってるかと」
ミーコにも指摘される。
「それは女神を過信してます。知らないことも数多くあります」
「神のみぞ知るていうけど」
「誰かが勝手に作った言葉でしょう。私は聞いたことありません!」
「女神て何を知ってるの?」
「もうそれは世界の歴史は知ってますことよ」
「道場には興味ないなアリエル?」
「はい、ありませんでした。だって私は戦う必要ないし、そもそも敵もいなかったし。鍛える必要ないから!」
「理由はわかったよ。まぁ道場てのはアリエルが言うように、己を鍛える場である。自己鍛錬と思ってくれ。心技体を鍛えたら今よりもずっと強くなれる」
「強くなれなかったら?」
「俺が嘘つきとなる」
「強くなれると断言するわけね」
「断言する!」
「エロいことしないか」
「しない! 道場では絶対に禁止」
「どうするみんな……」
アリエルがミーコとリリスの方に向いて確認をする。
「道場を作るのはいいでしょう。なにしろ、自分の金ですから。自分の勝手で魔人を倒して作ったお金。冷氏が決めて構いません」
ミーコはおおかた賛成となる。
リリスは、
「鍛錬だ訓練だ、1番苦手だからな。朝早いし、面倒だし」
「リリスは反対となるの」
「反対まではしない。ただ作るのは自由でそれはそれで、訓練は不参加ってことでどうかな」
「つまり出来上がった道場に来るけど、訓練はしないで観戦すると?」
「そうです」
「それはダメだリリス! 俺は3人を訓練したいんだから、ひとりでも欠けたら意味がない」
「お前の自己満足だろ!」
「いいや、君たちには素質がある。とても凄い潜在的な能力がある。俺はそこに気づいたんだ。無視しろと言われても嫌だ。3人とも訓練するぞ!」
「結局は冷のわがままな気もするが」
「違う、違う。きっと訓練が進めばわかるさ」
「道場はいいけど、腹も減ったのですよ。どうでしょうその話は食事をしながらでもいいですかね」
「食事か……。そう言えば腹も減ったなミーコが言うように食事にしよう」
ちょうど食事をする時間であったので食事をとることに。
近くのお店で注文した。
そして具体的な内容の話をする。
「草っぱらを先ずは君たちにだな、刈ってもらおうと思ってる。それにはちゃんとした理由もあってのことだ。どうだろうか?」
(草っぱらがあったら道場は建てられないからな)
「ちょっと待て、お前の言い方だとまるで私達が草っぱらを綺麗にしろって聞こえたぞ!」
「その通りだよリリス君。君たちには今日これから草っぱらを刈っていただく」
「はあ? なんでだ。そんな面倒くさいのは商人に言ってだな、草を刈る専門の人に任せればいいだけの話だろ。なぜ私達にやらせるのだ」
リリスは面倒くさいのを言われて、冗談じゃないと言った。
「嫌か、草を刈るのは?」
(すごい、足腰が鍛えられて良いのだけどな)
「当たり前です。私達は冷の仲間であって、草を刈る要員ではないはず。それを草を刈る作業をさせるなんて酷い仕打ちですし、仲間へのイジメですわ」
「ミーコよ、それは違うさ。なぜなら俺は君たちのことを一生懸命考えて言ってるのだ。そこを勘違いしてはダメだ」
「言ってる意味がわかりません。冷氏の言ってるのは私達をこき使うことです。決して為にはなりません。それを勘違いだなんて、あなたこそ勘違いもいい加減にして」
ミーコはフォークでテーブルを叩いて怒り出す。
テーブルの食事が振るえた。
「おいおい、君の言いたいことはわかった。それは俺が楽して君たちに苦労をさせるつて意味だろう。その苦労が俺は大事だと言ってるのさ。わかるかな」
「全然わかりません!」
「意味がわかりません!」
「わかるように話せ!」
3人とも首を左右に振った。
「まず草を刈る体勢をイメージしてみてくれたまえ。どう言う風になってるかなアリエル?」
「えっと〜草を刈るわけだから、地面に手を伸ばす様にしてるかしら。またはしゃがんでも刈れるわね」
「そうだよな。アリエルが言ったように草を刈る作業とは体を使う。それも足腰を使い地面に手を付き、泥だらけになって出来る作業なのだ」
「あっ! それは足腰を使うことに繋がる。つまりは草を刈る作業が私達の足腰を使う訓練となる……ってことかな」
「その通りさアリエル。やっと俺の言ってる意味が理解できてきたようだな。草を刈る作業は決して無駄ではない、とても重要な訓練なのだよ。だから今から君たちに作業してもらう、いいな!」
(理解してもらうのに、だいぶ時間がかかったけど)
「足腰なら他に方法もあると思う」
「これはこれで大変に成果がある。筋肉痛になるのは間違いない」
「筋肉痛だと? 筋肉を傷めつける気か。やはりお前はエロいことを。それも私の体を傷めつけるなんて、変態過ぎる!」
「まさかそこまでやるとは。暴力を振るうなんて、最低の男です!」
「エロいことの次は暴力とは、もう許しませんことよ!」
「いや待て待て、誰も俺が君たちの体を傷めつけるなんて言ってないよ。筋肉痛てのは激しい訓練をした後に起こる現象さ。普段使わない筋肉を使うと翌日などに痛くなるんだよ。君たちにはそこまでやってもらうよ」
「痛くなるまでして、意味があるの。無意味じゃないかな?」
「意味があるんだ。なぜかというと、筋肉は鍛えると筋肉痛が起こる。けども筋肉痛の後にはちゃんと筋肉が昨日よりもアップしてるのさ。筋肉痛はパワーアップする時に起こるサイン」
「えっと……筋肉痛がきたら喜んでいいというの?」
「喜んでいい」
「なんか変な感じする」
「最初はな。あるところで変わるさ」
「わかりました。私は草むしりに賛同します」
アリエルは賛同しミーコは、
「訓練したら、ご褒美が出るとか?」
「出ない!」
「そうですか、ご褒美なしでも賛同します」
ミーコはやや不満もあるが賛同した。
「わかったわ。お前の言う通りにしてやる。飯も食ったし」
「本当か! まさか素直に賛同するとは、びっくりだぜ!」
「私もびっくりしました」
「私も拒否する方に自信ありました」
「ふふ、やるときはやるのさ」
リリスは食事を全部食べきって、うなずいた。
「疑ってごめんなさい。そこまで考えつかなかった私が恥ずかしいです。草を刈る作業やるわ!」
「頼むぜミーコ」
(どうやら、みんな納得して頂けたようだ。さっそく始めてもらおう)
冷たちは食事を終えて、購入した土地に向かった。
場所は近かった。
当たり前てあるが、変わっているわけなく草が生い茂っている。
「この状態だから草を全部刈る必要がある。君たちは今日は草を刈る作業が訓練メニューだ。頑張ってくれたまえ」
(この広さだ。1日はたっぷりとかかるだろう)
さっそく意見が起こる。
「あの〜質問であります」
「なんだねミーコ」
「草を刈る道具はあるのですか。素手でですと刈れませんです。かといってナイフ的な物は持っていないから」
「あるだろう、ミーコは聖剣ヴェルファイアで刈ってくれ。リリスは魔剣グラムを使えばいい。アリエルは杖なので、そうだな〜手でむしり取る」
「えっ、大事な聖剣ヴェルファイアをこんな作業の為に使うというの。もし刃こぼれでもしたら、どうする気ですか?」
「心配ない、そんな軟な武器ではないだろうし、刃こぼれするくらい粗末なら捨ててしまえ」
「魔剣グラムはレアアイテムなのだぞ。お前はその価値がわかっておるのか?」
「わかってるさ。だからこそ武器を使えと言ってる。なぜなら武器は使いこなしてこそ価値がある。だから草を刈る作業でも馬鹿にしてはダメだ。自分の一部のようになるのが理想的な武器だからな。俺なんかはナギナタは大事な一部と思ってるぞ」
(まぁバアちゃんだから、間違ってはいないだろう)
「単に草を刈る道具がなかったのでは?」
「な、な、何いってる。俺は初めから武器を使ってもらう予定だよ」
「そうか、体の一部とは考えたことはなかった。お前の言うように刈ってみるよ」
魔剣グラムを担ぎ、納得してしまうリリス。
「頼むぜリリス」
「ちょっと待ってください。ミーコの聖剣ヴェルファイア、リリスの魔剣グラムは理解できました。だが私のケースではなぜ素手なのよ。仮にも女神の手は神聖な象徴なのです。それを乱暴に扱えとは何事でしょうか?」
アリエルは自分だけ素手でと言われて、ムカっときていた。
一人だけ粗末に扱われた気分になったのである。
「うむ、アリエルには、やはり素手でお願いする。どうしてかって思ってるだろ。理由はしっかりとある。素手で草を刈るのは意味がないと思われがちだが違うさ。まず素手で草を掴むのは楽だと思うが、これを何時間もしてみるとわかる。とても厳しい訓練となる。握力がつくのである。だから素手を勧めたのだ。決して女神の手を馬鹿にしたのではないのはわかって欲しい」
「手が汚れる」
「後で洗えばいい」
「怪我したらどうする。私の手には価値があることよ!」
「握力がつけばもっと価値が高まる」
「握力か……。それならば納得します」
最後にアリエルも納得し草を刈る作業が開始された。
3人とも土地に入るとお互いに顔を合わせてうなずいた。
「よし、頑張っていこう!」
リリスが掛け声をかける。
「頑張る!!」
アリエルとミーコはリリスに賛同して声を上げた。




