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城内を進むと奥に大きな階段、それもよく見かけるレベルの階段ではなく、デパートにあるのよりも大きな、が冷の前に現れてどこまで連れて行かれるのかと思う程に広いのには冷は参った。
(ここで俺ひとりになったら確実に迷子になる自信ある。この階段を上がったら国王が居そうな気もする。なんか俺だけ場違いな所に来た感あるよな)
やや不安になるも階段を上がるとそこには大きな部屋が現れ、中央には椅子があり、国王らしき人物とその一族なのか姫らしき人物も確認し冷は頭を下げた。
実際にいたのはハンマド国王とビジャ姫、軍師コロナ、魔術師ライン。
冷、リリス、ミーコ、アリエルが入ると目を向ける。
その後にサイクロプスとヘスティが入室した。
この時はさすがにどよめきが起きる。
「サイクロプスよ、この城ではお前の好きにはさせないぞ!」
「その前に動けないのだけど」
縄で繋がれたままヘスティと一緒に国王の前にさらされる。
「冷か、よくぞ来たな。私はこの国の国王であるハンマド。今回のサイクロプスを捕らえた件には大変な感謝しておる。我が国内における重大な懸念材料であった憎きサイクロプス。憎んでも憎んでも憎んでも晴らせない恨み。それを捕らえたとはありがたい。感謝する」
ハンマド国王は冷に感謝の念を込めて言った。
「ありがとうございますハンマド国王。俺はサイクロプスがこのスタンダール国で懸念材料なのは聞いてました。それで殺さずに生かしておいて、国王の目に届けようと思いました」
「その方が都合がいい。サイクロプスを捕まえたことで何か使えるかもしれないからな。生かしておこう。サイクロプスの一件に関して冷にマリを贈りたいと思う。金額は1億マリを贈る! 後で受け取ってくれたまえ! もちろんサイクロプスに賭けられた懸賞金も考慮してだ。我が王都騎士団が10万人も一度に殺されたのだから、それくらいの金額になるのは当然だろう」
「い、1億ですか、そんなに貰っていいのですか?」
1億と聞いて自分の耳がおかしくなったのかと思うほど驚いてしまい、それは1億といえば日本円にしてみれば破格の大金であり、札束を並べたら、お札の山が出来上がる量の金額だから、マリに置き換えても同じくらいの価値はあるとしたら、途方もない額に冷は聞き返してしまった。
(まるで宝くじに当たったレベルだ)
「当然だよ、あなたがこのスタンダール国に居てくれて本当に良かったと思ってる。1億は貰って当然。むしろあなたの方からもっと金額を上げろと言われるのかと思ったくらいさ」
ハンマド国王は冷が1億マリの金額に納得せずにもっと高額なマリを要求してくるケースも考えていて、最大でも1億5000万マリくらいなら出せるかと不安に思っていので、冷がそんなにもらっていいのですかと言うのは意外であった。
「1億もらいます。ありがとうございます。俺としてはマリをもらえさえすれば、特別に異議はありませんので、これで失礼します」
受け取れるマリにお礼をして冷はハンマド国王に城から帰ると言い、これ以上いても場違いな感じがひしひしと伝わるのもあって、部屋から出たくなったからだった。
「受け取ってくれたのは嬉しいが、冷には別に話があるのだが、訊いてくれるかな。今回のサイクロプスの件とは全く繋がりがないわけではない話であって、国が抱える問題なのだ」
「と言いますと……」
(急に真剣な顔になった。あまりいい話ではなさそうだが)
冷はハンマド国王が言う問題がハッキリとは見えずにいた。
「魔人が最近になって動きが出てきたのじゃ。と言うのも中級、上級魔人は最近までは大きな動きがなく静かにしていたのだ。それがここ1年ほど各地で出没し人族を逆殺したり、魔物を集めたりと警戒感が高まってきている。最近にはオークが暴れだした。それはそなたの活躍でしずめた。サイクロプスもだ。だが他にも魔人はいる。ここまで活発な動きはなかった。考えられるのは1つしかないだろう。上級魔人が魔王を復活させようとしている。その魔力の影響で各地の魔物が暴挙に出たり、中級、下級魔人も活動を始めていると報告がある。冷、そなたに頼みたい事とはわかるだろう」
「ええっと、それって俺が他の魔人も倒してくれ、そう言うことですか?」
「倒す必要ないわけではないが、防衛に専念して欲しい。いたずらに刺激を与えて奴らの活動が活発化しても困る。あくまでも国、そして住む人々を守ってくれ」
「俺以外にスタンダール国には強い者がいるでしょう。例えば王都の騎士団とか、ギルドに登録した冒険者とか」
(その為の冒険者ギルドだろうし)
冷は自分よりも強いものが居ると考えて提案してみた。
「周辺にいる魔物なら倒せる冒険者はいる。クエストランクが高い冒険者となろう。しかし彼らでさえ魔人は無理だろう。もちろん話はしてみたが、誰も受けあってくれなかった。つまり割が合わないということだ。どんなに金を積んでも死んだら無意味なわけで。騎士団、中でも最高のクラスの騎士団である、剣士、魔法使い、Aランク冒険者でしか対応出来ない事案なのだ。そこに加わって欲しい」
ハンマド国王が魔人の話をすると、縄で繋がれたサイクロプスは不敵な笑みを浮かべる。
冷はその笑みで魔人側が有利なのかと思う。
「その上級魔人てのは、このスタンダール国に勝てる者が少ないと。もし魔人が襲ってきたら俺も戦って守ってくれ、そう言う話ですよね。話はわかりましたハンマド国王。でもね、サイクロプスを倒したのは俺の好きな温泉が入りたかったから、最初は話だけするつもりだったけど、断られて結局戦うはめに、それで倒して連れてきたんだ。だから俺からすると他の魔人を無理に倒したい気持ちはないんです、残念ながら」
冷は異世界に来たときから、強い相手とは戦いたいのだが、仕事として防衛して欲しいとなると面倒くさがりな性格から、避けたいと思うのだった。
「そうか、冷なら受けてくれると思ったのだが、無理ならしかたない」
「すみませんね、なにしろ俺は仕事となるとやる気なくなるみたいで」
ハンマド国王は残念そうにし、厳しい顔をつくった。
その時に国王の横にいるそ娘のビジャ姫がいた。
そして立ち上がると冷の近くに来て。
「私は娘のビジャ姫です。私からもその、お願いします冷。スタンダール国を救ってください。ダメですか?」
ビジャ姫はおじきをするようにしてお願いしますと言うと、大きな胸が露出されたのを冷は見逃さなかくて、とても魅力的な、柔らかい感じの、マシュマロのような、それでいてアイドルの様な可愛い顔をしていて、断れなくなったのだった。
(うわぁ〜可愛い子だな。こんな可愛い子が姫。これは断れないよな。それにとっても大きな胸!!)
「わかりましたビジャ姫。やりましょう世界を守る為、俺がその話受けます」
わずか1秒たらずで態度を変えた冷。
「あ、ありがとう冷!!」
「いや〜問題ないです」
(喜んでもらえて俺も嬉しいです。だが横に居る女の子達がどう思うかな)
「さすがは魔人を倒したお方。人格も素晴らしいですね。サイクロプスを捕らえたとなった今は、かなり危険な状態となりつつある。こちらもリスクを負うことになります」
「王都が襲われたらその時は俺が必ず守りますよ。安心を」
「嬉しいです。あなたのような冒険者なら大歓迎ですわ。国の最高評価として要職を与えるのも考えます!」
ビジャ姫の高評価に側近である軍師コロナが黙っていられなくなり、
「ビジャ姫、いくら活躍した冒険者とは言え、その様な勝手な行いはマズイかと」
「軍師コロナ、なぜダメなのですか」
「まだこの冷は新人の冒険者。国の要職とは過大な評価です。まだどんな人物かもわからないのに」
「新人もベテランも関係ないのですよコロナ。そもそもあなたの影響下にある騎士団は何をしていたのですか。今までロクに成果も出さずに!」
「そ、それは、ビジャ姫。騎士団はしっかりと国の為に働いております。騎士団よりも冷を評価するなんて暴言です」
「そうですかね、私には騎士団よりも冷の方が頼りになる気がします。そう言われる前にもっと手を打つべきでしょう。違いますか?」
「いえいえ、ビジャ姫、今は動く時ではありません。静かにしているのが重要なのであります」
「軍師コロナ、もうよい、ビジャもその辺でよしなさい! 冷が協力してくれると決まったのだし」
「ええ、俺が守ってみせますよ、ビジャ姫!」
冷が話に乗るのと言うとハンマド国王、それに周りにいる衛兵らも安堵の顔に落ち着いた。
(もし魔人と戦い勝てば俺の評価も上がりビジャ姫と知り合えるかもな)
「そうか引き受けてくれるか冷、助かったぞ、ではお願いする」
全くやる気無かった冷は、ビジャ姫のお願いしますの一言で受けますと変わり、その態度の変わりように心配したのがリリスであった。
「おいお前、今のはなんだ。まるで姫に言われたから引き受ける様に思えたが?」
「そんなことはない。俺は初めから魔人など怖くないさ。ただこんな幼い娘を悲しませたくないと思っただけだ」
(やはりリリスは疑いをかけてきた)
「そうかな、どうもお前があの姫に変な事を考えて態度を変えたようにみえたんだよな」
大正解であった為に冷は答えに詰まる。
「まあ、アリエルが俺をここに送ったのは魔王を倒すてことだろ、だからいいだろうこれで」
(結果は同じだからいいだろう)
「ずいぶんと簡単な説明だこと」
アリエルも変だなと思っていて冷のことだから良からぬ妄想でもしてるのではと危惧したのだった。
「スタンダール国と共に魔人と戦うのと、俺が勝手に自由に魔人をぶっ倒すのも同じ結果ならオッケーだろう」
「そこら辺は冷に任せるわ」
アリエルとしては冷がヤル気を出してくれさえすればいいわけで、下手に言ってヤル気をなくされても困るのもあるので、批判は避けた。
「要するに俺から戦うのではなく、襲ってきたら守ればいいのだよな。難しい話ではない」
「魔人を甘く見すぎているのが気になる」
「甘く見てないよ。魔人が俺を甘くみたのさ。その結果がこれだよ」
「話を理解しているの? 今の国王様の話は、魔人に襲われた時に戦って人々を守るのが目的よ。今回のように温泉だ、なんだと言って勝手に行動して魔人と戦うのは違いますのよ、わかってますか?」
「ああ、わかってるよ。殴られたら殴りかえせばいいのだろ」
「う〜んと、理解しているのか不明」
「冷の中では理解しているよ。国としてはなるべく戦いにはなりたくないってわけよ。今まで通りに戦わずしてお互いに静止している状態をキープしたい。でも少しだが魔人に動きがある。何だかはわからないのに。なので冷にはいざという時の保険。盾になってってことよ」
「つまり俺を頼るってことだろ。俺しか頼れないってことやな」
「はあ〜。どこまでも自己中」
「それと、あの姫も見る目が違う」
「私も同感」
「私も」
3人とも冷の考えに意見の違いはなく一致した。
今まで黙っていた不気味な笑みを浮かべるサイクロプス。
彼が突然に口を開く。
「ハンマド国王よ、俺を殺すなら殺せよ。俺はお前たちの仲間を大量虐殺したんだ。殺したい奴が多いだろう。だがお前らに言っておく、上級魔人達に会えば理解できる。会うべきじゃなかったとな」
「黙れサイクロプス。その時の為にお前を生かしておく、そうすれば上級魔人どもも我がスタンダール国には、攻撃できまい」
ハンマド国王はサイクロプスを人質として考える。
処刑するよりも利用価値があるからで、しかしサイクロプスはその考えには真っ向から笑ってみせた。
「あっはははは!!!!!! 俺を人質とする気か。馬鹿にしてるの。上級魔人達は俺の命などどうでもいいと思ってるさ。俺が死んだところで何とも思っていないだろうし、むしろ人質の俺を真っ先に殺すさ。つまりは上級魔人の力がまだわかってない証拠。中級魔人など比べたらゴミ同然の差。失礼にも程があるくらいにな」
「……サイクロプスよ、上級魔人の居所を知ってるなら言え。そして今何を考えてるのかを?」
「知ったところでお前らにはどうにも出来やしないさ。無力。何をしても無駄だろう」
「その言い方だと知ってるな。言え、お前の知ってる情報を全て言いなさい」
「だから言うわけないし」
「魔人は何を考えておる! なぜか今になって活動し始めるのだ」
「ふふふ、人族が慌ててどうなる。しょせんは、魔人なは勝てないのさ。そして魔王を復活させたら終わりだよ。俺など関係ないくらいにな」
「ぬぬぬ……。教えぬ気か。やはりそう簡単には話さないようだな」
サイクロプスが国王を愚弄すると、普通なら衛兵が許さずにその場で抹殺となるが、相手は魔人サイクロプスであるために、衛兵も何もできずに、ただ悔しさを抑えるだけであった。
そんな横柄な態度を取るサイクロプスに対して、遠くから声が聞こえてくる。
「ハンマド国王に対する今の言葉は許せるものでもありませんよ。斬ってやりましょう!」
「おお、そなたはボニータ!」




