表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/351

57

57



 ピルトの町に帰った冷は町の人達の視線、それも尋常じゃない熱い視線、を受けるとまるで英雄の様な神々しい姿で歩く。


(ヤバイな。完全にスターだなこれ)

 

「ピルトに着きました冷さん。ここで私はお別れします」


「ありがとうな馬車」


「またご利用ください」


 使いとは町の入り口で別れをする。

 馬車から降り立ってサイクロプスとヘスティも一緒に降ろす。


「サイクロプスとヘスティ、ギルドに行ってもらうからちゃんと歩いて来てくれ。まだ縄は縛っていく」


「……わかったよ」


 サイクロプスは逆らわずに返事をする。


「酷い扱いしやがる」


 対してヘスティは気に食わない返事であった。


「わかってねえな。お前は捕まっているんだ、デカイ口きける立場ではないのだ。勘違いするな!」


 リリスがヘスティに罵倒した。


「クソっ〜〜」


 歩いて町を進むと見かけた町の人々からさっそく反応がある。


「おお、冷さんが帰ったぞ!」


「誰かしらアレは……」


「あ、ああああああ、あれはサイクロプスでは!!!」


「ええっ!!」


「まさか……またも魔人を……」


「あり得ねえだろ、まだ新人の冒険者なんだべ!!!」


 町の人達はサイクロプスが縄で繋がれて歩かされてるのを見るや、ど肝を抜かれるのは当然で、何といっても魔人の1人であるサイクロプスに勝てる人などいないとさえ思っていたからである。

 

「それにアリエル様も!!!」


「どうもね」


「おお、アリエル様が俺に手を!!」


 アリエルは町の人達に手を振ると、偉大なる神のアリエルに手を振られたとあって、あまりの嬉しさに感激し20人の人が気絶した。


「あらら、気を失ってる」


「女神の神聖さに気を失ってしまったのね」


「お前ら見てんじゃねえよ!」


「す、すすすみません!!」


 反対にリリスはたくさんの熱い視線を嫌っていて、嬉しくもない、邪魔なだけ、うっとおしい、と思い見るなと怒鳴ったが、それがかえって人々の胸に熱い刺激を与えてしまい、猛烈なリリスファンはたまらず気絶した。


「リリスのひと言でも気を失ってますが」


「ふん、迷惑な奴らだ」


「ミーコさん、可愛いぞ!!」


「ありがとうね」


 なぜかミーコのファンまで存在していた。

 背は低いが反比例して胸が巨乳とあって、それが良いという人達が現れた。


「おいおい、俺だけじゃなくて君たちまで騒がれてるようだぜ」


(なんだこれは……。いつの間にファンを作ってたんだ)


「私もこう見えてファンがいるようね。女神としては当たり前ですけど。むしろ少ないくらいです。それにしてもリリスとミーコにも声援があるとは思いませんでしたが」


 女神であるのを勝ち誇る。


「あらアリエル、あなただけ特別なわけじやなくてよ。私にもれっきとした勇者の子孫と言う肩書があるのです。それを忘れてもらっては困ります。まぁリリスにファンがいるのは驚いた」


 隠れミーコファンの存在を知り素直に喜ぶ。


「アリエル、ミーコ、お前ら軽く馬鹿にしたな。魔族のエリートである淫魔と言うのがどうやら世間にも広がっているらしい。いい迷惑だがな。別にファンなど要らぬわ」


 ただ一人リリスは迷惑がっていた。

 

「とりあえず冒険者ギルドに向かおうか」


「ギルドにつく前に皆んな驚いてるから、もうサイクロプスだと判明してる」


「その様ね」


「魔人ハンターとか呼ばれるかもよ」


「なかなかカッコイイじゃんか、それいいな!」


「もう調子に乗ってきた」


 そこでヘスティが、


「魔人ハンターなどと抜かしおって〜〜!!」


「でもあなたは現に冷にハンティングされてる」


「うう……それを言われると……」


「それよりもギルドに到着したよ」


 その足で真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かうと、通りは長い見物人の長蛇の列が出来て、冷が討伐したとあっという間に知れ渡るのだった。


(すげぇ行列だな、これ俺らを見てるんだろ。俺もアイドル並の人気者だよな。これ以上増えると不味いから早く冒険者ギルドに行こう)


 冒険者ギルドに到着する。

 店内はいつも通りに多くの冒険者で集まってる。

 新たなクエストを探しに。

 扉を開けて中に入るとギルド店員ユズハが何事かと慌てていた。


「いったい何事かと思ったら冷さんでしたか。外が急に騒がしくなってきてまるでお祭り騒ぎのように人が集まってるから。サイクロプスに会いに行ったけど、交渉はヤメて帰ってきたのね」


 ユズハも何が起こったのかは知らなかったが、冷が帰ったのだとわかると納得した。

 サイクロプスに会いに行ったが、帰った時間があまりにも早いから、会わずに帰ってきたのだと思った。

 その冷の後ろで、影に隠れて人が居るなと思ったが、誰かはわからない。

 ただしまだ本当の事、騒然となった理由は知らなかったから、これから驚くことになる。


「ほら、俺が探してたサイクロプスがいるだろ、ここに連れて来たから。俺がサイクロプスには温泉を開放しろと言ってあり、じきにこの町にも温泉が届くはずだ。いやいや別に感謝しなくていいから、俺にはもうファンが居すぎて困ってるからさ」


 冷はサイクロプスとヘスティをユズハの前に連れ出した。

 サイクロプスは申し訳なさそうにユズハや冒険者達の前に晒された。

 それを見た者は冷の言ってる意味が理解できないでぼう然となる。


「えっ…………。今、何て言ったの冷さん。私にはこの縄で繋がれてるのがサイクロプスだと聞こえたの。私の聞き間違えよね。だって帰った時間が早すぎるし」


 確認の為にもう一度冷に聞き返す。


「合ってますユズハさん。これがサイクロプスだよ。俺がガッパオ山に行ったのは知ってると思うけど、そこで速攻でサイクロプスを倒して連れてきたわけだ。最初は話し合う予定だったけど、サイクロプスが無視したから戦う羽目になって、結果はご覧の通りさ」


「じ、じじじじゃあ!!!!! この人がサイクロプスだと言うの……ひぇあええええええええ!」


 ユズハは驚きで後ろに下がっていき勢いで壁に衝突。

 そのまま衝突して壁にもたれかかる。

 顔は知らされていることあっても、本人だとはとても思うことができない為に気づけなかった。

 

「ロロロロ、サイクロプスだってよ!!」


「マジかよ、そんな馬鹿な。また冷がとんでもないことしでかしたぞ!」


「冷がサイクロプスを……これは一大事だぜ。世界中が大騒ぎになるぞ!」


 会話を聞いた冒険者らも衝撃を受けて固まる。

 魔人サイクロプスを連れて来るなど誰も信じてはいなかったのだから。

 いくら冷が圧倒的な強さといえ、今回ばかりは無理だろうと。

 それがなんとこうして罪人を捕まえました的な軽い感覚で前に出され、驚かないでいる方が無理だろう。 

 そこでサイクロプス本人から口を開いた。


「紹介されたとおり本物のサイクロプスだ。冷の言う通り、連れて来られた。戦いに負けたのも本当だ。ただモンじゃない強さだ。魔人のこの俺を圧倒的な強さで倒したのだから。この町のギルドもとんでもない奴を登録させたよ。それで問題は俺をどうする気なのかな?」


「ユズハさん、あなたにサイクロプスの処遇は任せますよ。俺は温泉がこの町に来ればそれでオッケー。その件は片付いたから、俺にはもうサイクロプスは用済み。ハイよ!」


(サイクロプスは俺にはもう用済みだ。後は宿屋に帰ったら温泉が出るのを待つとするか。それが楽しみで俺は頑張ったのだからな)


 冷はサイクロプスを縛る縄ごとユズハに託した。

 託されたユズハはどうしていいやら途方に暮れる。

 魔人サイクロプスを連れて歩くなど考えたこともないし、想像したこともない、考えたくもない。

 しかし渡されたからには引き受けるしかなくなる。

 

「わ、わかりました。サイクロプスは私がギルドで厳重に管理します。そして我がスタンダード国、ハンマド国王に知らせます。そうすれば国王側で引き取りに来るでしょう。何といっても中級魔人サイクロプスですから、国王も驚くと思う。国王軍を10万人殺した罪人として」


 ユズハが罪人と言うと、サイクロプスは厳しい顔を作る。

 処刑もやむを得ないと覚悟した顔であろう。

 冷が帰ろうとした時である。

 

「あのさ、魔人サイクロプスを討伐したんだから国王から謝礼は出るの?」


 リリスがユズハに謝礼の件を持ち出した。

 これだけの大物を捕らえたのだから金が出て当然と思ったのだ。


「もちろん謝礼は出ます。魔人オークを討伐した際にも出ましたから。しかもオーク以上に危険視されていたサイクロプス。間違いなく謝礼金は弾むでしょう」


「金にはうるさいなリリス」


 アリエルがボソッと呟いた。


「アリエルはいい子ぶってるだけだろ。本当は金が欲しいだろ。私はうまいもん飯を食わせてくいたい。アリエルは大好きな化粧品が欲しいのだろ」


「いい、いいじゃない、化粧品くらい女神なんだから」


「女神が化粧しないといけない決まりでもあるの?」


「決まりはないとしか言えない。でも人々から思われる神聖なわけで、綺麗な方がいいでしょ」


「見かけより性格を修正した方がいい。とても人々の上に立つような性格から程遠い」


「どこが性格に問題あるのかわかりません」


「わかった、わかった、美味い食い物も食わしてやるし、化粧品も買ってやるよ」


 冷はアリエルとリリスのケンカがこれ以上ヒートアップしないように治めた。

 

(金のかかる神だな、まったくよ。確か、オークの時は3000万マリ貰えた。てことはそれ以上はもらえそうだな。こうなると金持になるから楽しみも増えるぞ)


「王都に連れて行く気か。そんな日が来るとは……魔人にとって王都は敵の最深部でもある。まさかこんな形で行くとは」


「サイクロプス様! 王都になど行きたくありません! 逃げましょう!」


「逃げても無理だな。それより騎士団を大量虐殺した罪で処罰される」


「サイクロプス様に処罰などあり得ません。そんなことしたら他の魔人様が怒ります。そしたら王都に集まり大戦争になるのは必死です!」


「サイクロプスの処罰は王都が気めるでしょう。恐らくは重刑。ヘスティはわかりません」


「ぬぬぬ……魔人をナメるとどうなるか人族はまだわかってねえ! それはそれは恐ろしいことになるぜ! お前らは知らねえだけだ。10万人が死んだなんて序の口だよ!」


「ねぇ、ユズハさん、ヘスティの言ってることはどう思いますか?」


 ミーコが不安になりきいてみる。


「一理あるかな。今まで王都も魔人には手を出さない政策できました。それはいったん暴れだしたら手がつけられなくなる恐れがあるから。だから魔人の情報を常に集めておき、兵士を置き監視しています。その情報はギルドに吸われて王都に集まる仕組み。過去には人族は滅びかかったのだから当然の政策です。ですから1番いいのは魔人には手を出さない。これが最善策」


「しかし冷が手を出しちゃった!」


「もうどうなるかは私にもわかりません。ギルドでは直ぐに王都に送るしかないかな」


「!!!!!」


 全員の目が冷に注がれる。


「あれ、あれ、何か俺って余計なことしちゃった?」


「完全に余計だそうです。別に温泉なんて絶対に必要なものではない。なくても死なない」


 ミーコに死刑宣告された。


「あはは……」


(笑ってごまかすしかないな)


「ち、ち、ち、ちょっと今の話からするとだな、この冷ってのは温泉に入りたいから魔人を倒したと? 本当にたったそれだけの理由なのか?」


「うん」


「うわぁ〜〜〜! そんな理由でかよ!!」


「何だか魔人さん達がかわいそうな気がしてきた」


「言えてる」


「縄から自由にしてあげたくなるわ」


「ねぇ冷氏、この魔人さん達が気の毒に思えます。ので、山に返してあげたいのですが?」


「う〜〜〜ん、温泉を自由にしててくれるなら山に返してもいいけど俺的には」


(ノープロブレムです) 


「では、返しますか」


 そこへユズハがあせって、


「いえいえいえいえ、返すなんてあり得ません!! ていうか魔人にかわいそうとか要りませんし!!! とっても怖いんです魔人は! そこを理解してくださいミーコさん!!!」


「はい、すみませんです」


「うぬぬななななぬぬ、ここまで魔人を侮辱するとは〜わ!!!!!」


 ヘスティだけは興奮していたがサイクロプスは冷静であった。

 それは仲間の魔人がどう動くが気になっていたから。

 


 冷達は、サイクロプスを託した後は冒険者ギルドから出ていく。

 その際に他の冒険者達は体が震えていた。

 サイクロプスに対してもそうだが、冷がそばを通る際に恐ろしくて震えていた。

 中級魔人をこうもあっさりと倒した1人の冒険者。

 女神を横に従え歩き、淫魔と勇者の子孫をも従える。

 もはやその姿には魔人超えの風格さえ感じられた。

 日本にいたときは、ただのニートで無職で世間的には終わった人。

 それがここまで短期間で変わったのには、本人も信じられない現実である。


「どうもお疲れ様です〜」


 冷が気軽にこえをかけてみると、


「おっ!!! お疲れ様です!!」


「ヤケにオドオドしてる。きっと冷が怖いさのかもね」


「実際はただのバトルマニアなんだけな」


「怖がるのは当然ですよ。なにせ中級魔人を2体もです。普通にいって魔人以上なんだから、町を歩けば冒険者は近寄れないです」


「俺はもっとフレンドリーに接してくれていいんだけど」


(俺を怖がってるようだな。風格がついたのかな)


 冒険者ギルドを出ると更に人々は声を上げる。

 最初の声は冷の強さに対しての歓声であろう。

 今の歓声は違った。

 

「おお!! 温泉が出たぞー!!」


「こっちもだ、蛇口から温泉が出てくるわ!!」


「冷さんが源泉を開放してくれたようだわ!」


 人々は長らく止められていた温泉が出たことに喜ぶ。

 家のあちこちから聞こえる嬉しい悲鳴。

 主婦の方の声も多かった。

 たちどころに、その噂は広まる。

 蛇口を開けると本当に温泉が出たのだ。

 今までは水しか出なかった。

 お湯はスキルで熱するしか方法がなく、それも大変な苦労である。

 その偉業が冷と分かると、皆口を揃えて冷を賞賛する。

 

「やっぱり凄いな冷は」


「ウチの娘と結婚してくれないかな」


 と冷の知らない所では、大絶賛の嵐が巻き起こる。

 ピルトの町は冷フィーバー状態となった。

 気分は最高にハッピーになっていて宿屋に向かう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ