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冷は直ぐに反応した。
普段なら周囲の魔物を察知するのは問題なく出来ただろう。
しかし今回はリリスが騒いで少し警戒心が薄まるのが原因となった。
ダンスキノコは全部で10匹は確認でき、とても数えてる場合ではない。
しかし慌てることはなくダンスキノコから感じる物、魔力はとても弱く低いと感じたからだ。
[ダンスキノコ]
スキル 鼓舞
それは冷の早とちりとわかった。
リリスが囲まれたので救いに行く前であった。
ダンスキノコがスキルを出したのだ。
これはダンスキノコのお得意の戦術であるのだが、まだ冷にはわかっていなかった。
[鼓舞]
使用すると味方全員の素早さが一時的に上昇。
戦闘時に確率的に発動する。
[鼓舞]が発動されるとダンスキノコはステータス値の素早さが上昇したのが冷にはわかった。
動き、素早さが急激に速度を増したのを確認してのことだ。
さらに[鼓舞]が連発されダンスキノコは急激に能力値を上昇させることに成功した。
「冷、早くリリスを助けてあげて!」
「わかってる今いくさ」
ナギナタを構えて大群の中に飛び込んだ。
(奴らが強くなった気がするなぁ)
その読みは当たっていた。
「早く助けてくれ〜〜〜」
リリスはダンスキノコ達に捕まり運ばれていってしまう。
キノコであるがよく見ると手足がありリリスを何匹かで運ぼうとしていた。
(そうはさせるかよ!)
助けに行った時に異常を感じたのは、恐ろしい速度で運んでいったからである。
追いつけると思ったのに、リリスは先の方に運ばれてしまう失態となった。
「何してるの冷! キノコが向こうに行っちゃうわよ!」
アリエルは[鼓舞]が発動したのには思いもしないで、ひたすら冷を叱るだけだった。
「あいつら、動きが早くなってます!」
ミーコはアリエルと違いダンスキノコの変化に気がついていた。
急いで駆けつければまだ間に合う距離であるため、急発進していくが、そこでまたも先手を打たれた。
ダンスキノコはまだ仲間が潜んでいたのだ。
その数は優に50匹を超えていた。
森林の影に隠れてはいるが冷は今度は察知した。
(なんだまだいっぱい、いやがったのかよ)
冷は駆け足にも優れていて、山の中を大木を蹴り倒してそれを背中に背負いつつ頂上まで駆け上がり下山する鍛錬を課してきた。
その鍛錬で鍛えられた足はオリンピック選手をも上回る速度を出せるので、あと一歩の所まで届いた。
「遅い遅い!!!」
「よし、捕まえたぞ…………あれっ!」
捕まえたと思った時に手の先でリリスがフッと消えたからで、もうずっと先の方に行っていた。
その速度は増した様に感じられたのはスキルが新たに発動されたのが理由だった。
隠れてる50匹が全員[鼓舞]を発動したからである。
確率的に発動するスキルではあるが、偶然にも全匹発動する不運に見舞われ、その結果は60匹分の[鼓舞]が重なり合うことに。
ステータス値の素早さは初期の数値から格段に上がり、猛烈な素早さを獲得していて、冒険者を連れ去っていくのが得意の戦闘スタイルであった。
(マズイなぁこれ。リリスが見えなくなったぞ〜)
アリエルとミーコはその場で待つことにしたのは、追いかけても2人の足ではとても追いつけそうになかったから。
さすがにこの状況では冷もあせりが見えだした時に、助けの声が聞こえる。
『冷よ、失態だな。敵ははなから戦う気はなかったのだ。奪い去るのが目的であった。それを見抜けなかったのだから冷の負けだな』
(まいったな。俺は負けたくない。絶対にリリスを奪い返すさ)
『打つ手はないだろう。どんどんと差は広がってる』
確かに行った通り差は広がる一方であるが、冷はというとニヤリと笑ってみせた。
ある確信とも言うべき笑顔だったが、半信半疑の面もあり試してみないことにはわからない。
(まだわからないぜバアちゃん。俺にはまだ奥の手があるんだ)
その奥の手はここまで追い込まれてかなりヤバイ状況になった時に思いついたのであるから、確実に成功するわけではない。
だが他に追いつける手掛けるない以上、頼ることにした。
偶然にも魔物が去っていく先は冷から見て下り坂で、それもかなりの斜面。
そこに目をつけたのであるが、先ずは魔法スキルの[水の壁]を作ることにし、それもやや斜めの方向に向けて作るのに成功した。
(よし、壁は上手く出来たな)
少し来た道を戻り壁まで距離をとると、次に何を思ったのかナギナタを山の地面に置いて、そのナギナタの上に乗っかる形をとる。
((何をする気だ。上に乗って!))
(バアちゃん、少しの間我慢しててくれ)
ナギナタに我慢するように言うと、まるでスノーボードのような体勢をとり、地面を勢い良く蹴ると冷は滑るようにして、移動したのだった。
斜面を滑りながら速度を上げていくと、先ほど作った[水の壁]まで近づく。
((まさかお主はこの壁を飛び板に使う気か))
(正解だ!)
そのまま[水の壁]に突っ込んでいきナギナタは壁を伝い大ジャンプ。
大きく空中に飛んだあとに、着地すると速度は冷の走る速度より数倍にも達していた。
猛烈な速度で轟音をあげて斜面を突っ走ると、あんなに離れていたリリスに一気に接近する。
(これなら追いつけるぞ〜)
覚えた魔法スキルをジャンプ台にする発想で、またたく間に追いつくと、そのナギナタでダンスキノコ達を弾き飛ばした。
キノコはナギナタにぶつかり森の木に激突していくと、もの凄い速さのままぶつかったのもあり、衝撃は想像以上に大きくキノコは次々につぶれていった。
大量のダンスキノコが弾き飛ばされてその場で死亡した。
「な、な、なんだそれは〜〜無茶だろ〜〜来るな〜〜〜〜〜」
助けてくれとは言ったが、思っていたものより斜め上をいくやり方で来たので、拒絶した。
助けに来たというよりは、どちらかと言えば滑って落ちてきたといったのが正解であろう。
「待ってなよリリス〜」
先頭集団にいたリリスまで追いつくと、かっさらうようにしてリリスを奪い取ったのであった。
ええっ!と驚いたのはダンスキノコであり、足を止めて全匹が立ち往生し、放心状態となる。
こうなれば冷の勝ちは目に見えたも同然となり、残ったキノコを拳と蹴りでブチのめした。
無職狂戦士による攻撃力は途方もなく、その結果はダンスキノコは一撃で始末してしまった。
「リリスよ無事で良かったなあ」
「良くない、滑って来たときは死ぬかと思ったぞ。でも礼は言っておく、ありがとう」
「あの状況ではもう手がなかったんだ」
どんな手を使っても結果的にオーケーならいいだろうという発想が根底にあった。
普通の冒険者ならまず考えつかないだろう発想であろうが、ナギナタは叩き、斬る物、[水の壁]は防御する物と決めつけてしまうところを、ナギナタはスノーボードに、壁はジャンプ台へと使用した。
オマケにナギナタには絶対に折れないという特性付き。
常識的には間違った戦術であるのは間違いないし、訓練を受ける際にも絶対に教えない。
間違ったやり方でも、無茶苦茶な形で強引に着地点へと導くのが冷の思想なのであった。
「お前さぁ、武器の使い方間違ってるからな」
「あはははは、実は生まれて初めて滑ってみた。みようみまねで試したって感じかな」
実際に初めてであった。
(俺って天才かもな。スキーやスノボーもやれそうだな)
「はぁ……未経験でしたか」
未経験だと聞かない方が良かったとこの時思った。
置いていかれたアリエルとミーコも後からやって来て合流する。
話を聞いてたまげて、連れ去られたのがリリスで良かったと思うのだった。
とりあえずリリスは連れ戻すのに成功し、ダンスキノコの討伐にも見事に成功したわけで、成果は上出来と見ていいだろう、一人を除いては。
((う〜〜冷の野郎〜〜、ナギナタで滑るとは〜〜マジで怖かったぞ〜。もっと優しく扱え〜))
バアちゃんだけは違っていて、冷を叱りつけたい気持ちでいっぱいだった。




