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冒険者ギルドは賑やかであった。
それもそのはずで、冷の活躍が好影響を与えていたからである。
サーベルスケルトンは町の人の間でも気味が悪いと嫌われ者の代表的な魔物であって、冒険者すら関わりたくないと不人気さもあいまって、放置されていた。
わずか1日で壊滅状態にしたとあっては、誰からも歓迎されたのだった。
そうとは知らずに店内へ。
「冷くん、ありがとう。キミはまだ若いのに大したものだ。スケルトンは怖くなかったかい?」
ギルド店内にいた冒険者が冷に近づき歓迎した。
パーティーに招かれたような扱いで、当然の歓迎に驚いてしまったのだった。
「多少の怖さはありましたが、遠距離から攻撃して倒したから怖さは軽減されたのがよかった」
「奴らを倒してくれてみんな感謝してるさ。あそこを通る必要がある場合でも、ものすごく遠回りしていたんだ。助かるさ、でもスケルトンて奴らは時間が経つと倒してもまた復活して来やがるのさ。しつこくて困ってる」
「その時は俺が再び倒してやります」
「おお、こんなに若いのになんて勇気がある子なんだ。魔人を恐れないのも納得だ」
とても頼りがいのある言葉に、冒険者達は感動すらしていた。
冷は、この世界では天才であろう。
まだあどけない顔をしているだけに、怪物的な冒険者とは思えないのだ。
現世の日本での記憶。
学生服を着て教室で居眠りしたり、部活をしたりで魔物と戦う年頃ではない時代もあった。
クラスメイトと仲良く会話して楽しい時間を過ごしたいと誰もが願う。
冷は違っていた。
日本で教室で楽しい会話なんてものが恐ろしかったのだ。
中学時代はほとんど学校には行っていない。
行っても教室で楽しい時間を過ごすのが、冷には苦痛なのである。
女の子とも会話したりするのは、男子生徒なら興味があるだろう。
こと冷にとっては逆となる。
苦痛でしかない。
何を話していいか全くわからないから。
それに話すことがないというのもある。
だからなのか、魔物を倒してる方が苦痛はなく楽しい時間を過ごしてる気がした。
魔物だけじゃなく魔人とも戦いたいと体が求めてくる。
「魔人を倒すのが俺の目標でもある。クエストではもの足りないくらい。中級の魔人は近くにいないのかい、いるなら教えて欲しい」
冷は気軽に言ったつもりだった。
だが冒険者は先ほどまでの笑顔は急に消えていき、顔面蒼白に変わった。
冷が他の魔人と言ったからだとすると、冒険者にとっては言ってはいけないところに冷が触れてしまったと思っていいだろう。
(俺って今、地雷ふんじやったかな〜。みんな暗くなったぞ)
「他の魔人も倒すなんて気軽に言ったらダメだろう冷くん。言葉を選ぶんだ。魔人の耳に届いたらキミは後悔するぞ。悪いことは言わないから、魔人を倒すなど二度と言わないようにな」
「わかりました」
冒険者が冷に忠告するように言ったら、冷の周りから消えていった。
その声は震えており、冷にしか聞こえないくらい小さな声だった。
(この感じだと他にも魔人がいるような気がするなぁ。脅えてるように感じた)
必要以上に警戒し恐怖する様子が冷は異様なものを感じとっていたが、それがまだ何なのかわからない。
まだ冷はこの町で過ごして数日しかたっていないこともあり、全てを知っているわけではなかった。
知らないことの方が多いのであり、理由は苦手である会話となろう。
会話が少ない分、入ってくる情報も少ない。
いつものように、ユズハが出迎えてくれた。
「冷さん、今日もいらしたのですね。前回のサーベルスケルトンの討伐はギルドでも大変に助かりました。スケルトンがいると気持ち悪いし、怖いと誰もそこを通れない状態でしたので、大絶賛されてます」
「そうでしたか、俺もそう言われると嬉しいでし、ガイコツは好きじゃないのは俺も一緒です。それもあって今日もクエストをしに来たのですけど、アンデッド系ではなく普通ののでお願いします」
どんな相手が来ようと圧倒的な力で制覇してきたが、アンデッド系はやや苦手意識があるのだった。
映画でもホラー系は見ないと決めていた程だ。
避けて通るわけにもいかず、提示された条件下でクエストをこなすしかなかった。
(グロいのはどうも苦手だな)
「クエストランクが昨日と同じで4でいががでしょう。お連れの仲間さんがいますからね」
「うん、今日もランク4でお願いします。まだ俺の手助けが必要だけどな」
本当はもっと上のランクでも構わないが、あせりは禁物という言葉もある。
着実に経験値を積める方を選択した。
あえて魔人という言葉はユズハに対しても使わないでおいた。
[クエストランク4]
ダンスキノコの討伐
報酬 1匹 2500マリ
「ダンスキノコが今回の相手になります。なかなか手強い相手でして見た目はキノコですから弱いかと思うと痛い目にあうこともあります。毎年この時期になると発生する期間限定の魔物。なので素材を持ち帰るといい値段になりますが毎年多くの冒険者を墓場に送っているのも事実です。どうされますか?」
魔物は見た目で判断するなと言いたいのだろう。
今までも特別に相手を見た目だけで判断したことはなかった。
良い値段になると聞いて、興味がないわけはない。
限定品という言葉は、レア感があっていい響きであるし、試しに行ってみることに決めた。
「その何とかキノコので決めます」
即座に決めたことにユズハはびっくりしていた。
今までは常識外れの討伐っぷりをしてきたが、今回は並みの冒険者では叶わない敵。
多少は心配してしまうけども決めたとあっては止められない。
心配したユズハに対して冷はというと。
(期間限定か、食べ物みたいな魔物だなぁ)
と心配どころか食欲で頭が満たされていた。
冷にとっては冒険者を墓場に送るとあったら普通は考えるが、全く考えないという姿勢、しかも別の事を考え行動に移せるのだった。
ある意味恐怖を感じない体質と言ってもいいだろう。
その体質は異世界で生き抜くにはもってこいの体質であるが、本人は別段意識してはいなかった。
ギルドを出てダンスキノコの討伐に向かうことになった。
出現ポイントは深い山の森林に生息していると聞かされたので、やや遠い。
歩きだけでも疲れたのはリリスだった。
「おい、いつになったら出現するんだよ。歩き過ぎだ。帰りもあるのだぞ。その分の体力だって必要だ」
「リリスは歩くのは嫌いなのかい?」
「嫌いだ。面倒くさい」
「リリスの場合は何でも自分がやるのは面倒くさいの。我慢てことを知らずに生きてきたからだけど」
「偉そうに言うなアリエル。嫌いなものは嫌いなんだ。それに遠いのが悪い」
リリスはふてくされた感じで歩くのを止めた。
「子供みたいリリスは」
「ミーコまでも私をコケにしたな。もういい。ここから動かないぞ」
「おいおいリリス、ケンカするなって。ここら辺だと思うだけどな」
教えられた場所には近くまで来ていたはずであった。
冷は機嫌の悪いリリスの機嫌を取りながらも、周りに注意を怠らなかったはずだった。
((おい、冷よ、聞こえるか。気を付けるんだ、周りに魔物が囲んでおるぞ!))
(ん、バアちゃんか。マジかっ)
それはナギナタからの声だった。
冷に向けての注意の言葉だが、聞こえた時にはすでに遅かった。
ガサガサっと葉が擦れる音がした、その時にリリスの背後にある森林から飛び出してきた。
「危ないぞリリス!」
冷は反射的に声を出した。
「えっ!!」
冷の声にリリスは驚いて身構えようとした。
現れたのはキノコの姿をした魔物だった。
ダンスキノコであって、すでに出現ポイントに来ていたのであり、周りを取り囲まれていた。
(俺としたことが、油断したぜ)
気を引き締める冷は頭を戦闘モードに切り替えた。




