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空き地があり誰もいなかった。
昨日までなら使用しただろうがもうその必要性はない。
所有する敷地があるからだ。
自分の所有地でスキルを試すことにした。
新しいスキルを試すのは楽しいし、武術の訓練と通じるものがある。
試す予定のスキルは[水の壁]である。
[フレイムバーン]は火の属性。
こちらは水の属性だけあって水を作り出すのだろうと予想した。
(たぶん俺の前に壁が出来るのだろう)
「それでどのスキルをお使いになるの」
「うん、水属性の魔法スキルなんだけど。魔力的には問題ないと思う。試しに使ってみるから離れていてくれ。俺にもどんな効果が発揮されるのかわからないから」
「そうですね、距離をおいておきます」
「[水の壁]!」
とりあえず壁というのだから手から出るのだろうと考えて、両手を前に出すと水の壁が突然に現れたのだった。
大きさは冷がひとり隠れるくらいの大きさであり、確かに水が壁になっていた。
「これは水で出来てるの。見た感じは攻撃よりも防御って感じする。触ってみてもいいかしら」
「大丈夫だろう。触ってみても」
防御ならダメージを与えることはない。
(たぶん、大丈夫だろう)
「じゃあ触るわよ。きゃあ冷たい! 水で出来ていて触れるし感触は冷たいわ」
アリエルが壁に触れてみると壁の一部が崩れたが、また直ぐに元の壁になっていた。
しかし冷が疑問に思ったのはその崩れた点にあった。
壁ならばもう少し耐久性があってもいいからである。
「う〜ん、簡単に壊れる壁だなぁ。これじゃあ防御にならないよな。だって魔物の攻撃が簡単に通過しちゃうだろ」
「魔法の特性も影響してるだろう」
リリスが知ってるかのように言った。
「リリスは魔法にも詳しいのか」
「私は主に闇属性の魔法スキルを使える。[水の壁]はいっけん弱いが火や雷に対して強い防御があるのかもしれないな」
「なるほど、違う属性には効果があるのか。ではそれも試してみたい」
冷は一つの[水の壁]を作っておいた。
作った壁は冷が離れても壊れることはない。
そこに向かって火属性である[フレイムバーン]を放つことにした。
これなら水と火でぶつかり合い、結果がわかるからだ。
「[フレイムバーン]!!」
火の玉が飛び出して飛んでいくと、[水の壁]に激突した。
すると[水の壁]はぶっ壊れてしまった。
(あれれ、俺の予想では壁が防ぐつもりだったのだけどなぁ〜)
「[水の壁]が壊れる結果でしたが、火の玉が強力だったのではないでしょうか。同じ強さなら効果があっても火が強すぎて壊れたとも考えられますが」
「ミーコの言う通りかもな。確かに[フレイムバーン]は魔人オークから習得したものだからさ」
「それじゃ無理、やる前に気づくべきです」
「魔物の魔法攻撃に対して使い分けるなら使い道があるのだな。それなら納得がいく。俺はともかく君達が危なくなった時なんかには防御壁として使えそうだ。なにせサーベルスケルトンにあれだけ苦戦したのだからな」
「アイツは卑怯者よ。だって私が対アンデッド魔法が出来ないとわかると突然攻めて来たのよ。女神レベルがもっとあれば楽勝だったわ」
「ずいぶん言い訳の多い女神だ。ようは女神レベルが低いまだまだひ弱な女神だったことだよな。だったらもっと魔物を倒して強くなるしかないな」
「まぁそうだけど。それにしてもさっきの壁に触れた時に服が濡れちゃったわね。乾くかしら」
反省したのかわからないが、前向きなのだと受け取った。
それよりももっと重要な発言をアリエルがしたのを冷は見逃さなかった。
(今、アリエルは壁で服が濡れちゃったと言ったよな。待てよ、防御以外にも使い道がありそうだな)
アリエルの発言で、あるとんでもない考えを思いついた冷であった。
その考えとは世界最強の武術家が考えるものとは、おおよそ考えられないものであった。
防御ではなく人に向かって放つことにしたのだった。
ぶつけても、大したダメージはない。
だからぶつけても問題ないとう判断である。
冷はニヤリと笑みを浮かべ、[水の壁]を準備する。
「な、なんだお前その笑みは、お前が笑みを浮かべる時は何かある。言え、何を企んだんだ?」
「さすがリリス鋭い感してる。だが惜しいな、俺の考えまでは追いつけないようだ。俺の考えは君達の遥か上を行ってるのさ」
「なんだか知らないがやめろ!」
「もう遅いさ、先ずはリリス君を最初に試そう。[水の壁]!!」
何をされるかわからないで立ち尽くすリリスに、なんと魔法スキルを放ったのだった。
当然、至近距離で放たれ避けれるわけなく、壁がリリスの全身に当たった。
「な、何をする! 仲間に攻撃するなんて酷いぞ!! こ、こ、これは、み、水びたしになっちまったぞ!」
「水の壁」は初級の水の魔法スキルだけにもろかった。
弱い壁を利用してリリスに当てたら壊れて水びたしになると冷は考えたのだったが、武術の天才は予想したとおりになったのは見事であった。
「服が水で透けて肌が見えてますリリス!」
「ええっ! しまった! これがお前の狙いだったか。水から作られてるから濡らせるという発想か」
「あはははは、見事に見えてるなぁ」
「これじゃあスキルの練習ではありませんことよ。ただのお遊びでしかない。帰りましょうみんな」
アリエルは怒って帰ろうとした。
スキルの練習だとばかり思っていたらこの様であるからして、怒るのも無理はない。
いや、怒って当然と言える。
それだけの失態を冷はしでかしたのだ。
だが失態を失態だと思っていないのが冷。
逆であった。
「おい待てよ。まだスキルの練習は終わってないぜ。次はミーコだ、[水の壁]!!」
「嫌〜ん。濡れちゃった〜。こんな盗賊、相手になめられちゃう」
「確かに盗賊にしてはエロ過ぎだ。次はアリエル、逃げようとしてもダメ」
「女神を濡らそうものなら罰当たりだぞ……女神をこんな姿に……」
「よし今日のスキルの練習はオッケーとしよう」
「オッケーじゃない!!!!」
「町を歩けないことよ」
水びたしにされた3人は、この状態で町を歩くのは恥ずかしいと思った。
「とても可愛いから、みんな振り向くさ」
「やっぱり変態だわなお前は」
結果は水の属性魔法がとても使えるということに終着した。
(俺ってやはり天才だなぁ)
魔法といえど武術の天才にかかれば、ご覧のように変幻自在となる。
[水の壁]をこの様な使い方をした、しかも神族にである、魔法スキルが生まれた歴史をさかのぼり歴史上初めてであろう。
新しい歴史を作った瞬間であった。
その広場から去り冒険者ギルドに向かった。




