349
349
チルフのウェザーポイントとトルネードスネークの引き合わせかたにはアレスは又も驚いてしまった。
「し、信じられません! 雨の少ないこの地域では水を与えないと作物は育ちません。それで水を農地にまくのは大変な苦労をようします。水を農地に持ってきて、更に広い農地に与える。重労働ですが、チルフさんのウェザーポイントなら広い農園にも水を与えられる。革新的な農法です。農機の革命としか言いようがない!」
「褒めてくれて、ありかとうアレスさん。アレスさんの教えがあったからこの農作業の方法を思いついたのです。昨日よりも遥かに農作業のペースが上げられそう」
革命的とまで言われて嬉しがるチルフ。
最初に失敗した時の残念がる顔はもうなかった。
立ち直りが早いのもチルフの良いところであろう。
「いいぞチルフ、その調子で農園を楽しんでいこうな!」
「任せな!」
冷もその点は気にいっていた。
魔族でも落ち込むことはあるとわかった。
人族も魔族も精神的には同じ部分があると。
(チルフは立ち直りが早い。くよくよせずに前を向いて生きていけるのは良いことだな)
「ギガース様、チルフ、おめでとうです。今のチルフのスキルを見てたら私も負けてられませんわよ。広がった農地にハイパーアップをしましょう。より広いところに種がある。ハイパーアップもより拡大した地域に散布しましょう!」
「よしサンマル、種に栄養源を与えてあげなさい!」
ギガースから激励されてサンマルは手を頭上にかかげる。
最初にしたハイパーアップはその日は何も変化はしない。
翌日になると種に与えた魔族のパワーが躍動する。
普通なら何日、何週間もかかる眼が一日で土から出てきたのだった。
「ハイパーアップ!!!!!!」
ギガースとチルフによって開拓された農地にハイパーアップを与えて農地に栄養源を与える。
見た目にはわからないが、確実に種に届くように大量に魔力を上げていた。
サンマルの魔力を受けた種は土の中で、はかり知れない力をもらっていたのだった。
ハイパーアップを農地に散布した後にアレスはゾクゾクとしていた。
それはハイパーアップをした次の日に眼が出るという異常事態に。
今回行ったハイパーアップは、前回の数倍は広い農地である。
まさかと思うとサンマルに、
「サンマルさん、まさか明日にこれ全部が眼が出るなんて……あり得ないですよね……」
「明日になってみればわかるでしょう。ハイパーアップが効果があれば、全部の種から眼が出ます。そこはお楽しみってことで!!」
「お楽しみですか、私からしたらお楽しみっていうよりも驚きって感じですが。もし発芽していたら腰を抜かして立てませんでしょう。いや心臓が止まるかも」
「あははは、笑わせないでくださいアレスさん!」
アレスは心臓が止まるかもと本気で言っていたのだがサンマルには冗談だと聞こえていた。
一般の農家にとったらギガース達の農法は常識を超えた方法。
とてもマネできないし、農家の仲間に話をしても誰も信じないだろう。
むしろバカにされかねない。
目の前で見た農業の奇跡に圧倒されたアレスであった。
その後は農園から帰ることにした。
ハイパーアップの経過を翌日に確認すると決まったからで、町に帰るとした。
冷もギガース、チルフ、サンマルによる三人の革新的な農業を見て大満足である。
(また発芽していたら、大変なことになるぞ!)
「町に帰ろうか。今日の結果はまた見に来ればいいだろう」
「そうですね。農園に芽が出てたら楽しくなる!」
「アリエルやリリスとか、みんなもびっくりするだろうよ。半年はかかると言ってあったから、もう芽が出たなんて言っても信じないかも」
「あり得る。特にリリスは疑い深いから。すでに疑ってるし、半年かかるのを速くしろとかうるさいし」
「アイツはうるさいのがとりえだから、そこのところは勘弁してあげてくれ」
そうして冷達は農園から去ることになってピルトの町に戻った。
宿屋に帰る途中のこと、冷はゴーレムがどれくらい建設が進んでいるかが気になっていた。
ガーゴイルのカナリヤが卵の生産は順調にいっているし、ギガースは期待以上のペースで進むとなると、ゴーレムも同じくらいに期待してしまった。
(ゴーレムの建設の進み具合はどうかな。ちょっと見学に行ってもいいな)
「あのさ俺はゴーレムがどうしてるか気になったんだ。だから見学に行ってみたい」
「一緒に行く。ゴーレムの作業していることろを見てみたいものだ。魔人が建設している風景など考えもつかないので。それにこのピルトの町を破壊したのは私のトルネードスネークだ。破壊した責任もあるからどうしてるか気になるのだ」
ギガースは今でもトルネードスネークによる破壊した町並みに考えされられる思いがあった。
町の人に甚大な被害が出て未だに住むことろもない人が溢れている現状。
一刻も早く住む住宅地を与えてあげたい気持ちが抑えられなかった。
ギガースは建設するスキルはない。
よって建設現場に行っても役に立つのは難しいだろう。
ゴーレムに任せるしかないのがツラい。
「一緒に行きます。シールドもいるのでしょう。聞いた限りだと盾を使うそうですね、どうやって盾を使っているのかみものです」
「私も行きます。ボーガもいるはず。あの大きな弓しか使えないのが、建設してることじたい興味がある」
チルフとサンマルも少なからず責任を持ったまま生きていた。
住宅地が整備されないと町の生活は変わらないまま貧困が続く。
口にはしないが貧困からの回復をしたかった。
「シールドもボーガもとても優秀な建設の才能がある。俺も二、三回、彼女達の才能に触れて衝撃を受けたのを覚えている。俺達の道場も彼女達の手で作った作品なのさ。しかも超短時間でな。興味あるなら、じゃあ決まりだな。ゴーレムがいる地点に行こう!」
冷が自分からゴーレムに会いたいと言うとギガース達は興味をそそられて一緒にいくことに決まった。
特別に見学するだけなら問題はないだろうと考えて。
邪魔をしなければいいからと冷はした。
(一緒に見学としよう。邪魔しなければいいだろうな。ギガース達も住宅地を整備しないと不安なんだろうな。それが俺にも伝わるよ)
魔族が人族の被害をいたわるのを冷は実感した。
ギガース、チルフ、サンマルは言わなくても表情を見れば物語っている。
ゴーレムが現在作業をしているとされた場所に向かう。
そこは以前は町のなかでも中央に位置していて、住宅地が建ち並んでいた地域。
住宅地は古い家屋が多く老朽化していたのもあり、トルネードスネークの風圧には対抗出来ず、粉々になっていた。
冷はそうした地域に足を運ぶと、改めてゴーレムに期待する気持ちが込み上がった。
(これはヒドいあり様だな。まだまだ元の状態に戻すのは何年もかかるよな)