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冷は土の中で何やら動くのを察知していて、逆にギガースやチルフは全く気づいていなかった。
もうダメだろうと思い込んでいたのが気づけなかったのだが、土はさらに盛り上がっていき、アレスはサンマルに危険が迫っているのではと思った。
そこでアレスは急いでサンマルに声を、
「危ない! 危ないサンマル、直ぐに農園から避難してください! 土の中に危険な魔物がいます!!!!!」
「なんですって! あっ、本当だわ!」
慌ててサンマルは農園から外の土地に逃げていき、何の魔物かを注目した。
チルフが指摘されて初めて動くのがわかり、魔物がいるのかどうかを観察してが、どう見ても動いているが、さほど動いておらず別にびっくりして逃げ出すことの程ではなかった。
でもアレスは魔族でもなければ冒険者でもないのだから、わずかに動いているのも魔物だと考えてしまっても不思議はない。
「単なる動物なのでは?」
「そうかも……」
「サンマル、動物に怯えて逃げ出すとは情けないぞ!」
「すみませんギガース様、アレスさんが突然に叫んだもので、つい逃げ出してしまいました。恥ずかしいです」
アレスの叫び声を聞いただけで逃げ出したのを反省したサンマルはまだ農園にいる冷に恥ずかしくなっていて、その冷は冷静に土の中の様子を気にしていた。
(モグラではないなこれは……ではなぜ土が動いているのかな。生き物がいないのに土が動くことがあるかな。聞いたことないな)
「小動物や魔物じゃないよこれは。でも何なのかがわからないな?」
「冷……何か土から出てきてるわよ! 見てみてよ!!!!!!」
チルフが農園にいる冷に忠告した時に土から出てきて冷の足もとの周りは異様な光景となった。
(なんだこれは? まさか芽が……芽が出てきたとか!)
冷の直感的な考え通り、土から出てきたのは種から生えた芽であって、驚いてアレスも声をあげてしまう。
「まさか!!!!!! あり得ないでしょう、一日で、たった一日で芽が出てきてなんて!!!」
「でも間違いないです。芽が出ちゃってる。凄いよサンマル。あなたのハイパーアップが効果があったのよ。種にハイパーアップが加わり種の持つ成長が猛烈に促進されたの。そして土から出てきたのよ!」
「私のハイパーアップが……。やった!!!!!! ハイパーアップは失敗じゃないのね!」
チルフの言った通りにハイパーアップは最初にした時はかたい殻で届いていなかったし、土が邪魔していたのもあり、効果は薄かった。
もう一度ハイパーアップした際に種に効果が届いており、成長促進の効果が開始されて通常なら半年かかるのをわずか一日で達成してしまったのだったから全員が驚いた。
冷もこの成果には、たまげる。
ダメだと思った後の成果だけに、嬉しさは倍加していた。
(良かったなサンマル、俺も自分のことのように嬉しいぞ!)
「良かったなサンマル、芽が出てきて。信じられない奇跡のようだよ」
「本当に奇跡かも。このペースなら収穫も時間がかからないでしょ。そしたら野菜とかも大量に収穫できそうね!」
「うん、頼むよ。野菜は足りてないそうだから、大量に収穫したら町の人は喜ぶだろうよ。そうですよねアレスさん?」
「もちろん喜びます。現役の農家もいますが、最近は不作が続いていました。それにみんなお金もなく野菜を購入できないと泣いてます。もし大量に収穫してとても安く販売してくれたら町は助かります。魔族の作った野菜だろうと問題ないです。きっと成功しますよ」
アレスは冷の考えにとても気に入っていて、大破した町の人は食べるのに困っていた。
そしてもともとこの南部の地は土地が荒れていたため、農家をする者は少なかった。
収穫が難しいうえにお金にならないなら誰もやりたがらないのは当然である。
ルクエが提供したこの一帯の土地も農家からしたら荒れ果てていて、使い物にならないくらいのひどい土地だった。
アレスは自分の土地ではないが、まるで自分の農園のように喜ぶ。
「よし、そうと決まったら今日も種まきまで行い、サンマルにハイパーアップをお願いしよう。そして少しずつ種まきする広さを広くしていこう」
冷はハイパーアップ可能な面積を広げられるように目標を示した。
(芽が出たといっても、まだ狭い範囲でしかない。もっと広くしたいからね)
「サンマルには負けてられない!」
「私も種まきまで頑張りますわよ!」
ギガースとチルフも道具を持って農作業に入った。
冷に言われて刺激を受けたのだった。
アレスはというとぼう然としているのは、未だかって見たことのない農作業の方法に。
魔族の発想の豊かさには、まいったとしか言いようがなかった。
長年農家をしてきて一日で土から芽を出したのはショックであって、この後どう彼女達を指導していいかと思った程。
しかしアレスが教えた通りに次々とギガースとチルフ、サンマルは土を耕していく。
作業が遅いのは仕方ない。
慣れない農作業だからハイパーアップのようにはいかない。
たとえ中級魔人と言われても、戦いと農作業は全く能力の使い方が違うので、とにかく苦戦中であった。
しばらくはアレスは彼女達の仕事ぶりを見守る。
三人はお互いにぶつからないように距離をとって、昨日よりも広い敷地に種まきをしたかった。
種まきが出来れば、サンマルのハイパーアップを使用し、一気に成長を促進の流れが可能だ。
三人で苦労して種まきまでしてもせいぜい昨日た同じくらいの敷地面積にしかまけない。
たとえ慣れてきたとして少し広い面積としても、あまり広い敷地にハイパーアップが使えるわけじゃない。
もっと今りよも広い敷地にしたいが、何か他に方法がないかをチルフは検討していた。
検討していたのはギガースのスキルを使う方法で、多少無理はあるが一度に土を耕してそこに種まきをしてしまえる荒技であった。
ギガースにこの考えを伝えようか伝えまいか悩んだあげく、チルフはギガースに伝えるのを選択。
思いきって言ってみる。
「ギガース様、途方もない考えがあるのです。変な考えであっておかしな話ですので、ギガース様がお怒りになることもありえます」
「チルフの考えなら聞いてみたい。どんな考えだが聞いてみないことには怒りようがないだろう。言ってみるがいい」
ギガースは作業を途中で休んでチルフの話しを聞いてみたいとし、サンマルも手を動かすのを止める。
あまりチルフからあらためて話しをしたいなどなかっただけに、ギガースは聞いてみる価値はあるなと思ったのだ。
もし聞くだけ時間の無駄だったら怒ればいいので。
その時はチルフは覚悟がいる。
ギガースが本気で怒れば、農園など吹き飛んでしまい、芽が出た敷地も吹き飛ぶし、働いたのに全部無駄な労働となる。
それでもチルフは覚悟を決めて話すことにした内容は、
「ギガース様がお持ちのスキルであるトルネードスネークに関係している。農園での作業をしてきてほとんどの作業は、荒れはてた土を掘り返したり、雑草を取り除いたり、種まきをを出来る状態にすることです。はっきり言って単純作業で、とてつもない時間がかかってしまいますのは労働したギガース様もお分かりでしょう。そこでそれらの一連の単純作業を他に置き換えられないか考えてみたのです」
「それがトルネードスネークだと?」
ギガースはチルフの話の内容は、まるで理解できなかくて首をひねるとチルフは話は続けていった。




