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いきなりサンマルが一般的な農作業とは違う、独自のスキルを使いたいと言い出し困ったアレスは少し返事に時間がかかった。
サンマルに顔を向けて返事をする。
「普通は種を埋める際に肥料を与えておくので、それが種にも栄養になるかわからない。せっかく努力して種までまいて腐ってしまったり、芽があまり出なかったりしたら残念になるだろう。しかしサンマルさんがスキルを使いたいと言うなら使うのを認めましょう」
「本当ですか! ギガース様、ぜひとも使わせてください!」
「ハイパーアップはサンマルの得意スキル、その成果は私が一番良くわかってる。お願いするハイパーアップを!」
「種に魔族の栄養を与えてやります!!」
「おいおい、魔族の栄養ってヤバイだろ!」
アレスが困っていたがサンマルの本気度を感じたのか認めることになり、ギガースも応援する。
ギガースはハイパーアップを体で経験しているとのだから、その効力は理解していた。
サンマルは押さえている魔力を増大させてハイパーアップを使える状態にするが、冷は魔族の魔力が種に与えて大丈夫なのかと不安になっていた。
(種が魔族らしくなってしまったらどうする気だよ!)
冷の不安をよそにサンマルは準備は出来ており、昨日に種をまいた地点に行く。
ギガースとチルフはじっとサンマルを信じていて待ってる。
種をまいた広さは決して広くはなくて、わずかなスペースにやっと種まきをしたに過ぎないけどもギガース達には、努力して作った農園である。
失敗はしたくないだろう。
冷も緊張してきて、黙ってサンマルを見守ることに。
(ハイパーアップ……果たしてどうなるかな……)
「ハイパーアップ!!!!」
サンマルはスキルを辺り一面に向けて放って、普段はギガースにするのを土に放つ。
土に向けて放ったのは今回が初めてなのはゆうまでもない。
土に放ってる時間など無駄な時間でしかないし、頭が狂ったのかと思われるに決まっている。
サンマルはその考えをいっさい捨てさり、この一瞬に賭ける。
みんなから農園をもっと早く収穫させろと急かされたのが原因だったが、半年以上かかるのを少しでも速めたいという気持ちがサンマルを動かしたのだった。
サンマルは地面に向けて放つと土は何にも変化しなかった。
全くの反応なしに冷は様子を見るしかない。
(何の変化もないようだけど……)
アレスも気になったがサンマルが失敗したのではと中々話しかけづらいが、小さな声でサンマルに結果を訊いた。
「……何にも起こらないが、種にハイパーアップとやらは伝わったのかい?」
「……失敗……、やっぱり種だと無理なのかな……。ギガース様には通じたけど種みたいに生き物じゃない物は変化がないのかも」
サンマルはがっくりとしたのか顔からはスキルを使う前と比べて元気がないように見える。
声も小さな声であった。
「サンマル!! あきらめるのはまだ早いぞ! もっと……もっとハイパーアップを使ってみなよ。まだ足りないのかもだろ。いつものサンマルならこんなことであきらめないだろ!」
「チルフ……」
変化がないのは失敗なのかはわからないがチルフは応援をやめないでいた。
ずっと近くで過ごしてきたチルフにわかることがある。
サンマルのハイパーアップは本物だと。
決して意味のないスキルではないと。
あきらめて欲しくなかった。
だから声をあげてサンマルに言った。
まだ続けてと。
それに刺激されたギガースも応援を開始する。
「そうだぞサンマル、種は硬い。表面が皮でおおわれてる。その分伝わるのが難しいのだ。それに土の下にあるのだから、直接伝わったないので反応が鈍いのだろう。そしたら続けてハイパーアップしてみろ。きっと伝わるはず!」
「どうかな……、あまり変わらない気もする……」
まだサンマルは自信が持てなかった。
最初に反応がなかったのが自信を無くした原因だった。
あとほんの少しの応援で勇気が持ちそうなサンマルを見てアレスが近寄り、彼女に伝える。
「あなたは良い友をお持ちのようだな。友が応援してくれてるのだ。失敗を恐れることはない。使ってみなさい」
「…………うん!」
アレスは自信のないサンマルにひと言言った。
たったひと言だけどサンマルは頷く。
ギガースとチルフを見ると、二人も頷いてサンマルを勇気づけた。
もう一度ハイパーアップをして効果があるのかわからないが冷も応援したくなる。
(一回目で効果が出なくても二回目で効果が出ることはある。あきらめてしまったら終わりだからね)
「お〜いサンマル、二回目で効果があることもある。それでもダメなら三回めもあるぞ!」
「わかった冷。何度でも試してみる。ハイパーアップ!!!!」
元気を取り戻して再びハイパーアップを種をまいた農園に向かって放つ。
やり方は最初と同じだった。
農園の土に覆うようにハイパーアップは散布されたが、結果は別に変わらず土も何も変化なし。
少しの間、見守っていて、何も変化しないのでサンマルはニコッと笑ってみせた。
その笑顔はやるだけのことはやったというサンマルなりの笑顔であった。
「ハイパーアップは種には無効でしたね。残念だけど生きてる人のステータスにしか効果はなかったよう」
「がっくりすることはない。サンマルはやるだけのことはやったのだ。肥料で地道に長い間、農作業をしていこう。三人でな」
ギガースはサンマルに恥じることないと伝える。
同じ巨人魔族として、これからも農作業をしていけばいいと。
「農作業は気の長い作業。私も頑張りますよ!」
「チルフ……」
チルフからも激励の言葉が送られて、サンマルは元気を無くさずに済みそうだとなる。
冷もその魔族の温かい言葉にはウルッときていた。
(魔族にもこんな温かい感情があるのだな。俺もいい勉強になった。失敗したときにこそ仲間がいると助かるものだな)
「サンマル、失敗で悔やむよりも前に進んで行こう。俺は陰ながら応援しているからな!」
「ありがとう冷」
サンマルと冷はがっちりと握手をした。
魔族とかたい握手をするなんて人族は夢にも思わないだろうが、冷は種族なんてものは気にしない性格であった。
(魔族と握手……悪くないよね)
農園での作業をより速く進めたいとの考えから行ったサンマルだが、考えるように上手くはいかなかったとギガースも納得していた矢先のこと。
アレスが何やら土が動いているように感じて目を大きく見開いてみたら、異変らしきことが……。
動いているわけはない。
それとも土の中に小動物でもいるのか。
不思議に思ったアレスで、冷もアレスと同じタイミングで気づいていて。
(あれっ……モグラかな。モゴモゴしている感じするな)




