340
340
農作業は経験がいる作業であった。
いくら魔人だと言ってもしょせんは素人でしかない。
一からアレスに教わり、何ヶ月もかかってようやく芽が出るのを待つ。
農作業の基本である。
つまりあせりは禁物で、あせっても上手くはいかない。
地道に丹念にごまかすことなく、教わってそれを実行するしか芽が出ることはないのである。
ギガースはもっと単純に簡単に出来ると考えていたが、アレスほど綺麗に畑にならないし、時間も数倍はかかった。
それは見ていたチルフ、サンマルにもショックで人族の老人に負けたとなる。
基礎から教わる必要があると実感した。
「アレスさん、どうか私にも教えてください」
チルフはアレスにお願いした。
「私も頑張ります」
続けてサンマルも頭を下げる。
魔族が人族に頭を下げて教わるというのは歴史的な快挙であった。
お互いに争い血を流し合うのが常識であって、頭を下げるなど考えられなくルクエも信じられない気持ちがあった。
それも農園での農作業がキッカケで、現在まで続いていた風習を変えつつあった。
この光景に冷は嬉しく思う。
(魔族が頭を下げるのは見てい手新鮮だな)
冷が関わった後には魔族も人族ま関係なくなるのが特徴で、ルクエ、ギガースも感じる。
冷には不思議な魅力があるなと。
なぜか魅かれてしまう。
なせなのかは説明しずらいが魔族にも本来あった心情を冷は引き出せる。
「それならチルフさん、サンマルさんも、道具をお貸ししますので、ギガースと一緒にお願いします」
チルフとサンマルは道具を手に取ると、ギガースに続いて土を掘り起こりたり、平らにしたりと初めての作業に悪戦苦闘する。
腰の使い方はイマイチなのは冷が見ても明らかで、まるで形がなっていない。
(ギガースよりもヒドイなチルフは)
サンマルに至っては道具すら使えていないあり様で、全く道具の使い方は理解していなかったため、穴を掘っている感じだった。
(サンマルは話にならないレベルだろ)
「サンマル、やる気ないだろ!」
「ありますっギガース様! しかし難しいものです!」
「私も慣れないと無理!」
「慣れれば出来るわよ、頑張りましょう!」
ギガースは上手く出来なくても慌てないでいて、時間をかけたらいいと思った。
だがサンマルのひどい農作業にはアレスは笑っていて、説明なしでは無理なレベルだった。
アレスはチルフ、サンマルがあまりにも出来ないので手とり足とりで説明しながら行った。
時間はかかったが、午後はアレスが付きっきりで三人と農作業の基本を教えこまれた。
ルクエは苦戦する三人をじっと眺め、応援していた。
しかし冷だけは少し違っていた。
ギガース達を応援はすることはする。
農園が成功すれば冷にとっても嬉しい。
違っているとは何かというと、ギガース達が作業を必死になってしている風景を眺めていることに問題があった。
なぜならギガースが農作業をしている最中は土に触ったり、土を掘ったりする作業となる。
その為どうしてたって体の姿勢は前かがみの前傾姿勢。
そうなるとギガースの服装は動きやすい衣服であり、スカートを履いていたので、スカートの下に履いている下着、いわゆるパンツが見える瞬間がある。
その瞬間をチャンスとして冷は覗いていた。
(う〜ん、ギガースのスカートの中が見えたぞ! これはラッキーだな。農作業は俺にとって嬉しい作業だな)
真面目に作業しているところをのぞき見する不謹慎な冷であった。
(チルフ、サンマルも良い眺めだな。前かがみになった時がチャンスだな)
農作業を楽しむ冷は調子に乗ってのぞき見していると、チルフに不思議な視線が伝わってしまった。
チルフは冷がどうも自分のスカート部分に視線を集めていることに気づいて、
「ねぇ冷……なぜか私のスカートばかり見ていない? 気のせいかしら。冷の視線を感じます」
「私も感じました。前かがみになるとそのタイミングでスカートを見ていたような気もする。まるで私のスカートの中をのぞき見している風に……」
サンマルにも疑われた冷は直ぐに否定することにしたい。
(不味いな、のぞき見がバレちゃったかな)
「バカなことを言うなっ! 俺がそんな男に見えるか。キミたちが一生懸命に労働している最中に、のぞき見などあり得ない!」
完全否定したが、内心はバレたことに動揺していた。
(なんとか誤魔化すしかないな)
「嘘を言うなっ!!!! ウェザーポイント!!!!」
「うわぁ〜〜〜〜〜〜雨だ!!」
チルフが冷を怪しんでスキルであるウェザーポイントを冷に向けて使用。
ウェザーポイントは狭い範囲であるが多量の雨を降らせることができ、冷が居る地点にピンポイントで降雨させ、見事に冷はびしょ濡れとなった。
「まだ嘘をつくか?」
「待て待て、俺は嘘をつくか!」
「ホントかな……、どうも疑わしいな。絶対信用をしないとは言わない。だがのぞき見指定でも不思議ではない。次からはルクエに監視しててもらう、いいな?」
「わかったよ」
冷はのぞき見を防止すると言われてピンチとなった。
(これ以上のぞき見をするのは危険だな。ちょっと止めておこう。またびしょ濡れにされても困るし、しかし良いモノを見せてもらったな)
冷は真面目に監視をするとこにした。
そうこうしていると、ある程度の土を耕すことに集中し、種をまける状態にはならすのが出来た。
「この状態なら種をまけるかな」
「種はどこにまくのです?」
「えっ! そのレベルですか!」
「すみません。そのレベルしか農作業わかりません……」
チルフが種をまくと言う意味がわかっておらず、アレスに質問した。
アレスは驚いていて、種をまくくらいは知っているだろうと考えていたから、これは大変な指導になるなと感じた。
冷も種まきくらいはわかる。
普通の日本人ならわかるだろう。
しかしチルフは魔族であり、そもそも農作業じたいを知らないのだから、種まきがわからないのも頷ける。
(種まきを知らないとはな、驚いた!)
「種まきは土を耕した後に窪みをつくってそこに埋めていく。種を埋めたら上から土をかけてみえなくなるまでしておく」
「えっと……種はどうなるのです?」
「肥料をあげたり水をかけてあげます。すると土から芽が伸びてきて、やがて葉が出てくる。そしてら野菜や穀物を収穫できます」
「ということは、種をまくのをしないと収穫できない」
「そうです」
「種は栄養と水を好むということで」
「はい、それは必要です。地味な作業が続いていくのです。決して派手な作業ではない。苦労に苦労を重ねて何ヶ月もかかってやっと成果がでる」
「短期な正確では無理だな」
「ギガース様、イラだたないようにしまょう」
「チルフの方が心配だ」
「サンマル!! 私は短期じゃないぞ!」
種まきの指導を終えてようやく作業にはいった。
冷は決して怒ったりしなかったのは、短期な性格じゃないのもあるが、彼女には半年、一年後に成果があればいいと考えてるから。
そのうち上手くなるもの。
道場にもその考えは通じていて、最初は出来なくて当たり前であって、繰り返し繰り返し行うことに意味があると教えていた。
(三人とも我慢はいる。続けていけばいつの日かいい結果がでるさ)
「みんな、あせるな! 一年後くらいにいい結果が出ればいいのだよ!」
「冷も手伝えよ!」
「ダメダメ、これはキミたちの仕事だ。俺は手伝わないよ!」
「偉そうに!」
サンマルは何もしない冷を農作業に誘ったが、アッサリと断られた。
種まきはアレスと一緒にまき、肥料はアレスが持参した肥料を使うことになった。
肥料自体を知らないギガースは持っていないのは当然だから。
肥料を冷が見たところ日本で使っていたような丸っこいかたまりであった。
(日本の世界のと似てるかもな)
土地に種まきた範囲は約20メートルくらいであり、ルクエの持つ土地のホンの一部でしかない。
つまりはこの作業を何十、何百倍も行うと全体が農園となる。
この事実にギガースは苦しい顔で言う。
「たったこの範囲、わずかな範囲しか種まきしてない。それでまる一日かかってしまう。土地は軽く見ただけで500倍はある。恐ろしく時間がかかるぞ」
「ひぇ〜〜」
「その通りです。時間は大変にかかります。このペースならば毎日今の作業をしても一年以内に終るとかどうかです。頑張りましょう」
「ひぇ〜〜」
チルフはあまりの先の長さに絶叫した。
種まきが終わると順番的に水まきである。
しかしアレスはここで水を盛っていないのに気づいてしまった。
道具は持ってきていたが、水まで頭が回らなかったのもある。
「あれっ! しまったな……大事な水を持ってきていないです……」
「忘れてしまったのですか」
「はい、忘れました。しかし問題はありません。種まきまで終わってます」
「水をまくのは後でもいいと?」
「はい、問題ないです。明日にでも水をまきましょう。今日はこの辺で終わりにして」
アレスが明日以降にしようと話し、作業は終わりにすると話した。
もう午後はだいぶ時間がたち、日が暮れる感じだった。
暗くなると見えないし魔物も現れたりして危険もあるため、農家はその前に帰るのが習慣であった。
「では、帰りましょう皆さん」
「わかりました」
「みんな! よく頑張ってくれた。素晴らしいよ!!!」
帰るのに頷くギガースは道具を片付ける。
こうして中級魔人ギガースと魔族のチルフ、サンマルの三人による初めての農作業は無事に終わった。
とても褒められるものではなかったが冷は納得していた。
途中であきらめてしまう者も出るかとヒヤヒヤしていたのが本音。
終わってみれば誰一人として不満を漏らさずに終えられたのだった。
(途中でキレたりしなくて良かった!)




