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無事に救出した冷は三人も抱っこしたままスタンダード国に入国、飛行しつつピルトの町に向かうことにした。
ピルトの町に着地すると最初に宿屋に。
時間的に遅くなりつつあったのもあった。
部屋ではネイルが待っててくれて、抱きついてくるのはいつものこと。
「ご主人様〜」
「ネイル、ただいま!」
すると部屋には長女のルテリの姿もあった。
冷とアリエルらの帰りに食事会が成功したと思っていた。
「みんなおそろいで帰ったところを見ると、食事会は成功に終わったのだろうな。ユフィール国で美味しい料理も食べたのだろ」
「食べたさ。とても美味しい料理だったよ、なぁミーコ?」
「ええ……美味しい料理でしたけど」
冷はミーコに確認をしてみると、ミーコは微妙な顔で頷く。
確かに美味しい料理ではあったから。
そこは否定しないでおいた。
「おみあげ欲しいもん〜〜〜」
「悪いなルビカ、おみあげはないんだ残念だったな」
三女ルビカは食べたくなりおみあげがあるかと期待していたが残念がる。
残念ながら冷としてはおみあげどころではなかった。
危なく全員が死んでもおかしくなかったのだから。
(全員が死んでたかもしれないのに無理だろうな)
「残念だもん〜。でもリリスはテンション低い気がするもん〜〜〜」
「当たり前だよ、料理なんてどうでも良くなったんだからよ!」
リリスは不機嫌さを猛烈にアピールしたから、部屋にいたルテリ、ルビカは何かあったのかと思う。
リリスは普段からピリピリしていたりするが、今のピリピリ感は違うとわかる。
食事会で何かあったのだなと気づく程に。
「何かあったのねリリス。話しなさい……あなたが見た食事会でのことを」
「話してもいいけどよ……食事会ってのはユフィール国であっただろ、そこまでは問題なかった。普通に食事会は始まったし、料理も出てきたから満足したよ。しかしそこで問題が起きたんだ。相手のユフィール国の出席者に魔人オーガが現れてな。料理を食べ始めた。そして冷が用意したカナリヤの卵料理を食べたらさ、卵を気に入ったらしくもっと食べたいとか言い出すしまつもう冷は持ってないのに、まだ欲しいとワガママ放題して、あげくのはてには、食事会の席で大暴れしだして、部屋はぐちゃぐちゃだ。幸いにも冷がいたから、全員避難した。そしてスタンダード国に戻ってきたわけだ」
「…………魔人オーガがいたから……ええっと、魔人オーガですって!!」
「だからそう言ったが」
リリスは上級魔人をそっけなく言ったが、聞かされたルビカは仰天した。
ルビカだけでなく誰でも上級魔人オーガの名を出せば黙り込む魔人であった。
「オーガは上級魔人だもん〜」
「まさか戦ったのかオーガと?」
ルビカよりも声を震わせたのは長女ルテリであった。
「戦ったわけではない。厳密には冷に運んでもらったから、オーガはまだユフィール国だろうな」
「それなら食事会はどうなった?」
「さぁね知らない」
リリスは全く興味ないとばかりに言ったのでルテリはリリスに娘との重大さを教えたかったが、
「あのねリリス……オーガは……」
「もういいルテリ。食事会は終わったんだ。リリスは悪くないよ。みんなはまだS外に出てるみたいだから帰るのを待つよ」
「そう言ってもな! 相手はオーガだぞ!」
ルテリは冷にもキツく言った。
しかし当の冷は気にすることなくみんなを待つことに。
(オーガは可愛かったけど、やっぱりヤバいのかな?)
と、この調子であった。
それから部屋で待っていると全員が宿屋に帰宅した。
その上で食事会のこと、オーガのこと、カナリヤの卵のことを伝えると、予想した通りに全員が罵声を浴びせた。
特にオーガが現れたのは同じ魔人にもショックでギガースは注意をする。
「オーガは暴れたら手に負えないと聞いたことがある。戦わない方向が正解だ。オーガは私達と戦うのが目的ではないのだろう。卵が欲しいだけなら、あえて戦いは避けるべきだ」
「そうよ、上級魔人を怒らせないのが正しい接し方っす!」
続けてリョウシンも冷に注意をした。
上級魔人ミノタウロスの弟子であるリョウシンがそれをよく分かっていた。
「リョウシンが言うのはわかる。ミノタウロスと一緒にいたのだから」
「我とオーガを同じにするなリョウシン!」
「す、す、すみませんっす! オーガはただのくいしん坊っす! 卵だけ与えておけばおとなしくしてるっす!」
「あはははっ!」
ミノタウロスはリョウシンの話に笑いでこたえた。
ミノタウロスはオーガが食いしん坊なのは知っていたからで、なるほどなと頷く。
「ねぇミノタウロス、リョウシンの今の話だと卵を与えればいいわけ? それならガーゴイルに相談すればどう?」
「私の出番かい」
ミノタウロスの笑いにゴーレムが相談を持ちかける。
卵はガーゴイルの魔物であるカナリヤの物。
ガーゴイルに分けてもらうようにという内容だ。
「あなたの魔物の卵なのよね?」
「カナリヤのね。卵は今も量産している。しかし全部の卵はこのピルトの町に低料金で販売している。残りはヤリッチに任せてるわ。オーガに卵を与えるのは私はいいけど、販売しているのはヤリッチだからヤリッチにきいてみて」
「ヤリッチ……どう?」
カナリヤの卵の生産はガーゴイルがしているが、流通や販売しているのは主に魔商人であるヤリッチが関わっていた。
なので卵の数や残りの量は正確にはガーゴイルは把握しておらず、ヤリッチが把握したいた。
そこでヤリッチは現在の数などを検討して話す。
「今のところはカナリヤの卵は残らず販売してしまい、在庫はゼロだ。ピルトの町に販売しており、それも大変に好評を得ている。商業ギルドから聞いた話しだから間違いない。全部ではなく、残りは商業ギルドを通じて他の近くにある町にも流通させていて、その町でも美味だという噂だ。味は良いし価格も安いとなれば、人々は喜んで買うのだ」
「じゃあ在庫はゼロならオーガに与える分がないじゃない」
「近くに流通させている分を減らせばいい。ピルトや王都と違い、町は破壊されていない。人々は生活に困ってることはない」
「減らしてもいいのね。冷はオーガに与えるのは賛成かな?」
ヤリッチの言う通りで町が破壊されてるのはピルトも王都だけ。
特別に他の町に卵を販売する必要はないわけで、その分を少しオーガに与えるのは可能だった。
それを聞いた冷はヤリッチの話に頷く。
(なんと他の町にまで販売していたのかい。それは知らなかったよヤリッチ。さすがは魔商人だけはある。オーガに与えるのはもちろんオッケーだから、数はヤリッチに任せよう)
「さすがは魔商人ヤリッチだ。数のことはヤリッチに任せるよ。オーガめ、驚くだろうな!」
「ガーゴイルもそれでいいの?」
「オッケーです! 冷がオッケーなら!!」
「冷に寄りすぎです!」
「いいじゃない、冷が私を必要としているってことよ!」
「これはオーガよりもガーゴイルをおとなしくさせる必要あるわね……」
ガーゴイルは冷に胸を付けるほどに接近して話はまとまった。
だがガーゴイルの嬉しくなる気持ちに、周りは見てる方が恥ずかしくなっていた。
ガーゴイルは冷から頼られてる感がたまらなく、いつになく胸を当てていた。




