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上級魔人の大鬼魔族オーガの参加に食事会は一変する。
軍師コロナは尻もちをつき、ハンマド国王は震えて手からフォークが落ちた。
アカク国王の顔は変わっていないが、相手のハンマド国王のうろたえように、内心は喜ぶ。
「……ご存知でしたか大鬼魔族のオーガを?」
「ちょっと待ってくださいアカク国王、なぜ食事会に魔人を……、これでは落ち着いて食事会など不可能ですぞ!」
「そうですか、こちらからしたらそこに座ってる冷だって危険です。オーガと変わらないでしょう。噂ではミノタウロスをも倒したと聞いてます」
「それは……そうだが……」
「冷が参加しているなら、こちらもオーガを呼んで、丁度釣り合いが取れると考えたのです」
「冷はアカク国王が指名したはずですよ!」
「ええ、指名しました。一度、どの様な人物なのかを拝見したくてね、ずいぶんと若い青年です、予想した人物とだいぶ違いました。もっとゴッツいイカつい人物だと思ってましたから」
「………………、冷を呼んだのはこの為か……おかしいと思ったが……」
この時に軍師コロナははめられたと感じた。
冷を拝見し、尚かつオーガを呼べる材料となっていたのを読めなかった。
しかし考えてみれば、食事会に冷とアリエルらを指名したのは、今思えば不思議であった。
「ほう〜〜〜〜〜、あなたが冷ですか、若い冒険者なのに大したものだ。あのミノタウロスを倒すとは、並外れた冒険者だ。まぁ良い良い、それよりも先に料理を食べよう」
オーガが笑いながら言うとアリエルは警戒し冷に耳打ちする。
「戦えるようにしておいて……」
とりあえずアリエルに頷くと、冷はオーガが何を考えてるのかわからないでいて、いつでも戦える準備だけはしておく。
オーガの注文で運ばれてきた料理をオーガは我慢できずに直ぐに食べ始める。
「おおおお〜〜〜〜〜〜!」
「…………」
オーガがひと口食べると大声で叫ぶようにして料理の味を表現したので、ハンマド国王らは圧倒されて震えは更に増していく。
「まさかここで戦うつもりですかな?」
震えながらハンマド国王はアカク国王に尋ねると余裕の表情で答える。
「戦うつまりはありません。オーガは食べたいだけですし、友好を作る目的で参加しましたから、気にせず食事会は続行としましょう」
「続行できると……」
軍師コロナは小声で不満を漏らした。
そんなやり取りも気にせずにオーガは皿の上の料理を次々と食べるのに集中していく。
「あははははは、美味い、美味い、まだこれからだよね、次はスタンダード国の料理だ。早くお願いする!」
「凄い食欲……恐ろしい食欲です」
ミーコがオーガの食べる速度に驚いた。
後から来たのにすでに皿の上の料理は完食していた。
オーガの言う通りにハンマド国王は自分の料理人に対して料理を持ってくるよう言う。
「料理をお願いする」
「はい、お持ちします」
料理人はハンマド国王に言われてから調理に取り掛かる。
素材はスタンダード国から集めた野菜と肉に魚を中心にしたもので、ユフィール側の料理にも負けない自信はあった。
料理を作っている間は、それまでの和やかな空気から変わり黒い空気が漂い始める。
オーガの姿を見て楽しくなるものなど誰もいないし、美味しくなることもなく、緊張して何もノドを通らないのだった。
冷はオーガが何をするのかを静観することにした。
(オーガが危険なのはわかった。後は何をするかだ、俺らと戦いに来たのか、それとも食べに来ただけなのか……)
しばらくしてスタンダード国料理人が室内に来ると、
「お待たせしました、お料理をお持ちします、メインは肉料理です。肉は半焼きの生肉でお出しします。それと少ししてから、最後に一品をお出ししますので」
料理人達は次々とテーブルに料理を運ぶと、テーブルは色とりどりのお皿で埋まる。
色合いが鮮やかな料理が並んだら、アカク国王はさすがにため息をつく。
「おお……、これは美しい料理だ。生の肉は食べれるのですか?」
「はい、大丈夫です。生で食べれます」
アカク国王は少し心配して質問した後に、肉を食べるとあまりの旨さに口が緩んでしまう。
「うう〜〜〜〜美味い!」
「柔らかな肉は余程の良い肉でしか、この感触は無理でしょう」
オーガも我慢できずに、テーブルに並んだ直後に口にしたら、
「おお〜〜〜〜〜〜〜〜、柔らかな肉は食べたことのない感触だ、いいぞ、この肉をもっと欲しい!!!!!」
「はい、今お持ちしますオーガ様」
料理をお代わりするほどに美味さは保証された。
ユフィール国側も食べたことのない肉に、料理の勝負は互角だろうと思った。
どちらも甲乙付けがたい絶品であった。
ハンマド国王はユフィール側の表情からして、満足そうにしているのはわかって良い気分になった。
しかしオーガが居なければ最高の友好食事会となったはずなのにと、心残りもあった。
「早くしろ、早くしろっ!」
オーガは早くしろとテーブルを叩き出す始末に。
料理人が少ししてから料理を追加して来る。
「オーガ様。肉料理もいいですが、こちらの料理もどうぞ……」
「ん……これは黄色い塊が……卵料理かい?」
各テーブルに並べられたのは黄色い卵料理であった。
しかし最初の肉料理などは鮮やかな料理とかと比べてシンプルで、物足りない気もした。
「はい、こちらは特製の卵になりまして、お味はお確かめてください」
席についたユフィール国側の誰もが出すのに値しないのではと感じた。
同じく信頼しているハンマド国王でさえ大丈夫なのかとうつむく。
それでも料理人は笑顔で自信を持って皿を並べた。




