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王都では町の人から珍しい目で視線を集めることになったのは、町の人から見たら敵国の国王達が来てるわけで、どんな人物なのかを拝見したいと思うのは当然であった。
それゆえに馬車の周りは群衆が来てしまい、馬車道はさえぎられたりして、冷の馬車にも外から中を覗く者もいた。
「どうやら私を、女神をひと目見たいと見に来た者のようですこと」
「……アリエル、大いなる勘違いだと思う」
アリエルは自慢げに自分を見たさに集まる群衆だと言ったが、ミーコにはどう見ても違うとわかった。
「ちえっ、ウザいなアイツら、今度馬車を覗いてきたら、魔剣を使ってやろうか」
「止めてくださいリリス。魔剣使ったら確実に捕まるでしょう」
「……面倒だな」
リリスは馬車に集まる人が多くて嫌になったが、冷は安心した。
ここは町の人も多いから、襲うことは無理、襲えば逆に町の人にも犠牲者が出るからで、冷の不安は消えたのだった。
(町の中に入れば襲えないよな。襲えば町の人も犠牲者になるから)
そうしてユフィール国の王都に無事に到着し城の前にまで来た馬車は、停止した。
停止した馬車にはユフィール国兵士が出迎えており、完全に囲まれた形となっていた。
スタンダード国のハンマド国王が乗る馬車の扉が開くと馬車から軍師コロナが、次にハンマド国王とビジャ姫が降り立った。
ハンマド国王の周りは、スタンダード国兵士が国王を守る体勢で取り囲んだ。
「ハンマド国王が降りたわ、私達も降りましょう」
「そうだな」
次いで冷達も馬車から降りることにした。
冷には敵国兵士も注視するのがわかった。
(俺のことは敵国も承知しているようだな、俺に矢を向けてる奴も隠れている)
他の者にはわからないが冷には矢を向けてる兵士がわかっていたが、あえた知らないフリをした。
そこへ城から現れたのは敵国ユフィールアカク国王であった。
アカク国王はゆっくりと長旅で到着したハンマド国王に挨拶をした。
「ハンマド国王、お久しぶりである」
「アカク国王、お久しぶりです。急にこちらで友好食事会を開催したいと申されて、大変に楽しみにしてます」
「我がユフィール国とスタンダード国との友好を結ぼうと考えてのこと。来てくれて大変に嬉しい。さぁ城にお入りを。明日に友好食事会は開催しますから、それまでは城でくつろいでいてください」
「どうもご丁寧に」
「ビジャ姫ですね、噂以上の美しさです」
「ありがとございますアカク国王」
ビジャ姫も挨拶をかわして笑顔をみせた。
軍師コロナもそこで紹介されると次に冷が呼ばれた。
「それと……特別なゲストである冷……はあちらの方ですか?」
「はい、俺が冷です。初めまして、友好食事会に招待されて嬉しく思います」
冷は丁寧に挨拶をした。
最初の第一印象は良くしたかったからだったのであるがアカク国王は冷があまりにも若いので驚いていた。
(この人がアカク国王か……とりあえず丁寧に挨拶を)
「それとお仲間のメンバー達もよろしく」
「アリエルです」
「ミーコです」
「リリス……です……」
彼女達も頭を下げて挨拶をした。
アリエルは女神をアピールしなかったので冷はホッとした。
(女神をアピールしなくて良かった……)
最初の軽い自己紹介を終えたら城に案内され、明日に行われる食事会まで時間を過ごすこととなった。
城は壮大な大きさを持ち、この国が豊かな象徴と言える立派な城に、冷と、アリエルらも圧倒された。
ハンマド国王たちの直ぐ隣の部屋に案内された冷は隣なら何かあっても直ぐに駆けつけららるため、納得した。
(隣ならオッケーかな)
ミーコが部屋に入るなり驚くと。
「す、凄いです、こんな豪華な部屋に泊まるのは初めてです……」
ミーコは生まれて初めての感動に声も震えた。
王都の客室のレベルの高さには一般庶民であったミーコには贅沢となった。
(ミーコはマジで感動してるな)
「この部屋は気に入った、ずっと住まわせろよな」
「リリス、今日だけだよ」
「ちえっ、またピルトに戻ったら宿屋かよ。お前は金持ってるのだから家くらい持てるだろ」
客室の豪華さと宿屋を比べ、宿屋の貧弱さに文句を言ったリリス。
さすがに客室のレベルと同じ宿屋はまずないので冷は困った。
(そうか、みんなもこれくらいのレベルの部屋に住みたいのかな)
「キミたちも、こんなレベルの部屋に住みたいのかい?」
「当たり前だろ、宿屋は狭いし綺麗じゃない。感じなかったのかよ!」
「俺は特に宿屋で不満はなかったんだけど……」
(不満がかなりあるようだなリリスは)
「冷氏、私も広くてベッドも大きくて、ソファーもあって、テーブルもじゅうたんもある部屋をお願いします!」
「ミーコはけっこう注文多いな……」
(注文多すぎるような)
「女神には狭すぎます。この城をひとつください!」
「そりゃ直ぐには無理だろ……」
(あり得ん注文してくるなアリエルは……)
3人とも豪華さを極めた客室の居心地の良さを経験してしまい、それよりも下のレベルには住みたくないと言い出したから冷の悩みの種が増えたのだった。
(宿屋から引っ越しも考えておこう)




