291
291
ビジャ姫との抱き合いを楽しむ冷は困ってしまう。
兵士が何人か見ているからであり、マズイなと。
(国王に怒られるよな)
ビジャ姫とも別れを告げてピルトの町に戻ることにした。
*
冷が居る国はスタンダード国で、隣国には助けた国であるエルフ国があり、他にも幾つかの国が周辺に隣接していて、互いに助け合ったりすることもあれば、戦争となる場合もあった。
その一つにユフィール国があった。
ユフィール国は冷のスタンダード国と接しており、現在の状況は悪化していて、長い間戦いあった歴史を持ち、お互いの国王も常に監視し合っていた。
両国の戦力は同じくらいなのもあり、戦いは長期化していて、決着はつかないまま現在に至っており、誰もがまた戦いになると考えている雰囲気で、ハンマド国王も気がかりであった。
ユフィール国の現在の国王はアカク国王が就任していて、国を治めて、国自体は安定した政治が基本的に浸透し、国民から信頼されている。
国力はスタンダード国と似て戦力も互角の数を有している、そのせいもあってどちらかが勝つわけでなく戦いは長期化し、現在も続いていた。
アカク国王は最近のスタンダード国の情勢に耳を疑っていて、国家の最高の軍師達と軍事会議を開いていた。
「国王、とてつもない情報が入ってきてます!!!」
「どうしたのだい、慌てずに言ってみたまえ」
「はい、それが……」
軍師は口を開いたが言葉に詰まってしまう。
周りにいた者はその慌てぶりに異常な物を感じる。
「どうした、ゆっくり話せ」
「はい…………スタンダード国に密偵に出していた者からの情報です。じ、じ、上級魔人とされてる牛頭魔族のミノタウロスが王都を攻めたと。密偵からの情報ですから間違いないです!」
「なんだとっ! あの上級魔人ミノタウロスが敵国の王都を攻めたと……………………、あっははははははは、これは愉快だ。ミノタウロスが攻めたなら持たないだろつ王都は。いくら騎士団を揃えても無駄だろう。それでハンマド国王は死んだのか、それとも土下座でもしたか魔人に!」
「あっははははははは、傑作ですな、あのバカ国王も最後になったのですな!!!!」
アカク国王の笑いにつられて他の軍師も笑いが起こったのは、スタンダード国のハンマド国王が死んだのだろうという憶測からで、ミノタウロスが相手なら当然だと思われたが、伝える軍師だけは顔が青ざめて、まるで死体になったかのような色で報告を続けた。
「アカク国王……失礼ながら話は違ってます。ハンマド国王は無傷です。そしてスタンダード国も無事で王都はかなりのダメージを受けて、騎士団も相当数の犠牲者が出ておりますが、国自体は安泰とのことです」
「ちょっと待ってくれ、それではミノタウロスはどうした、どこにいて何しに行ったのだ。まさかミノタウロスが負かされたと……」
その時になって初めてアカク国王は事の重大さに気づいて、逆にアカク国王が真っ青になっていく。
「はい、上級魔人のミノタウロスは負けまして、倒したのは問題になりつつあるあの冷とかいう新人の冒険者でした」
「なにっ……あの噂の冷か……。情報ではサイクロプス、ガーゴイル、ゴーレムの中級に置かれた魔人を倒したという者だな!!!!」
「はい、その通りです。そしてミノタウロスを自分の配下にしたという情報です。すでにゴーレムとガーゴイルを奴隷状態にして配下にしています。きっとミノタウロスも同じように扱われるとのみかたです」
実際には奴隷とは程遠い関係であるが、周りからみたら、特に諸外国の軍師からしたら、ただの奴隷状態にしか思えない、奴隷にして配下にし、強制的に戦力とさせていると判断されていた。
「ミノタウロスも奴隷にして、自分の戦力としたか……これはいよいよ無視は出来ない存在になった。無視どころか異常な強さ、異常な速度での戦力強化、全てが異常な奴だ。もはやその冷だけで国の戦力を超えているだろう」
「はい、超えてます。このままでは我が国は危険になります。ハンマド国王と組んで我が国に攻めて来たら、とても敵う相手ではなくなります」
「確かに今まで互角の状態、そこに冷が加わったら、戦力の差は目に見えてる。戦力差は歴然だろう。明日にも攻めてきたら終わりだぞ!」
アカク国王の危機感に周りの軍師も黙ってしまうくらいに、インパクトのある情報であって、中級魔人と上級魔人を加えた戦力は破格、規格外の強さ、もう太刀打ち出来るレベルを超えていた。
さらに話は続いた。
「…………別の密偵からの情報もあります。スタンダード国の南部に位置するピルトの町という小さな町があります。どうやらそこが冷の拠点らしいのですが、そのピルトを違う魔人、中級魔人とされてる巨人魔族のギガースが攻めていったと……それもミノタウロスと同時期にです。恐らくはギガースとミノタウロスが通じていて、同時に攻めた可能性が強いです」
「なんと……あの巨人魔族ギガースがか!! それならピルトの町は全滅しただろう。それとも奴隷としたガーゴイルとゴーレムが防いだか?」
「いいえ、違いました。結果はギガースは負けました。それも倒したのは、奴隷となった魔人ではなく、女神、勇者の血を引く者、淫魔族の3人が倒したとの報告です。とても信じられない情報ですが…………」
「バカなっ!!! 女神だとっ! それだと伝説の、過去に伝説とされている話に登場する3人ではないか……………………。まさかその3人は本物なのか?」
「確証はありません。たぶん本人が言ってるだけらしいです。しかし倒したのは事実です」
「で、で、で、伝説の3人がこの時代にいるというのか、そして冷はその3人をも奴隷として従えていると!!! なんなんだ冷とは、何者なのだ!!!」
「わかりません。全くの謎、全てが謎の人物です。もし伝説の3人なら、かの魔王をもしのぐ潜在的能力たなります。魔王をペットにしていたくらいですから、まぁそれは伝説ですから、本当のところはわかりませんが、ただその負けた巨人魔族ギガースも奴隷にし従えたそうです」
「……………………」
もう軍事会議は完全に機能を失った。
この情報で何がなんだかわからないことになってしまい、アカク国王もぼう然となってしまい、沈黙が続いた。




