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ギガースがガーゴイルと同じ奴隷にならないと宣言をして、ガーゴイルは怒り出す。
人族の、それも完敗した男の仲間になるとは奴隷と言いきる。
対してガーゴイルは奴隷などとんでもなく、自分から冷の彼女にしてと言った程だから、勘違いでしかない。
魔人がケンカするのはさすがに不味いと思い冷は止めに入る。
(ケンカは不味いよな)
「まぁ〜ガーゴイル、そう怒ることはない。ギガースはキミをバカにしたのではないのだよ。むしろ逆なんだと思う」
「逆とは?」
ガーゴイルは冷の話の真意がわからないので訊き返す。
「ギガースは俺に負けた、エルフの国での戦いで。あれからいく日か経ったが、ミノタウロスと組み俺に復讐をしてきたわけだ。復讐心に燃えたのだろう。しかしアリエル、ミーコ、リリスにも負ける結果になったのは全くの予想外だったろう。なぜ負けたのか、悔しいはずだ。そしてこう思ってる……何か秘密があると」
「そうだよ、アリエル達は強かったのは認めよう。このギガースに勝ったのだから。勝ったとして、不満はある。入手していた情報ではアリエル、ミーコ、リリスはあまり強くないと聞いていた。あまりと言うよりも、冷のお荷物に近いと。やや古い情報だとしても、異常に強くなっていることになる。なにかしらの理由があるはず」
ギガースが不思議に思うところでガーゴイルが、
「率直に言ってあげよう。冷の影響だろう。私も含めて冷との間で厳しい訓練を道場で毎日のように行っているのだ。スキルから体術までな。それがいい結果に繋がったのだろう。アリエル、リリス、ミーコの成長速度は素晴らしい。ギガースはそこを見誤った」
「道場で……なんの事かわからないが、アリエル達は訓練をして強くなったわけか。しかも戦いの最中にみたスキルはいずれも神級のスキルと言われたもの。負けたのも頷ける」
ギガースは訓練で強くなったと説明されて頷く。
「ギガース、キミはアリエル達に負けて悔しいから、ガーゴイルに失礼な言葉を言ったのだろ。それなら話は簡単だ、俺のメンバーになって道場に通うこと。そうすればキミも成長することになる。俺がみてもまだギガースとサンマルには甘い部分があった。体術にしろ、スキルの使い方、いづれも魅力的だが潜在能力は底ではないと確信したんだ」
「つまり、冷のメンバーになれば強くなると言いたいのか?」
「そうだよ、実際にアリエル達だけでなく、ゴーレムやガーゴイルの魔人と呼ばれ名のしれた後でも強くなったのは俺が保証する」
冷が説得力のある説明をするもサンマルはまだ疑いを持ち、
「そう上手いこと言っておいて、いざメンバーに入った途端に奴隷にするかもしれない。ガーゴイルは奴隷だから頭で理解できないでいるとしたら、お断わりだよ!」
「負け惜しみだよサンマルの……。今まで中級魔人、魔族として世界に知れ渡っていた。その名を聞けば人族なら誰でも知ってるし、上級の冒険者も逃げ出す。私も同じだったのだよ。同じ中級魔人だから。でもそこに落とし穴があったのさ。中級魔人は中級魔人ゆえにもう有名で地位もあるし、魔族界ではエリートです。当然、そこにあぐらをかくことになる。その位置で満足してしまうのです。それ以上を望まなくなる。望ぞむ必要もなくなる。安定しているといえば安定していた。しかし冷のメンバーになって変わったのは、まだまだ弱かった。冷はもっと上を目指していて、魔族と人族、神の上に行こうとしているの。それは魔族も人族も神も同じ仲間、同じ町で暮らして生活するという考えだ。ギガースとサンマルもメンバーになればわかる」
「魔族と人族と神が一緒に暮らすだと……あり得ない話だが……」
ガーゴイルの話にまだ半信半疑であるギガース。
「悔しかったら、俺の道場に来なよ。そしてアリエル達に負けないまで強くなってみな!」
冷は中級魔人に対して、かなり挑発的な言葉を言った。
(ギガースたサンマルはまだまだ強くなれる素質がある)
「どうしますかギガース様……」
「わかったよ、メンバーとやらに入ってやろう。ちょうどいい機会だ。魔人としても中級止まりで退屈していたところ、上級のレベルにまでいけるか、私自身も実は知りたかったのだ。ひとつ試してやろうじゃないかサンマル。上級魔人レベルまでこの私が到達し、さらに超えられるかまで!」
「ギガース様なら、きっとその素質はあるかと思う。最強種の魔族になる日が!」
サンマルが勇気ずけするとギガースは頷く。
中級魔人止まりであったことに不満はなかったかといえば、嘘であった。
上級魔人レベルにも慣れると考えは持っていたが、それを口にしたら上に位置する上級魔人がうるさくなるのは目に見えていて、封印していたのだった。
「決まりだな。さっきまでお互いに敵であった。恨みはなしでいくこと。これでギガースとサンマルは今日から俺の冒険者パーティーの新メンバーとなった。誰も文句は言わせないぞ」
「おめでとうギガースに、サンマル!」
ミーコが先ほどまで敵であったが、今からは仲間となり歓迎する。
「この男の訓練はハンパではない。覚悟しておきな」
「リリス、ご忠告ありがとう」
ギガースとサンマルが仲間となり、残りはミノタウロスとなった。
ミノタウロスが1番難しいと冷は感じていた。
(問題はミノタウロスだよな)
ミノタウロスは縄で繋がれたまま、黙っていた。
ギガースの裏切りとも取れる行動にも文句はつけない。
それがかえって不気味にも周囲には伝わる。
「…………ギガースを仲間のメンバーに加えたからといって、我がメンバーに入ると思うな。我は少なくとも他の上級魔人を裏切る行為はしない。他の上級魔人と敵となるくらいなら、死んだ方がいい、ていうか殺しに来るだろう」
ミノタウロスは仲間入りを完全に拒絶した。
冷の顔は苦しい顔に変わる。
(やはり拒絶してきたな)




