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パトリシアの険しい顔にガーゴイルは前に出て、
「やはり人族には魔物の卵となると食べられないとなるのですかね?」
「嫌でしょう、魔物の肉も売っていますが、食べたくない人もいます。普通に牛や豚の肉を食べている人が多いのが現状です。私も好き好んで魔物の肉など食べません。気持ちが悪いから」
実際にこの世界では魔物の肉などはあまり食べられていなかった。
味にクセがある。
グロテスクな感じがする。
気味が悪い。
理由はいくつかあったが、流通しているのは家畜してある食品であった。
人族に売るとなると壁があって、苦しい結果となるとパトリシアには思えた。
「売るだけ売ってみたい、許可はおりるの?」
「許可は出ます、もちろん食品に毒はない、異常な状態、シビレや吐き気などない、安全性が確保されてるのが条件ですが、クリアされれば許可します」
「許可してくれるなら希望はある、ガーゴイルの頑張りもありそうよ」
「頑張ってみる!」
ガーゴイルは冷のパーティーメンバーになってから初めて役に立てる気がした。
ゴーレムばかりに活躍されていてはプライドが傷つく。
負けてはいられない。
同じ魔人なのだし、自分にもやれるとガーゴイルは強く決意した。
「最初に卵をいくつか持ってきてください、卵をギルド職員で検査して安全を確認したら、許可します。商店を出す場合は許可後になります。ただし後で問題があった場合は許可を取り消ししますのでご注意を」
「わかりました、卵は後ほど届けますから、よろしくお願いします」
冷はパトリシアにお願いしギルドを出る。
ゴーレム達に続いてガーゴイルも仕事が入る見込みが出て、上機嫌になる。
(魔物が卵を産むとは、嬉しい誤算だな)
ガーゴイルはカナリヤを戦闘要員として連れてきたのに、特殊な能力が花開いた形となり喜ぶ。
それにヤリッチの提案も忘れてはならない。
卵を商売にすると言ったのはヤリッチである。
早くも魔商人の力を発揮したといえ冷は頷く。
(ヤリッチめ、さすがは魔商人だな)
それから数日が経った。
ゴーレムとギャン、シールド、ボーガは商業ギルドから正式に依頼が入る。
山から木材を切り指定された大きさに加工した。
木材はギャンのスピア、ボーガの矢で伐採したのは前回と同じ手法。
加工するのはシールドの盾を使う。
重厚な盾を使い木材をざっくりと切っては置き、切っては置くの連続作業。
かなりの量が集められた。
「よ〜しシールド、もうそのへんでいい、かなり出来上がったから」
「ゴーレム様、我々の評判がまた上がってしまいます」
「いいことだろう」
「木材の用途はたきに渡るそうです。家はもちろんのこと、橋、道、看板、その他にも注文があるとか」
「忙しくなるのは町の人に信頼されることに繋がる。不信感が増えれば、我々は人族とは一緒には暮らせない。人族とともに暮らす方法は信頼されていくしかない。木材は人族が必要としているし、その分喜ばれるわけだ」
「冷は私達に新しい道をくれた。魔族であるがゆえに人族とは犬猿の仲だと思い込んでいた。絶対に知り合えない仲、永遠に理解できない仲。しかしそれは勘違いだったとしたら。冷は人族と魔族がお互いに理解できると知っていたのだとしたら。魔族の歴史に全く新しい歴史が書き加えられる」
ボーガは魔族の歴史が今、変わりつつあると感じていた。
ギャンも同じで、
「人族が我々を恐れずに会話してくるとは、夢にも思わなかった。誰にも教わらなかった事実だよ」
しかしシールドはある考えにたどり着くと、
「しかしだ、私が教わった魔族の歴史にはこうある。遠い昔、淫魔族が魔族を支配していた。魔族の王であった。魔族だけでなく人族もいて、人族とも仲良かったと。人族の中には後に勇者と呼ばれる者もいた。そして神族である女神もいたと。三者はとても仲が良かった、だが三者はケンカして仲間割れしたと書かれてある。つまりは元々は魔族は人族とも仲良くできるのだろう」
シールドはこの世界の歴史を習った通りに言った。
それはアリエルが冷に伝えた歴史と同じ内容である。
「しかしケンカしてしまいそれ以後、人族とは戦いの歴史。血で地を洗う歴史になった」
「もしかしたら冷には以前に歴史にあった状態に魔族を戻そうとしているのかも。魔族と人族との間にある距離感をなくそうとしている……」
「どうかな、冷は我々には分かりきれないところが随所にある。そこまで考えて行動しているのか、何も考えていないか、どちらかだろうな」
ゴーレムは冷に期待したいが、案外何も考えていないのもあり得た。
冷には不思議な掴みどころのない部分がある。
考えたらキリがない。
「考えるのはよそう。考えてもわからないし。それよりも依頼を終わらせよう」
「はい、ゴーレム様」
「もう終わります!」
「終わったら商業ギルドに報告をしてこよう。報酬もあるだろうしな」
依頼分の材木は作業を終えた。
依頼された材木屋に届けて終わる。
材木屋は驚くしかない。
「ええっと!!! もう終わったのかい!」
「見てのとおりです」
大量の材木が綺麗に加工されてあった。
「あ、あ、あ、あありがとう、また頼むよゴーレムさん」
「どうぞよろしく」
ゴーレム達は材木屋にお礼を言われて微笑む。
材木屋から評価されたのが嬉しいからであったが、材木屋は評価できなかった。
評価するには範囲がある。
材木屋の考えてる範囲をはるかに超えた速度と完成度、美しさに評価の範囲を超えていて、混乱していたのだった。




