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ヤリッチの部屋からの出発となり、冷が扉を開けて出ると兵士らは、緊張感に包まれる。
冷を監視するのが役目だからで、
「あれ、冷さん、こちらは魔商人ヤリッチさんの部屋のはず……」
「大丈夫です、これから王都に出発します」
そしてヤリッチとアリエルが出ると、兵士らは役目を果たしていなかったと感じる。
そして極めつけはルテリ、ルクエ、ルビカが出ると、
「ルテリ様、なぜ、こちらはの部屋から……」
「あなた達は、監視してたの?」
「…………申し訳ありませんルテリ様……」
「まぁよい、王都に出発するとお父様に報告をしなさい」
「はい」
兵士は慌てて報告に行くが、ヤリッチの部屋に集まる理由はわからないでいた。
まさかあの様な夜を過ごしたとは、想像もつかない。
普段は落ち着きのあるルテリも、この時だけは平常心でなかった。
もしかしたら、兵士は夜を過ごしたのを気づいていると思ったからで、顔を少し赤くしていた。
出発する前に伯爵が三姉妹を見送る。
城の庭には伯爵と兵士が集まり、ルテリは別れの挨拶をした。
「いつでも城には戻って来れます、いい知らせを持ってきます」
「気をつけてな。冷さんの言った通り結界魔法はなくなっていた。もう秘密の入り口はない」
「エルフ族とは縁を切れるとしても、新しい関係を作ればいいでしょう、私が作ります」
ルクエとルビカは頷いて別れを告げた。
この日からシャーロイ家は新しい日を迎える。
今までの古い体質は終わる日に。
エルフ族との裏取り引きは終わる日でもあった。
スタンダード国南部を持つ名家であった貴族のシャーロイ家は新しい日となる。
三姉妹がその重役を担う。
三姉妹の活躍しだいでシャーロイ家の隆盛が決まるのは、伯爵は知ってて別れとなった。
周りの兵士は馬を用意してきて、当然であるが王都までの距離は歩ける距離ではない、当然の親切心であって、全員の分の馬を冷は頼んでいないが連れてくる。
(馬は要りませんけど)
「冷さん、馬を用意したから使ってください。もちろん馬は差し上げます」
「いいえ、結構ですよ伯爵、馬は要りません、飛行していきます」
「はぁ?飛行してですか?」
「はい」
冷の言葉に沈黙が起る。
誰も飛行して行くのを予想していなかったからで、冷はガーゴイルの翼を使い鳥に変形してみせた。
(これで説明不要でしょ)
「………鳥になれるのですね、あはははは」
伯爵と兵士は冷や汗が出る。
冷のような冒険者など見たこともないから。
「さぁみんな出発だ、俺に抱っこされろ、落ちないようにな」
「絶対に落としたらダメよ!」
「わかったよアリエル、心配するな」
「なんだか不安……」
「ヤリッチも抱っこされろ」
5人の女の子は冷に抱っこされる形で、冷も翼のある手で抱っこする。
ちょっとした飛行機のレベルとなった。
(これじゃ飛行機だな)
5人を抱っこして上空に飛ぶ。
速度は強烈に速く、伯爵達はあ然とした。
あれだけの人数を乗せて、この速度はないだろうと。
そして王都のある方向に向けて推進した。
一瞬のことであった。
もう冷の姿は見えなくなっていて、信じられない物を見たと誰もが思ったが、誰も口にはしなかった。
ヤリッチとギガースを退治した理由がわかった気がした。
これなら戦いな勝てるなと、納得させられる。
もはや人族のレベルを通り越していると確信する。
スタンダード国の南部に位置するシャーロイ城から離れて行く。
森や田畑も通り越して飛行。
必死に冷に捕まる。
離したら落下が待っているから、頑張ってしがみつく。
猛速度で飛行するルビカが、
「きゃあ〜〜〜〜〜怖いもん〜」
「ルビカ、騒ぐと落ちるぞ!」
「落ちたら死ぬもん〜」
ルビカは飛行が苦手であった。
大騒ぎしだして危ない場面もあった。
途中どこにも寄らず、ピルトをも過ぎて王都に到着し、馬とは比較にならない速度であった。
王都の城を一直線に定めて降り立つ。
あまりの速さに足が震えているのはルクエで、
「あ、あ、足が震えてしまいましたでございます」
「ルクエ、震え過ぎだ、帰りも飛行するのだぞ」
「うう、帰りもですか、怖いでございます」
「ルテリは大丈夫かい?」
「大丈夫に決まってる……」
かなり強気でいい切ったが、実際には怖がっていて、声は震えているのか周りには伝わり、冷もわかる。
(ルテリも怖がっているようだな)
城の中庭に不時着したため、兵士が落下したのを目撃する。
突然の落下に異常な雰囲気が漂った。
「何者だ!」
「ごめんなさい兵士さん、冷です」
兵士が怒鳴ると冷は名前を名乗り敵意がないと伝えるが、冷ですと伝えると魔物以上に警戒されて、
「れ、れ、れ、冷さんでしたか、 どの様なご用でしょうか」
「ハンマド国王に話がある、伝えて欲しいです、内容は言ってはあるよだけど、エルフ族の国に行って、魔商人ヤリッチを倒して連れてきた、中級魔人ギガースには勝ったが逃げられたとね」
「…………はい」
冷の伝えてと言った内容はとてつもない内容であったが、冷は鈍感なためか、気にはしないし、それよりもビジャ姫に会えると考えていた。
(また姫に会えるな)




