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壁が破壊されて現れたのは中級魔人ギガースであった。
魔族のなかでも強靭な体を持つ。
肉体は最強種の巨人族の主で、人族などとは比較にならない。
ギガースの登場にサンマルは、
「ギガース様、この者が冷です。あのゴーレムやガーゴイルを倒した、我ら魔族の天敵です」
「こいつか冷は……、よくもガーゴイル、ゴーレムを地獄に落としたな、許さぬ。サンマル、チルフ、下がってろ」
ギガースの存在の前ではサンマルとチルフも霞んでしまう。
邪魔にならないように、離れて見守る。
ギガースはサンマル、チルフ両者がすてに冷との一戦で退却したと伝えられていて、冷の強さは噂通りだとわかっていた。
「待てよギガース」
「なんだと」
「キミの言ったのは間違っているぜ」
「間違っている、どこがだ?」
「ゴーレム、ガーゴイルが地獄に落ちたと言ったよな。それは間違いだ。彼女達はとても楽しんでいるよ、俺との同居生活にな」
冷から魔人にあるまじき実態が語られてギガースは戸惑う。
「同居生活とはなんのことだ。ガーゴイル、ゴーレムを奴隷のように扱い、苦しめて生かしているのだろう。人族のしそうなことだ。楽しんでいるお前だけだろ、いい加減にしな」
「違う、違う、本当に楽しんでいる。実際にゴーレムはギャン、シールド、ボーガとも俺と暮らしているし、俺の冒険者パーティーの一員さ。そして俺の彼女でもある」
何も知らないギガースには今のひと言が衝撃となった。
冷の彼女だと、ガーゴイルとゴーレムが。
それは魔族にはあってはならない事実。
「か、か、彼女だと……あのゴーレムとガーゴイルが。ありえん」
「本当だよ、毎晩、もう何回もあの2人を裸にして朝まで過ごしたのだから」
さらに衝撃のひと言がでて、ギガースだけでなくチルフも、
「魔人を裸にして楽しむ……なんて人族だ……」
「俺は魔族も人族もエルフ族も、みんな同じ扱いなんだよ。彼女にして裸にするさ。でもエルフ族を苦しめてるキミたちは許せない。もし苦しめるのを止めると約束すらなら俺は怒らない。しかしまだ続けると言うなら、戦うしかなくなる、どうするよ?」
あらためてギガースにエルフ族を開放するかの選択を迫ると、
「ふはは、そんなつまらない話で私がだまされると思ったか。お前が怖くてエルフ族を開放しろと……。中級魔人の中でも最強種の肉体を持つこの巨人族ギガースには無駄な話なんだよ、さぁ勝負しな」
「勝負、受けましょう!」
ギガースの挑戦を受けて立つ冷は、怖がらずに立ち向かっていく。
ギガースが武器を持たずに肉弾戦と判断して、冷もナギナタは使わずに武術でのぞむ。
お互いに拳での殴り合いが開始された。
猛速度に達するパンチに部屋の壁はバキバキと崩れてしまう。
(やるなギガース、重いパンチは受けたら大ダメージだ)
壁が破壊されていく中で、冷とギガースは移動しながら距離を保つ。
サンマルとチルフは危険を感じて、遠くに避難する。
冷にスキがあれば攻撃してやろうと考えたが、まるでスキがない上に、かえって邪魔になるとして離れていた。
互いにパンチに蹴りを出して、突き飛ばし合う。
「……ゴーレムと戦ってるだけはある。並みの人族ではないのは、体の痛みでわかる。魔物では太刀打ちできないわね。どうやって人族がここまで強くなれたか興味ある」
「どうもです、俺の強さを知りたいか…………俺にもわからんな」
ギガースはまだ半分以上も魔力を使っていなかった。
本気でなく様子見である。
久しぶりに強い相手と戦えて楽しんでいるふしもあって、しかしこのままでは戦いが長引く、スキルを使って短期決着することにした。
「いくら強くてもスキルなら負けない。スキルで終わらせてやろう、トルネードスネーク!」
ギガースのスキルは風属性スキルでトルネードスネーク。
両腕から渦が巻かれて勢いよく竜巻が起こり冷に迫った。
「た、竜巻か!」
竜巻が起こり冷の周りを取り囲むと、体を風で回転させて冷を吹き飛ばしたのだった。
壁に激突したが、息はある。
(もの凄い回転だ、本当に竜巻を受けたみたいだ)
壁はトルネードスネークで破壊されてしまうと、サンマルとチルフは危険なので、もっと距離をおく。
このスキルの怖さを知っているからこそ、巻き込まれたら命がないと避難した。
ついでに気絶しているヤリッチも担いであげる。
「……痛いな……トルネードか、マジで危ねえスキルだな」
「ふふ、生きてるの、褒めてあげます。あと何発生きてるのか」
トルネードスネークを連発しだすと神殿の壁、柱を徹底的になぎ倒す。
天井が崩れていくのを冷は、避けながらギガースから目を離さない。
(可愛いのに性格は乱暴だな)
危機に追いやられているにも関わらず、冷の頭はギガースの体に注がれていた。
ギガースのトルネードに、受けるしかなく、壊れた神殿内を移動して攻撃のチャンスを伺う。
(攻撃スキルで応戦するかな)




