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冷が2人の魔族サンマルとチルフを相手にしている最中、配下の巨人族10人は逃げたエルフを追いかけていて、すでに後ろ姿が見えていた。
足音が迫るのを聞いたエルフは恐怖して、
「大変、大変、巨人族が追って来る!」
「このままだと追いつかれるのは時間の問題!」
全力で走って町に向かい、町までの道は野原で何もなく、平原が広がる。
そして巨人族が速度を上げてくると、身長が高い分歩幅も大きい、エルフは目前まで迫られていた。
戦闘の経験のないエルフには巨人族の攻撃を受けたらひとたまりもない。
叫び声を上げて逃げたが、ひとりの少女のエルフが掴まれてしまい、
「ああ〜〜〜助けて〜〜」
「どうしよう!! あの子が死んじゃう!」
巨人族はチルフに命令された通り、エルフは殺してもいいとなり、その場に叩き潰そうとした。
エルフは助けてやりたいが、助ける術がなく、見ているしかなかった。
巨人族はエルフの少女を叩きつける瞬間であった。
アリエルが追いつきその巨人族に風属性スキル、シルフィードを放った。
「今のうちに逃げるのよ!」
「ありがとうございます!」
シルフィードは巨人族に命中し痛みで膝をついてしまい、エルフの少女は難を逃れた。
エルフは助かったのを気に、再び町に向かう。
巨人族の注意はエルフからアリエルに向けられアリエルは、
「あれれ、怒ってるの巨人族さん……」
アリエルは10人の巨人族に周囲を取り巻かれて、逃げ道もなくなり、ピンチを迎えていた。
最初はエルフを助けるのに夢中であったが、囲まれると自分の置かれた状況が危険だとわかる。
直ぐに巨人族のいっせい攻撃が開始され、アリエルは終わったと考えたが、冷に言われたように自分を試してみる。
巨人族からの攻撃はアリエルを圧倒する勢いであり、アリエルは防御せずに衝突を避けるように動いた。
腕力ではアリエルは敵わないのはわかっていたからで、避けるのに手一杯に。
巨人族が小さなアリエルに手こずるとアリエルは攻撃のタイミングをはからってシルフィードを放った。
詠唱時間は以前はかかっていたが、やけに早く感じる。
「シルフィード!」
巨人族に向けて放たれたシルフィードが全身を包むと、切り裂く風属性のダメージを与える。
シルフィードは複数の相手に同時にダメージを与えるのに成功したのは、範囲が広くてダメージ力も上がっていて、冷の道場での訓練が影響していたのだと感じた。
何度も詠唱して訓練し続けたのが、このダメージに繋がったのであった。
巨人族はバランスを崩して片ひざをつくのもいる。
明らかに攻撃力は上がっていた。
冷と出会った頃は魔物を見ては逃げ回っていたアリエルも、現在は成長し強烈なダメージを与えられるまでになった。
冷が見込んだアリエルの戦闘の素質は間違っていなかったのだった。
僅かな時間で急成長した。
再びシルフィードを連発し、巨人族は数人は倒れ込んでいる。
自分でも驚く程に強くなっていた。
しかし残った巨人族はシルフィードを警戒すると、近くに集まっていたのを距離を取ることで、シルフィードの攻撃範囲から遠のく策に出る。
お互いに距離を取ることで、アリエルは打ちにくくなった。
「シルフィード!」
それでも放ったところやはり全員の巨人族には攻撃は届かなく、しかも弱まっていった。
こうなると複数人いる巨人族が有利になる。
そこからはアリエルは追い詰められていき、倒すのは困難になり、アリエルが逆にダメージを負ってしまった。
巨人族の攻撃にこのままでは耐えられそうにないアリエルは険しい顔になっていた。
*
工場付近では冷はサンマルとチルフとやりあっていた。
あれだけ打ったのに冷はダメージがないのに驚くしかなかった。
「……あれだけ打撃を与えたのに、まだ立ってるとは、どういう体をしているんだ」
「ふふ、俺の体は特別なんだよ、鍛え方が違う、今度は俺の攻撃だぜ」
冷はサンマルに向かって打撃を始め、先ほどよりも力を上げて攻撃した。
最初はマックスパワーではなかったのである。
猛烈な打撃力にサンマルは防御をしたが、耐えきれなくなり吹き飛んでしまった。
「ぐわぁ〜〜」
「サンマル〜〜〜!」
「おっとチルフさん、よそ見は危険だよ」
「うわぁ〜〜〜」
チルフがサンマルに視線を移した途端に冷の攻撃を浴びてしまった為に、体ごと伏せてしまった。
冷よりも大きな体をしているチルフも、関係なくダメージを受けた。
冷の反撃に完全に負けたかのようにみえたが、そこで終わる2人ではなかった。
立ち上がるとダメージを受けても戦える体であり、まだ冷との戦いに意欲を感じさせる。
「ふふふ、冷よ、中級魔人ガーゴイルやゴーレムを倒したのは嘘ではないようね。我々も本気で戦わなくてはならないようだわチルフ」
「そのようねサンマル、お願いします」
チルフはサンマルにお願いしますと言ったのが冷には引っかかった。
(お願いしますって言っよな、何だろう)
サンマルの方はわかったとばかりに頷くと、魔力を溜めていき、莫大な魔力の上昇が始まった。
(魔力を使うのか……)




