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「では商人レイールと魔術士アリババさん、よろしくお願いします」
「ヤリッチさん、ぜひ期待していてください」
冷とアリエルはヤリッチと別れて目的の工場に案内される。
途中ではエルフ族が珍しさから冷に注目がいき、誰なのかとなる。
エルフの国に人族が歩くの自体が珍しい。
入国さえ難しいのだから、人族を見たことないエルフも多数いた。
アリエルは怪しまれないよう魔術士の振りをし、周りを見ないように気を配った。
しかし冷は怪しまれないどころか360度見回した。
(おお〜、こんなに多くのエルフがいる〜、みんな可愛い子だらけだな)
アリエルが知ったら激怒するのは確実であり、工場まで冷は大いに楽しんだ。
*
広大な敷地に建てられた回復薬の工場。
国土中から集められた薬草が運ばれる。
原材料の薬草であり、エルフ族には特殊なスキルで治癒系の薬を作れた。
工場には二人の責任者がおり、大勢のエルフは労働者となっていて、下級魔人である巨人族チルフ、巨人族サンマル。
二人とも魔人ギガースに従う魔族である。
エルフは誰もサンマルのチルフには逆らわない、必ず殺されるのがわかっているから。
工場でエルフを厳しく監視するサンマルはエルフからヤリッチに勧められた商人と魔術士の到着を聞いて、
「到着したか商人とやらは、ヤリッチが案内してきたのだから、役には立つのだろうよ。どう思うチルフ?」
「信用していいのか、人族なのだろう。話だと効果を高める魔術士もいるらしい。いい結果が出ればギガース様は喜ぶよ」
「喜ぶならいいか。別に商人と魔術士が2人できて、暴れてもたかが知れてるし」
「うん、私とサンマルが居れば大きな問題には至らないよな。回復薬の材料が足らないから、人族との取り引きを増やす計画だ。もっと忙しくなるぞ」
「チルフ、いつもの農園の仕事に取りかかろう」
「うん」
チルフとサンマルは工場の外にある広大な敷地に向かうと、農園が広がっていて、回復薬の原材料の薬草が茂っていた。
サンマルが農園の中に立つと魔力を溜める。
そして農園に散りばめるようにしてスキルを放つ。
「ハイパーアップ!」
これはサンマルの得意のスキルで、薬草に効果をもたらす。
効果は成長促進があり、薬草の成長が驚異的に早められる。
スキルによって収穫が何倍にも期待できる。
続いてチルフの番となる。
チルフもまたスキルを持っていて、サンマルの後に農園に放つ。
「ウェザーポイント!」
チルフが放つとそれまで晴れ渡っていた空に雨雲が生まれて、多量の雨が降り注がれる。
チルフのスキルは雨を局所的に降らせるスキルで、農園の薬草の成長に欠かせなかった。
2人の仕事の成果で薬草は成長して、収穫するのはエルフの仕事となっていた。
*
農園に到着した冷とアリエルは、中に案内されサンマルとチルフに会った。
広大な農園を前に冷はびっくりしていた。
(すげぇ広いな、見渡す限り農園だな)
冷が農園の規模に驚いていたところにサンマルとチルフが登場した。
サンマルは冷を見て若い商人だなと思い、
「キミが商人のレイールだろ、そして魔術士のアリババか。私はサンマルだ。この農園と工場を取り仕切ってる、早速だが魔術士に工場で仕事を頼みたい。こちらも忙しくてな」
「レイールです、よろしくお願いします。アリババには直ぐに働かせます」
「私はアリババ、よろしくお願いします」
女神なのになぜ頭を下げるのかと不満があったが、挨拶した。
「私はチルフ、魔術で効果を上げるのを楽しみにしてるぞ」
「はい、お楽しみを」
「それとだな、人族が今までこの農園には入ったことはない。それは秘密だからだ。わかっているな、人族の国に帰ってもこの農園の件は誰にも話すな、全ては秘密にしろ、それが農園に入る条件だ」
「全て秘密にします」
「秘密にします」
「言っておくが、私とチルフは巨人の魔族だ、エルフ族ではないのは見てわかるだろ、変な気を起こすと死ぬことになる、わかってるな……」
サンマルに脅すように言うと冷は、
「いえいえ、問題など起こす気はありません。商人ですから戦いの経験すらありませんので」
(巨人の魔族か……確かに俺よりも背が高い)
「それならいい、早く行け」
サンマルに言われて冷とアリエルは工場に向かう。
冷は巨人族の魔族を初めて見て身長の高さが高いのに驚いてしまうが、感心したこともあった。
(巨人族のサンマルとチルフは可愛いな、身長の高い子はスタイルが素晴らしいな)
巨人族の魔族を前にしてもこの余裕であった。
しかし余裕でいられたのはここまでで、工場に来た目的はズバリ、破壊にある。
人族の体力値を低くしてしまう回復薬を知ったからには破壊するしかない。
(目的は決まっている。破壊するんだ)
工場に到着し、外観は長く伸びた建物、正しく工場と言える。
(デカイな、俺が思っていたよりも数倍、いやもっと大きいぞ)




