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スキルと職業が決まり冷の気持ちは固まっていた。
「超絶ウルトラレアなスキルストレージの能力者。それでも即死しかねない。それが最悪の地よ。お願いしなんだけど、命の保証はないからね。今までに何百人と転生させてほぼ全滅、死んでしまった」
あえてアリエルは意地悪く言った。
なぜならアリエルが言う理由には異世界がとても危険な魔王や魔人がいるからである。
例えスキルストレージを持ってしても即死する可能性があるとみていた。
いや即死はまぬがれないと思った。
「俺を誰だと思ってるアリエルさんよ。俺は世界最強の武道家である冷だぞ。使いこなせない物はないのだ」
冷の実力はわかってはいたが、それでもアリエルは生きていけるかは疑問であった。
「とても最強には見えないけど」
「甘くみるなよな俺を。それよりもほとんど死んでしまったと言ったな。生き残る奴もいるってことだろ?」
「いいえ、生き残ると言うのは意味が違います。魔人が怖くなってしまい、冒険者を辞めてしまった者のことです。例えば農家に転職したり、釣り人となったりと」
「……」
アリエルは厳しく冷に言い放ったが、その話は事実であった。
実際に一兆個ある異世界転生地の中で最強レベルの難易度を転生地であり、適任者がいないのでアリエルも困っていた。
冷はまだ若く、三日で死ぬ可能性もある。
一週間もてば優秀なくらいである。
それでも冷を選んだ理由として、冷の潜在能力であった。
神の目利きから見ても恐ろしい程の潜在能力を感じたからで、この冷しか適任者はいないと思ったのだった。
「そこで冷にはもうひとつ差し上げます。異世界に転生した際に必要な武器を。初心者の冒険者では手にできない武器をね。そうしないと即死しちゃうからです。あなたは今までに武術を使う経験があったから、武器には早く馴染めると思うわ」
[神物想像]
最高位の武器、防具、道具を作り出せる能力。アリエルのみ使用可能
アリエルは両手を前にかざした。
アリエルには神物想像という能力がある。
とても危険な転生地に送る際にだけ特別に配慮してプレゼントしていた。
アリエルなりの神族としての思いやりでもある。
そうしていると手に武器が現れた。
「これが冷への私からの贈り物よ、はい」
パッとみて何のへんてつもない武器と思えた。
それを冷に手渡す。
「これは……ナギナタだ! 俺はナギナタを最も得意なんだ。よくわかったなぁ」
冷はナギナタを使い幾多の名のある武道家を倒してきた経験があった。
その経験が関係してナギナタが生み出されたのだ。
しかしそのナギナタは神物想像の武器であるからして、普通のナギナタではなく、絶対に折れないという怪物級のナギナタであったが、当の冷はまだ知らないでいた。
(なかなか良さそうなナギナタだなぁ。手にもシックリとくる。素手でも戦えるけど武器があれば、戦いに幅ができる)
「これで準備は終わりです。では異世界へと旅立ちを。魔王を倒して平和をもたらしてください。さもないと全ての異世界が消滅しかねないのです。全ては冷にかかってます」
「話はわかったけど、その魔王ってのは強いのかよ?」
「強いていう枠を超えた存在とだけは言っておきます。現在は眠っていますが」
「眠ってるなら怖くないだろ」
「違います。過去に魔王は異世界にいる勇者と言われる伝説の者が魔王と戦い、激闘の末に封印に成功した。だから死んではいなくてまた復活する恐れがあるの。それも近いうちに」
「だったらまた勇者に頼めばいい話だよな」
(俺が必要なんて嘘じゃないかよ)
「もうとっくに死んでしまいました。それに魔王はひとりだったのです。もう2人の魔王がいるのですが常にバラバラの時代に出現していた。それが今回は3人の魔王が同時に目覚めると噂されてる。そうなったら手に負えない。もうジ・エンドです。簡単に説明しましたが、要は魔王を復活させる前に止めちゃえばいいってこと。では冷、ヨロシク!」
冷の了解とは別に、ほぼ一方的に説明をした。
アリエルが説明すると異世界への扉が開いた。
後は冷が扉を通過すれば終わりである。
しかし冷は別の次元の考えをしていた。
異世界への不安などまったくなく、アリエルの事を考えていたのである。
(その言い方だと、完全にブラックバイトだよな。このまま異世界に行ったらもうアリエルには会えないよな。それはちょっともったいない。こんなに可愛い子が見れなくなる。それならば……)
冷はアリエルが大変に気に入り、寂しくなる。
なぜなら女の子とこんなにも会話したのは生まれて初めての経験。
嬉しい経験となっていて、アリエルとこのまま別れるのが寂しく思えた。
そこであり得ないような行動にでたのであるが、扉を通り過ぎるその瞬間にアリエルの腕を掴んで引っ張るという道連れ行為であった。
「えっ! 何をするのです冷!!!!」
「へへ、一緒に連れて行くぞ!!!」
なんとアリエルごと扉を通り越してしまった。
本来ならそんなことは不可能であるが、冷の武道家の俊敏さは通常の人の速さではなく目にも見えないたとえ人間だろうが神だろうが、反応すら出来ず見逃すしかなかった。
アリエルは冷の武道家の能力を甘く見過ぎていたのが、失敗の始まりだったわけで、もう転生したからには今さら後戻りは出来なかった。
扉を抜けるとそこはもう異世界の地。
(ここが異世界か。どんな風かな)
異世界に冷とアリエルは降り立っていた。
降り立っていたのだが冷は地面に尻もちをついていた。
冷の脇にはアリエルもまた尻もちをつく。
両腕で抱え込むようにしていて、胸を掴んでいたのだった。
「ちょっと冷、どこ触ってんの!!」
「あれれっ!」
アリエルは異世界に来た途端に胸をもまれたことにびっくりしていた。
だが冷が抱え込むことによって着地が和らいだのも事実であった。
「悪い悪い……貧乳だけど気持ちいいな触ると」
(うわぁ、触っちゃったぞ〜〜。貧乳て奴みたいだけど、やっぱり連れて来て正解だ!)
生まれて初めて触る女の子の胸の感触をたのしんだ。
着いた地は見た感じ森の中といった風景である。
よくあるファンタジーゲームで見る森が生い茂っていた。
「ちょっと!!!冷。何考えてんのよ!! 仮にも神族である私の大切な胸を触るなんて許せません行為です! しかも貧乳ですって!! さらに私まで連れて来て!」
森の中にアリエルの罵声がとどろいた。
「いやさ、最初は俺がひとりで不安だから居てもらうつもりでさ。慣れてきたら帰っていいよ」
冷は本心であった。
「ふざけてんじゃない。帰れるものなら帰るわ。帰れないから言ってるのです!!」
「えっ……。送る能力があるのだから帰る能力だってあるよな」
普通はそう考えるだろう。
送れるのだから帰れると。
「ない!!!」
本当になかった。
そもそも送る能力はあるが、アリエルは異世界に自ら行く必要性がなかったから、帰る能力など持ち合わせていないのである。
冷はその辺の事情を知らず起こした珍事となった。
「本当なのよ冷。つまり私は異世界に居続けるのよ。最悪だわ……なにせ一兆個ある異世界転生地の中で最も劣悪で死亡率が高く割が合わないのよここは。どうしようかしら……」
アリエルは半分泣きそうな顔になる。
ハズレくじを引いたかのように途方に暮れた。
しかしアリエルはある考えがあるからで、直ぐに平静を取り戻していた。
「慌てることはない。私は仮にも神族。そこらの冒険者とは次元が違うのだ。私のレベルは99億なのだ。これなら魔王とさえ出会わなければ死ぬこともないでしょう。ホッとしました。念のため確認してみま〜す」
アリエルは笑顔を取り戻していた。
神族は特別な存在でありレベルも99億と桁違いのレベルに達していた。
そこでアリエルはステータスを確認した。
「あれれ? おかしいわ! なんでレベル1なのよ〜」
アリエルは自らのステータスを確認し、レベルが1だと判明し慌てた。
アリエル
性別 女
種族 神族
職業 女神レベル1
ユニークスキル
神物想像
固有スキル判定
体力 1000
攻撃力 1
防御力 1
魔力 100
精神力 1
素早さ 1
がっかりと肩を落とし、もう人生の終わりといった残念がりであった。
しかしレベル1とあっても初期ステータスは人族のステータスとは比較にならないほど高い。
体力は1000あるのでまず死ぬことは考えられなかった。
(どうやらレベル1だったようだな。俺と同じだな)
「そぅかぁ〜〜〜。異世界に転移した者は必ずレベルは1から始まるのだった〜〜忘れてた最悪だわ。それも全部、冷の責任だ!!」
「いや〜〜ごめんなさい〜〜〜〜」
つまりは冷、アリエル2人ともにレベル1からの出発と決定したわけだ。
慌てるアリエルは冷に対して冷たい視線を送るも、当の本人はというと。
(帰れないてことは、この胸をまた触れるかもなあ。ラッキ〜〜〜〜)
この調子であった。
最悪の転生地。
神族を引き連れ、最強の武術と最高位の武器ナギナタをもち、晴れて冒険者スタートすることになったのであった。