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あまりの揺れの大きさに地面は割れる部分も現れて、丘の下の魔物は恐れだした。
前回は耐えられる範囲であったので、戸惑う冷。
「これじゃまともに戦えないだろ……」
(前回のがマックスではないとは思っていたが、ここまでの揺れだとはな。どうするか、不安定過ぎて攻撃も防御もろくにできない)
冷が対応に戸惑っているのをみてゴーレムはチャンスとなり、冷に接近する。
冷に拳での攻撃をすると、反射神経で冷は防御した。
並みの冒険者ならこの一発で終わっていた。
「危ねえパンチもってるな」
「よく今の一発で死ななかったのは、さすがだな」
「これが魔人の力か……」
(俺も本気でいかないとマジで死ぬわな)
冷は防御を続けながら、反撃して拳と拳のぶつかり合いになる。
ゴーレムの拳はとても重く破壊力は魔物など一撃で殺せるだけの力がある。
冷は拳の戦いでここまでのせめぎ合いは初めてであった。
(だが俺は拳での戦いでは負けません)
冷とゴーレムは拳、蹴りでの打撃戦が活発となる。
ゴーレムは互角に打撃戦をしたのは初めてであったが、勝てると考えた。
いくら凄腕とはいえ、しょせんは人族の者。
魔人とやりあえるには無理があると。
鋼鉄製の鎧を身に着けているのもあり、攻撃からのダメージは、ほぼ無い。
たとえ受けても多少のダメージ程度に終わるのが過去に戦った相手であった。
魔人に戦いを挑んできた人族はいた。
とても勇敢な冒険者などである。
それらは歴史上で、ゴーレムとの戦いで、全員生きて帰ることはなかった。
100パーセント死んでしまうからである。
人族側もそれを知ってるので、あえて無謀な戦いは避けるようになった。
死にに行くようなもので、わざわざ死にたい冒険者はいない。
傷一つすらつけることさえ出来ずに終わる。
今回も同じく傷一つつかず終わらせる予定であるのに、ゴーレムの予定はうまくいかなかった。
冷との戦いはいっこうに決着がつかず、冷の武術に驚いてしまう場面もある。
数人しかいない中級魔人のひとりと言われたゴーレムからしたら、あり得ない連続が起こった。
冷の体をみるとダメージがついていないのだった。
当たっているはずのに、意味がわからない。
どうしてか冷はダメージが感じられない。
理由はあり、冷の防御力が異常なまでに高められていて、攻撃を受けてもダメージは半減されていた。
それに当たっているようで、寸前で当たっていなかったのをゴーレムは見落としていた。
長期戦になるかと思われた時に冷は楽しくなっていた。
(ゴーレムて強いな。さすが魔人てだけはある。戦っていてわかる。恐ろしいほどの強さ。こんなにつよい相手と戦えるなんて滅多にないだろうよ。けどこのままだと決着はつかないだろうから、ここで俺もスキルを使おう、烈火拳を使ってみたい。打撃戦にはとても有効であるからな)
冷は戦いの最中にスキルを放つ。
拳の先が赤く燃え上がり拳の破壊力は数倍にも達していた。
「な、な、なんて技だ!」
「これは俺のスキル、烈火拳です、知ってますかね」
(サイクロプスのスキルだからわかるかな)
「烈火……なるほどサイクロプスから取ったスキルか……。相手からスキルを取るとは、恐ろしいスキルもあるもんだ」
ゴーレムは仲間であるサイクロプスのスキル、烈火拳をこの目で受けてみて恐ろしいスキルであるとわかった。
実際は冷の拳闘術がサイクロプスをも上回っていて、烈火拳の力は増していた。
ゴーレムは防御をした。
しかし冷の攻撃が次第に増していき、押される形となる。
やがてゴーレムは烈火拳に押されて後方に下がるしかなくなり、いったんは形勢を立て直すことにした。
「烈火拳か、手強いスキルを出してきたな」
「これだけじゃないよ俺は」
「なんだと……」
ゴーレムは距離をとって立て直すはずが、冷には効果はなかった。
すかさずに別のスキルを開始したからである。
(俺のスキルはまだまだあるのだよ、次はどうするかな。距離を取ったなら、遠距離スキルでいこう。ウインドキルなら問題なく届くはず)
ウインドキルのスキルを開始する。
これは同じく魔人であるガーゴイルから取ったスキル。
冷は全身の体毛を針に変えてウインドキルを放った。
針はゴーレムの鋼鉄の鎧に突き刺さった。
「ううつうう……」
「どうだいウインドキルは? これも知ってるでしょうか」
「ウインドキル……なるほどガーゴイルのものか。まさかガーゴイルのウインドキルを受けるとは考えもしなかった。悔しい、悔しい、仲間である魔人の攻撃を受けたみたいで、腹がたったぞ!」
ゴーレムは冷と戦っているのに、まるで仲間と戦っているように感じ、怒りがこみ上げてきていた。
サイクロプスもガーゴイルも、とても仲が良くしていた記憶がよみがえり、冷に怒りを感じたのだった。
ゴーレムの鎧は高い防御力を有しているので、生半可な攻撃など受けつけないのだが、ウインドキルの効果は高く、鎧を貫いていたのでかなりのダメージを負っていた。
さらに冷の攻撃は続いた。
(次はどうするかな。今のはかなりダメージあったようなので、スキがある。今ならアイツのスキルをおみまいしてやろう。ライトブラストでいこう!)
冷はゴーレムから取ったスキル、ライトブラストを開始した。
雷属性のスキルであり、雷光がほとばしった。
「ライトブラストで終わりだよ、ゴーレムさん!」
「ライトブラストだと…………………………」
ゴーレムは次に来たスキルが自分のスキルであることを知り、ムカついた。
怒りは頂点に達していて、魔力はマックス値にまで達する。
ゴーレムもまた同じくライトブラストを使うのを選択。
どちらのライトブラストが上かを証明してやると。
「……………………ライトブラストならライトブラストで!」
ライトブラスト同士が激しくぶつかり合う。
強烈な光で周辺は明るくなる。
地面から雷が分散されて魔物達は感電して気絶するのもいた。
「マジっすか!」
冷はライトブラストの閃光で目が奪われていて、目を閉じてしまった。
ライトブラストは互角かと思われたが、ゴーレムのライトブラストが僅かに上回る。
力負けした冷のライトブラストは消えてしまうと、ゴーレムのライトブラストが冷に迫っていた。 どんなに速く動けても雷光には敵わない。
冷はライトブラストを受けてしまうと、全身に雷が伝わり感電した。
「うわぁ〜〜〜!」
(こ、こ、こ、これって感電ってやつですか? ヤバイだろこれ、死ぬぞ)
いい感じで押していた冷。
魔力がマックスになっていたゴーレム。
相性が悪かった。
冷の失敗は調子づいてゴーレムのスキルをむやみに使ったのがある。
それがゴーレムの怒りを結果的に誘い、ライトブラストがマックス化されていたので、冷は負けたのだった。
「あはははは、私のライトブラストを使ってみたいから使ったか。本物のライトブラストには手も足も出まい! うかつだったな冷、魔人に対して失礼な攻撃である。少しは反省するんだな」
「ううつうう……体が痺れているよ。こんなに痺れる技とは知らなかった。受けてみてわかったけど。確かに相手のスキルを使うのは失礼かもしれないが、戦いは強い方が勝つ。相手のスキルだろうが、誰のスキルだろうが関係ないよ。強い方が勝つんだよ」
「よく話せるものだ。そんなに感電して普通なら即死のレベル。それを生きて話せるのは褒めてあげよう。なぜならライトブラストを受けて死んでいない人族は、いなかったのだから。魔人を倒して名を上げてきた冷はここで終わる。冷が死ねば、やっぱり魔人には戦いを挑んではダメなんだと誰もが思うだろうよ。人族どもに思い知らせてやる」
ゴーレムは冷に死を与える宣言とも呼べる言い渡しをした。
冷に近寄ると再びライトブラストを送り込む。
手から雷光が放たれると冷は非常に危険な場面となった。
考えている余裕がないし時間もないが、このピンチを切り抜ける考えられる方法はスキルしかない。
そこで冷は水の壁を作ることで対処してみた。
「水の壁!」
(とっさに作ることになったが、ライトブラストだとまた負けるだろ。壁ならまだ増しかなと)
冷は難しい考えはせずに水の壁で対抗した。
その結果はゴーレムは、
「なに……ライトブラストが効かない!! なんだその壁は、それもスキルで作り出した壁か」
「危ねえとこだったよ。とりあえず作った壁のおかげで助かった。俺には色々とスキルがあるんだよ。防御系のスキルもあったりする。攻撃だけだと思ったら間違いだよ」
ゴーレムはマックスで出したライトブラストが壁に弾かれてしまい、取り乱れてしまった。
魔力がマックス値でのライトブラストが効かないとなると、厳しい局面になるから。
冷は逆に有利となった。
水が雷に相性が良かったのもある。
事前に冷は知らなかったが、感で使っただけなのだが、それは冷の戦闘の感の鋭さと言っていい。
(全く考えてなかったけど、思いつきで出してみた水の壁がかなり有効だったようだ。雷に対して水が効いたのかもしれない。これは試してみないとわからない結果だな。偶然にもいい結果が出て満足としよう。これでゴーレムからのライトブラストはそれ程怖くはなくなったわけだ。まだ体が痺れているけど、今度こそこちらから攻撃していきますよ)